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妖精の輪っか  作者: ゆーれい
第2章 湖畔の子供たち
17/22

秋、初めてのおつかい

 みんな広場に集まってね、と朝イチでネメシアさんから召集のお達しがかかる。あー、とか、もーそんな時期かー、とかみんなの口々から残念そうな声が漏れる。なんかみんなはなんの用か分かってるみたいだ。わからないのは私と、スノーだけ。


「いったい何が始まるの?」


 分かってそうなポピーに聞いてみる。どうにも人一倍うがー、とうなだれている。


「あーあ、まだまだ遊び足りないんだけどなあ」


 ポリポリ頭をかきながらボヤくポピー。そしてうんと一つ大きく伸びをすると、言った。


「しーていうならおつかいがはじまるのかな」





 しゃらん、しゃらん。ネメシアさんの持つ一房の白い実たちが、振るたびに涼しげな音を奏でる。鈴なり草を手に、ホップ、ステップ。不思議なリズムで足を動かしていく。蔓の冠をかぶり、手首足首には粒石のブレスレットをつけ、複雑な唐草模様の刻まれたベールを身にまとっている。普段の簡素な一枚布とは大違いの晴れ着、それを身に着けて彼女は祈り、奏で、踊っていた。


 かれこれ三〇分くらいかな、綺麗な人がダンスしてるのは見てて楽しい。この儀式の名が勤労安全の祈祷だとか聞いたときには逃げ出したくなったけど、みんなが朝の全校集会みたいにお行儀よく体育座りで鑑賞してるし、私もそうする。こうして見てると民族舞踏とか日本舞踊とかに似てるかな?バレエなら欧州好きの母とよく鑑賞会に行ったから分かるのに。


 やがてネメシアさんの動きが緩やかになり、足が止まった。そして両手を胸に合わせて一礼。

 流れる水のような美しい踊りに万雷の拍手を送りたい気分だった。そんな風習ないみたいだからしないけど。


 ネメシアさんは少し弾んだままの息を整えつつ、使った装飾品らを外してそこらにばらまいてく。そのまま捨てるのかな、まあ自然由来だしいいのか。鈴なり草とか言ってしまえばそこらの草からちぎってきただけだしね。

 そして、彼女は朗々と話し始めた。


「今日は昼と夜の同じくする日。私たち妖精の季節は終わりを迎え、また実りの季節の始まりでもあるのです。でもそれはつまり長い冬の到来ももうすぐということ。やらなきゃいけないことはたくさんあるわ」


 秋分、もうそんな時期なのか。確かに最近寝るときはより一層身を寄せ合ってぎゅうぎゅうの団子になってるしなあ。


「そこで、みんなにはちょっとしたお仕事を手伝ってもらいたいの。上の子はスノーとリリーは教えてあげてね。みんなで力を合わせて乗り切りましょう」


 お仕事、お仕事かあ…………、

 あのブラックな生活も今思えばずいぶん昔のこと。もう半年近く毎日遊び呆けてきてる。

 なんだろう。自分でもこんなんでいいのかと思うけど、びっくりするくらいやる気が出ない。


「なにするんだろう、楽しみだね」


「うーん」


 昨日の夜だって今日は何して遊ぼうとか、どこへいこう、とか考えながら眠ったんだ。なのに、朝になって突然お仕事してくださいって言われてもなあ。先約に後からねじ込まれたキブン。

 でも社会人として頼まれたのを断るのもどうかと思うしなあ。冬ごもりには相応の準備がいるってのもおばあちゃん家が東北にあったから、分からなくもないし。


 やらなきゃならないのは理解してるのに、ヘンにつっかえたとこがあってやろうとは思えない。そんな言いようのない気分になってる。昔はこういう時はちゃんとやれたのに。


 なにか、もうひと押しほしい。外からのなにかが。


 そうもやもやしてると、ちょいちょいとポピーに肩をつつかれた。いつものイタズラ小僧の笑顔だ。こっちもつられて笑顔になる。


「なードッジしようよ」


「おお!」


「ネメシア様スノーたちに教えてあげてって言ってたよお」


「あとスノーとリリーでメンツがそろうんだよう、なあ来なってさー」


「わ、私はサンセー」


「もう、ふたりとも。ネメシア様ー!ポピーねぇとリリーがサボろうとしてるよー!」


「わわっ」


「スノー、アホッ!」


 ポピーが慌てて口をふさぐももう遅かった。ネメシアさんは手を挙げながらむーむー言ってるスノーのことをしっかり捉えている。その綺麗な笑顔はいつものじゃあなかった。目が笑ってなかったのだ。


「ポピー、リリー?」


「「はぁい!」」


 口から自然と元気のいい満点の返事がでた。


「サボっちゃう悪い子はオニに食べられちゃうわよ」


「「ッ!」」


 お、鬼がいるよお。目の前にもうすでにいるよお。


「ちゃんとやるのよ?」


「「やりまぁす!」」


 食い気味に二つ返事で了承する。

 母は強し!それを今思い知ったよ……、



 まったくリリーまでフマジメになっちゃって、とネメシアさんは一人ボヤいていた。




――――――――――――――――――――――――




 森の中の獣道をずんずん進んでいく。

 今日私たちに課せられた最初のおつかいクエスト、それはポカポカ茸の採取だ。秋から冬の初めにかけて生えるらしく、その茎は熱を発して常に温かいらしい。これをたくさん集めて冬の間も常備しておくことで寒さを乗り切るらしい。つまりは薪がわりの代物だ。


