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妖精の輪っか  作者: ゆーれい
第1章 めざめの森
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星の降る夜

――――寝ちゃってたか。


 それも感覚的に結構長い時間。上を向いてる。でも瞼の奥は真っ暗だ。まあ、それもウロの中じゃ昼でも暗いから当然だ。

 そして、花のような香りに温かい肌の感触。どうやら誰かに抱かれて眠ってるらしい。直の素肌にこの大きさ、ネメシアさんでもないし、スノーでもない。だれかなあ。微睡んだ頭を冷ますようにヒュウッと風が起こる。


……風?


 バッ、と体を跳ね起こす。周りを見渡すと、辺りは暗い。でも遠くまで見渡せる。モノトーンの草木が私を取り囲んでいた。


 外だっっ!!!


 何で!??

 反射的に立ち上がろうとすると、首根っこを捕まれた。

倒される!


「おっとぉ」


「きゅぅあ!」


 パニックになり、手足をブンブン振り回すと、手はちゃちゃっと捕まえられ、後ろからガチッと足は絡めとられる。

 動けない!何!?


「よくみなって、そんな暴れる広さじゃないぞーここ」


 背後から裸締めをしてきてるのはポピーだった。チラ、と下を見ると、それは葉っぱだった。畳2畳くらいの小さいもので、瑞々しい。生きてる。

 木の葉っぱの上だ。さっきの騒ぎで足元がゆらゆらしている。下のほうは夜の帳に隠されて全く見えない。ただ仄暗い闇が眼下に広がっていた。

 サーッと顔が青ざめる。細っこい葉柄に支えられた狭い葉の上で、体感何百メートルの高さにいる。それも下がどこまで続いてるのかは見えない。

ポピーにぎゅうっと固く抱きついて叫ぶ。


「どこ!お、おろしてえ!」


「ほおら、あぶないあぶない。ポピーおねえちゃんがいるから安心だよー!」


 こちらの内心なんて何も知りもしないポピーはどこ吹く風であやしてくる。まだ揺れの収まらない葉の上じゃあ動かせるのは口だけだ。手足は自分からポピーに巻き付きに行ってしまっている。


「そおじゃない!かえしてぇ!」


「まーまー、おとなしくしててよ」


 ひもなしバンジーをやるハメになんてなりたくない!

 それに夜の森は危ないってじいちゃんが言ってた!今のこのちっこい身体じゃ尚更だ!帰りたい!


 目をかたくつむってポピーの胸元に顔を寄せようとすると、なぜか今度はそれを剥がそうとしてくる。さらにひっつく。剥がす。

 さっきと立場が逆転してるようなことをしていた。


 繰り返してると、ポピーが「ああもう!」と言って私をぐりんと仰向けに戻してきた。


「そうじゃないの!上だよ!上を見て!」


「やぁ!帰る!」


「いーから見るの!」


「ぶふぅっ」


 とうとう顔を掴まれて上をむかされる。

 上なんてそんなの空くらいしか……っ!


「っ!」


 まるで知らない光景がそこには広がっていた。

 夜空に瞬く星たちはクリスマスの電飾のように赤、青、黄と鮮明な色に染まっていた。そして色とりどりの星粒が天球一面に広がっている。さながら宝石箱の中身を夜空にぶちまけたようだった。


