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妖精の輪っか  作者: ゆーれい
第2章 湖畔の子供たち
16/22

スノーとゆかいな仲間たち

 森の中、ぽかりと開いた池のそば。暑かった日々もどこへやら、すーっと涼しい風が吹く。

 雨は降りそうではないけれど、薄曇りが晴れる気配も特になし。もうすっかり過ごしやすい季節に移っていた。


 そんな中スノーはせっせと手先を動かしていた。ピンクに色づいた花びらをぷちぷちちぎって、ガラス石の皿に盛っていく。十分たまったら今度はすり棒でごーりごり。搾りかすはぽいっちょ。即席のお化粧品の完成だ。


 んー、できた!


「ねーリリー指だしてよ」


「んー」


 だされた指にペタペタはけ(これはナッツの抜け毛でつくった!)で塗っていく。


 ほんのりピンクのリリーの爪先。

 やだ、かわいい!

 ほかの指もみんなピンクにしちゃおう、そうしよう!


「ふんふふーん、キレイになーれキレイになーれ」


「おー、オシロイバナかぁ。あるんだなあ」


「オシロ……?オセロならもうあきたよ」


「あーうん。1日もたなかったねえ」


 またヘンなこといってる。リリーは頭はいいのに言ってることはあんまりよくない。でもスノーがあんまり頭良くないからわからないだけなのかな。最近はもう無かったけどたまにこんなやり取りしてる。


 人差し指、中指、薬指。続けてお化粧花の色に染めていく。

 ほっそりとしてて、すべすべで、柔らかい、いつの間にか大きくなっちゃったリリーの手。その先っちょにのってる水底の石みたいなピカピカの爪をスノーの好きなようにいじくる。


 リリーはポピーねぇといっしょで外遊びのほうが好きで、ちょっと乱暴なとこがあるけどこうしてオシャレしてあげてるときはいっつも大人しい。いつもはリリーのほうが姉みたい、なんてみんなに言われるけど、リリーのお姉ちゃんとしてお世話できる数少ないチャンス、物にしなくちゃっ!


「うごかないでね、動いたらうまくできないよ」


「あーい、スノーこういうのすきだねえ」


「オシャレが嫌いな女の子なんていないよ!リリーがなーんもしなさすぎるの!」


「といってもする必要がなぁ……」


 まったく、リリーもポピーねぇもほっといたら泥だらけのまま寝床にだって潜り込むんだから。やんなっちゃう。


「ねえねえ、リリー、見て見て」


 ポピーねぇがスノーたちの肩をつついてくる。お化粧花を取りに行ってもらってたのにもう戻ってきたみたい。リリーが身じろぎして振り向くと、それだけでマニキュアがずれちゃいそうになる。

 ポピーねえ、難しいとこやってるときによりによって来るなんてぇ!もっとたくさん注文しとけばよかった!


「おーポピーなんか面白いもんでも見つけた?」


「リリーじっとしてっ。今いいとこなのっ」


「うっ、ごめん。動かないでいるよ」


「ようし、リリーみてろよみてろよー」


 すると、リリーの手が突然揺れ始める。リリーがすごく笑いはじめた。それもツボにはまってるみたいで大爆笑だ。バッとポピーねぇのほうをみると、口を指でイ―ッて広げてる。にょっきり生えてる歯はどれもピンクになっていた。


「ばぁ~~」


「ぷぁっはっはっは!なんだその歯ぁ!食べたの、これ食べたの!?なんでも口入れすぎでしょ」


「あ~~っ、う、うぷっ。うぇっ、ごほっ。にっがぁ~~っ!ぺぇっっっ!!!」


「ぶはっ、バッチい!」


「もう、リリー動かないで!ポピーねぇも!汚い!!!」


「いや、はははっ、これムリだって耐えらんないってぇ」


「うっ、うぇっ、うぇぇぇ~~」


 あーあ、もうめちゃくちゃ。リリーにせっかく塗ってあげたマニキュアが失敗して手首のほうまで飛んじゃってる。ポピーねぇなんて勝手に吐きそうになってるし。


「ふたりとも水場にいくよ、まったくもう……」


 悶絶してるポピーねぇ、失敗しちゃったリリー。ふたりとも引っ張ってく。

 こんなになっちゃって、はやく湖の水で落とさなくっちゃ。





 リリーの差し出された指先を軽くさする。すると、水に濡れたそれはこするまでもなくツルンと落ちた。

 ぺたりと試しに合わせてみると、リリーの手はやっぱりスノーのより大きくなっていた。


「どうしたの、とれない?」


「ううん、リリーなんか大きくなったなー、て思って」


「そおいやそうかもね。いつの間にかポピーにもほとんど並んじゃったしなあ」


「スノーはあんまり伸びなかったのに。夏の成長期終わっちゃたのかなあ」


「人それぞれでしょ。スノーもまだ伸びるかもよ、私の姉なんだし」


「心にもないことをー」


 スノーは夏の途中から身長が止まっちゃってるのに、リリーはまだすくすく成長してる。肩幅とかはスノーと同じ子供のままなのに、背丈だけぐんぐん伸びてて、つくしみたいになってる。頭半分くらい差がついちゃった。


 せっかくリリーのお姉さんなのに、こんなチビじゃますますみんなにリリーがお姉さん扱いされる!

 なんか不公平!スノーもネメシア様くらいとはいわなくてもポピーねぇとかリリーくらい欲しいのに!