「ポピーねぇ、リリー、あったよー」


 真面目なスノーに呼ばれて、行くと、ポカポカ茸の群生が確かにあった。木の根元、陽の当たらない根の影。言われた通りの場所だ。

 見ると、スノーが自分と同じ丈のキノコのカサをつかんで引っこ抜こうとしている。


「ん、むぅう~~~~っ」


「あはは、一人じゃムリだって、力貸すよ」


 そう言ってスノーごと抱えるようにカサを持つ。あごの下にすっぽりとスノーの頭がはまる。

 よし、引っ張るぞ、せーの!


「よいしょぉっ」


 ポコンと小気味よい音をたてて、キノコが抜ける。しっかり土に張り付くとこから抜けたみたいで、肝心の身にキズはない。いい出来だね。私は仕事だってやると決まればちゃんとやるタイプなんだよね。


 すると、スノーが自分の手をしげしげと眺めたまま動かなくなってしまった。

 どうしたんだろう。胞子でもついて取れなくなった?それともなんかトゲでも刺さった?

 聞いてみる。


「どした?」


「んー。リリーって、スノーよりいつの間にか力持ちだね」


「あれっ、そうかなあ腕とかこんな細いけど」


「うん、やっぱり背が伸びてるからかなあ」


 そう言って私の腕をプニプニしてくるスノー。やめてくれ、くすぐったいっ!


 でも確かに同じ姉妹でもスノーとはずいぶん体格差がでてきた。こないだ測ったらついにポピーも抜いてたし、目の前に立つスノーなんてつむじが見下ろせる。

 腕とか足とかは外遊びばっかしてる割に白くてひょろー、としてる。(実際、ポピーと腕相撲してもまだ一回も勝ったことはない)でも私のタッパは未だ止まることを知らない。

 もう妖精の子の間じゃ一番後ろの列になるんじゃないか?私より高いのはもうネメシア様だけかも。


「とりあえずカサとろうか」


「うん、リリーが根っこのほうもってね」


「よし、いくぞ!」


 せえの、で引っ張り合うとこれまたキュポン、とカサがとれる。カサのほうはいらないからポイー、で。これで私たち二人で三本目かな、一体いくつ集めるんだろう。


「結局いくつあつめるんだっけ?」


「うーんと、一日に五本はいるってネメシア様言ってて、それで冬ずっとだから――」


「あー、三〇〇本とかそこらね、先は長いなあ」


「リリーすごい!なんで一瞬で分かったの!」


 あー、なんかしょーもないかけ算くらいで驚かれるとヘンな気分になるな。

 こういうちょっとしたことでみんなリリーはかせだとか言ってくるもんだからなあ、私なんて大した奴でもないのに。


「あー!ポピーねぇ、もう遊んでるー!」


 私の後ろのほうを指さすスノー。その声に振り向くと、ポピーが倒れてるキノコの柄を三角に並べなおしてるとこだった。その数六本。


「いやいや!ちゃんと見なって!もうたくさん集めたんだって!」


「でもみんなまだ働いてるのにー」


「もう終わったからいいの。これはアタシへのご褒美だからねー」


「むーまたヘリクツ……」


 一理ある。ポピーは一人で私たち二人の集めた数の倍集めてるしね。


「それより見なって!面白い遊びを思いついたぞ、そおれ!!」


 掛け声とともに、手に持ったボール(ボムの実のアレだ。こっそり持ってきてたっぽい)をなげる。勢いよく投げられたそれは、スピードを地面に殺され、弾みながらもキノコの柄に激突、見事六本全部を倒した。


「っうし!!!」


「おぉー」


 ちょっと感心した。これボウリングじゃん。しかもピンはちょっと足りてないけどしっかり三角に並べてるし。

 レーンがガタガタだったり、投げ方なんてピッチャーのそれだったりするけど自前で考え付くとは恐れ入った。遊びの天才ってのはこういう奴のことをいうんだろうな。


 ちょうどいいや。もうお昼時、せっかくだしみんなにこの新しい遊びを伝授しちゃおうかな。


「ねーねーみんな、もっと楽しくなりそうなこと思いついたんだけどさ……」


 そう言うと作業してたみんなが集まってくる。結局みんなは子供、お仕事よりもお遊びに夢中なのだ。その証拠にホラ、一番小さくて一番マジメなスノーだって、今から始まることに興味を隠し切れずにいる。注意できずに、私から目を離せてない。


 みんなの目が集まったところで、話を切り出す。


「ボウリングって名付けたんだけど――」



 秋の日はつるべ落とし。日が暮れるまで遊びまくった結果、ピンがわりに使いまくったキノコはボロボロのダメダメに、もちろん初めてのおつかいは完遂することもなく、ネメシアさんに私たち一同はたっぷりとお説教をいただいたとさ。



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