 絶景。ただただ絶景。私の口から漏れるのはただ一言だった。


「……きれい」


「でしょ?」とまるで自分のことのように自慢するポピー。ニシシ、と笑っている。


 そして、ポピーと肩を並べて天上を望む。ポピーの腕枕をする手がお腹に回ってしっかりわたしを支えてくれていた。2人でただ星を見て過ごす。

 やがてポツリポツリとポピーは語り始めた。


「アタシにもね、妹がいたんだ」


「え?」


「しってる?アタシたちはみんな双子で生まれてくるの。アタシはシャーレイポピー、妹はカンナオランジュ。2人ともそっくりさんだって言われてたなあ」


「……うん」


「でもあとはなんも似てなかった。アタシは人一倍元気だったけど、カンナはからだが弱くて、外に出ることもできなかった」


「……病気、だったの?」


「うん。そう。精霊様にいっぱいお祈りして、ネメシア様にずっと一緒にいてもらったの。でも夏がくるまでカンナは……」


 ……亡くなったのか。

 彼女の締め付けられるような悲しい気持ちが腕を通して私の心に伝わってくる。でもポピーは泣いてはいなかった。


「アタシずっと思ってることがあるの。アタシがカンナの分まで元気を吸いとっちゃったから、カンナはいなくなっちゃったんじゃないかって」


「……そんなことない。ポピーはわるくない」


 そう言うとポピーはそうじゃないんだ、と返す。


「カンナはいつも元気なアタシが好きって言ってくれた。だからアタシはいつでも元気でいられたの。それはリリーも同じ」


「わたし?」


「カンナはいまでもアタシに元気をくれる。だからアタシはだいじな妹のリリーにも元気をあげたいの。だってアタシのなんていくらでも湧いてでるんだから!」


「もちろんスノーもね!」とつけ足す。


 彼女の屈託のない明るい心が伝わる言葉だった。

 今まではただのわんぱくな子供だと思ってたポピー。でも彼女には妹の死を乗り越え、大事なものを知る正しいこころがあった。その小さな身体で、この大きな世界を彼女なりに受け止めているのだった。

 彼女の普段とは違う、その優しげな顔つきは子供なのにお姉さんのようにすら見えるようだった。


 彼女の振る舞いに拙い言葉でもなんとか返したくなる。


「わたし、虫がこわいよ」


「だいじょーぶだよ、あのこたちはつっついてもおとなしいから!」


「高いのもこわいよ」


「すぐ飛べるようになるし、だいじょーぶ!」


「……食べられちゃうかも」


「アタシが守るよ!」


 ポピーが自分の平たい胸をドンと叩く。星夜の下で映るその顔はいつもの通りの自信げな顔だった。


 すると、ポピーが空に向かって指を指した。


「ホラ、はじまるよ!これをリリーに見せたかったの!」


 言われて上に向き直ると、そこにはさらなる絶景があった。


 天頂から黄金の矢が降ってきている。流れ星か。いや違う。本当に手を伸ばせば触れられそうな高さまでキラキラが尾を引いて落ちてきてるのだ。遥か高みからこの近くまで、降り注ぐ金のシャワーが彩り溢れる星々をバックに降り注いでいた。


「はぁ~」とほうける私にポピーは大興奮でまくしたてる。


「すごいでしょ!お月さまのない夜だけたまーにこれがくるの!こんなのが他にもたくさんあるのよ!キレイな場所!アタシの秘密基地!カワイイ生き物!全部リリーに教えたい!」


 いつの間にか握りあっていた手をポピーがさらに強く握りしめる。


「だから、リリー!暗いほうばっか見るなんてもったいないわ!だってすぐ近くにこんなステキなものがあるんだもの!」


 彼女の言葉が私の胸に深く響く。そして、その反響は胸をせり上がり、喉を通り、目尻から溢れた。長らく流すことのなかった涙だった。

 大粒の涙がとめどなく流れ出て、止まらなかった。でもそれを拭くことも瞬きすることをできなかった。このかけがえのない時間を一瞬でも無駄にはしたくなかったから。

そんな永遠の夜を私たちは過ごしたのだった。



――――去来する思い出があった。小学生の頃、一番の親友と深夜に山頂まで行って天体観測をした思い出。

今と同じようにあの時も星を見て、想いを語り合って、絆を確かめ合った。もう二度とできることのないあの頃の友達。あの時間。今再びできたんだ。




 この日、ポピーと私は心の通い合った友になった。


 そしてこの日が真に私が妖精として生きる日々の始まりだった。

第1章目覚めの森編でした。

ここまでが実質物語のプロローグ、これからが始まりです。


ちなみに妖精の涙は体の大きさの関係で、とてつもない大粒です。

ジブリ泣きで想像してもらえればいいかと。


今後ともよろしくお願いします!

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