「うー、それにスノーもリリーみたいな髪がよかったかも」


「どうして?こんな可愛いパーマなのに」


「だって真っすぐでキレイなのネメシア様みたいなんだもん」


「スノーの髪も空の雲みたいに白くてふわふわだよ、いいと思う」


「でも濡れちゃうとこんな重くなるんだよ。ずっしり」


 リリーの髪はホントにうらやましい。

 白い滝みたいに下へ真っすぐ伸びてるつやつやの髪、その表面をつつーっと水の珠がすべり落ちる。日の差さない今日の天気でも、リリーの髪には陰りの一つもない。


 いいなあ、そう思って髪を一房すくおうとしたその時、ブブブブと騒々しい羽音が近づいてきた。

 同じくして、ヒーハー! と鬨の声が響く。


「おらおらー!アタシ様のおとおりだあ!う、うおおおー!」


 ポピーねぇが水を切りながら飛んでくる。またがってるのは羽根を猛然と羽ばたかせる赤トンボ。暴れるその子をポピーねぇは手綱を握ってがむしゃらに抑えながら突き進んでいた。


 嫌がるトンボを無理やり捕まえてきたんだ!また乱暴なことする!

 というかポピーねぇ全くおさえれてない、トンボは振り落とそうとぐりんぐりん動き回ってる。


 あれはすごくあぶない!なんで降りないの!


「ポピーねぇ!何してるの、危ないよ!」


「うごごごご、だめだあ、紐がはずれないんだあ!おさえきれんんん!!!」


「リリーッ、あの子からポピーねぇを剥がさなきゃ!あんなに暴れて、あの子もかわいそうだよ」


 声をあげながら振り向くと、後ろのリリーはすでに一目散に背中をみせて逃げていた。ひぃー、だなんてか細い声をあげながら髪も振り乱して。飛ぶことも忘れてばっちゃばっちゃと水をかき分けて走ってる。


 ああ!リリーの虫嫌いがまたでてる!ホントいざとなるとリリーはダメなんだから!

 でもあの子も助けなきゃだしどうすれば、どうしよううう、


 そんな迷いも関係なしに、トンボはさらに激しい動きに移っている。


 宙返りしたり、錐揉みしたりと容赦ない。ポピーねぇはもうまたがってなんかいられずに、引っ張りまわされている。しかも、なぜかわざわざリリーの逃げたほうでしっちゃかめっちゃかしてる。

 相変わらずリリーついてない!尻もちついて動けなくなってるし!

 何度もリリーのそばを猛スピードで駆け抜け、その度にリリーは小さな悲鳴をあげる。


 リリー!

 助けないと! その一心で翅を震わせて駆けつける。


 そしてついに赤トンボはスピードを段違いに上げて、まっすぐリリーに向かって急降下していく。ぶつかったらケガじゃすまない。


 間に合って!


 心よりも先に反射的に身体を間に滑り込ませる。

 そして、出したことのないくらいの大声で、叫んだ。


「止まってえええええ!!!!」


 瞬間的に感じる強い風、来るであろう痛みを覚悟して、目をつむる。でも、静けさがあたりをつつんでいた。


(…………?)


 な、なんかおかしい?なんもおきない?


 硬く閉じていた瞼の力をゆっくり抜いていくと、目の前にはあれほど荒れ狂っていたトンボが嘘のように静かに、音もなく空中で静止していた。


 ポピーねぇは水上にぷかぷか浮いてのびてる。ひっぱる力がなくなったことで、捕まっていた縄がすっぽり抜けたんだ。たぶん助かってる、丈夫だし。

 赤トンボは次の言葉を待ってるみたいにその場で止まっていた。どこを見てるか分からない緑の目が光を返してる。


 もしかして、言ってることが、分かるのかな?


「……スノーのいうこと聞いてくれたの?」


 質問してみると、ぴくっとだけ反応する。でも、羽根を広げて一気に森の中にとんでっちゃった。そのまま目の届く外へ、自然に帰っていくのを見届ける。


 は、はぁ~~


 知らずガチガチになってた体から力が抜けて、腰がくだけて、ストンと座り込んでしまう。


 こ、怖かったぁっ、


 なんであんなすごい動きで割り込めたのか、自分でもびっくりだよお。あんなビュッ、バッて。

 ぶり返してきた怖さに目尻が熱くなってくるけど、ドンッと追突される衝撃に涙がひっこむ。


「スノオオ、ありがとおお!助かったよ、うう、ううううっ!」


 後ろから、無事守り切ったリリーがギュッと抱きしめてくる。

 いのちの恩人だー、なんて大げさなこと言いながら泣いちゃってる。リリーってばホントに虫が苦手だから、すっごく怖かったんだなぁ。スノーも怖かったけどリリーのこの怖がりっぷりを見たらなんか逆に安心しちゃってきたかも。

 むしろスノーよりも大きくなったのにこんなに泣いちゃってるリリーをちょっとカワイイかも、なんて思ってる。スノーもいけない子になっちゃってるのかも。



ふに。



(あれ?)


 リリーにぎゅうっと抱えられた頭、特にほっぺのとこになんか他とは違うやわらかさを感じる。

 触ったことあるような、ないような。もっと触っていたくなるようなほのかなやわらかさ。


 スノーのほっぺと当たってるのはちょうどリリーの胸のとこ。スノーやポピーみたいに平たいはずのとこ。


 なのに、ちょっとだけやわらかい。ネメシア様みたいに。


 じゃあこれってもしかして……、




(――おっぱい?)


 リリーのおっぱいが、おっきくなってる?

トラブルメーカー全一

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