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妖精の輪っか  作者: ゆーれい
第2章 湖畔の子供たち
10/22

日常のキス 1

 あたらしい朝がきた。


 日が昇る。妖精たちの新たな一日がまた始まる。

 夏になってもみんなぎゅうぎゅうの団子になって集まって寝ている。すると必然、私は皆が動き出すとその所作で起きることになる。特別ねぼすけなのは私とスノー。眠気まなこをこすりながら頑張って身体を起こす。


 朝起きてすること、それはまず挨拶。「おはよう」と言葉を交わす。前後左右、半ば重なり合ってる子ら全員に言って、また返される。


 そして、キスをする。

 額、目じり、頬、首筋。みんなに思い思いの場所に口づけをされる。ちょっとこしょばい、でもこれもれっきとした挨拶。

 親愛を示す表現らしい。どの子も自分のしたい子に、したいようにキスをする。そして、私もキスをねだられれば、まだ少し気恥ずかしいけど、それに応えて、ひかえめに、チュウを、する。


 そんな中、スノーも寝てるところをかまわずキスされてようやく起きる。


「おはようスノー」


「……おはよ」


 ゆるふわの白い髪にキスをすると、スノーは私に気づき、ギュッと抱きしめてほほに吸い付いてチュッとと軽い音をたてる。

 半分無意識の行動のようで、まだうとうとしている。


 そんなスノーのほっぺをむにっとポピーがつねる。スノーはうーとかむーとかうなっていて言葉になっていない。


「うちの末っ子たちはまだおねむだねー、このこの」


「むにゃ、スノーもーおきてるよー」


「私はもうはっきりしてるよ」


「まだチビ助だからしかたないかぁ」


「今に追い抜くから待っててよね」


「……ぐー」


 軽口を交わす。実際尋常でないスピードで背は伸びてるし、このままなら数ヵ月でポピーも抜き去る。たぶん。


 そんなこんなでぺちゃくちゃと話し、スノーもエンジンがかかり始めると、自然話は今日なにをするかになる。


「きょうは何をしてあそぼーかー」


「スノーおままごとしたいっ」


「それもいいけど、涼しいうちじゃないと動けないよ。外遊びにしよーよ」


「そっかー」


「そうだ!リリー、なんかいい遊びない?こないだのカンケリもおもろかったしさー」


「えっ?うーん、なんかあるかなぁ」


「なー天才さんよー、あるでしょー?」


 なんか、遊び、身一つでできるもの。

 思い浮かべると意外と頭に浮かばない。


 他の子もなんだなんだと聞きにくる。

 先日缶蹴りとかケイドロとか子供の遊びを提案してみて以来、なんか遊びの天才というか、発明家みたいに思われてる。

 スノーも期待の眼差しでこっちを見つめている。


 その時、ふっと思い浮かんだ。いつも遊びにつかうアレを改造すればいいんじゃないだろうかと。


 思い立ったが吉日、考えを口に出す。


「あのさ――」



―――――――――――――――――――――――――



 これはボムの実と呼んでいる。

 スイカくらいの赤い実で、破裂すると真っ赤な汁をぶちまける。

 本来の遊び方はとにかく相手にこれをしこたまぶつけまくって、上から下まで赤色に染める、というもの。(これはこれでめっちゃ楽しい)


 今日はこれに一工夫する。

 まず、ヘタをとり、棒を刺してそこから中の汁と種を抜く。こいつらが曲者で、衝撃を与えると、ポンとはじけ飛ぶ。これさえ抜いてしまえばもう爆発はしない。


 ガワだけになった実はもう易々と破れない。あとは中に空気を吹き入れて、穴を樹液でふさぎ、固まるのを待つ。


 完成だ。ボールができた。地面についてみればよく弾む。子供の三大神器のひとつの出来上がりだ。私も子供の頃は、これ一つで日が暮れるまで遊んだもんだ。


「なにそれ?」


「作ったの?すごーい!」


「すっごい跳ねるよ、これ!」


 みんなの反応もいい。さらにただぶつけ合うだけじゃあまだだ。そこにルールと勝ち負けがあればさらに面白くなる。


「ドッジボールっていうんだ、みんなでやろうよ」




「えぃっ!」


 スノーがかわいらしい声で山なりの球を投げと、ポピーはそれを簡単にキャッチする。


「今のは危なかったなー」


「ホント!?」


「今度はこっちの番だ!そぉれ!」


「きゃー!」


 ポピーの両手投げでぽーんと放られたボールをスノーは走ってよける。


 ポピーの奴め、心にもないこと言ってやさしくして……。

 私?私はソッコー奴の標的になって無事外野送りよ。


 再三の説明のおかげか、みんなちゃんとルールを分かってやってくれてるみたいで安心だ。でも白熱しすぎというか、ちょっと思ってたのと違う。


「ウルトラスーパーサイクロンアタ―ック!」


 そう言いながら上から急降下してボールを放つのはポピー。しかし勢いに乗ったボールは散り散りに空へ逃げられて回避される。そして、大きく跳ね返ったボールを外野が空中でキャッチして直ぐ様のストレート、アウトをとる。


 ……なんだこれ?


 ゲームスピードがハンパない。一応、枠線の四角からはでてないようには見える。でも三次元軌道が極まって、もうナントカの異次元サッカーみたいな感じになってる。なんていうか、おいてきぼりだ。


 でも!地上にいて、しかもまだ力の弱い私にもチャンスはある!

空中でボールをこぼせば、まず追いかける。仲間が当たったボールならなおさらだ。しかし、そのボールの落下点はその高さゆえに瞬時に判断できなくなる。インか、アウトか。パッと見じゃわからない。

 つまり、往生際悪く最後の最後までボールを追いかけちゃうマヌケが一人は現れるってことだ!


 足元に落ちたボールをワンバンでキャッチ。前には射程圏内に入ったポピー。あっ!、と叫ぶももう遅い。狙うは足元!


「ぅやあぁっ!」


「あぁっ!」


 捉えた!

 見事右足に当てた。やったぜ。ルール通り私は内野へ、ポピーは外野に飛ばされるのだ。


「当てったったぞー」


「くっそー、3人やったのになー、良く当てたなー」


「作戦通りよ、ノータリンめ」


「次も真っ先にねらっちゃうぞっ」


 ゲッ、年下になんて容赦ない。

 そしてポピーは宣言通りに外野に飛ばされたボールを手中に収めている。今にも飛び出そうと足でザアザア地面をひっかいている。


「お、大人げないぞー」


「アタシもオニじゃないさ!飛ぶのはナシさ!」


 それだけの慈悲はあるらしい。まあいい、体格差的に捕るのはムリだ。よけるぞ!

 すると、横からスノーが口をはさんできた


「リリー、これ……」


「スノー、タンマ!前みて、くるよ!」


「えっと、ボールここにあるよ……?」


「えっ?」


 確かにある。スノーの手の間でぷにっと形を変えてるのは確かに私が作った奴だ。

 ということは!


「ポピー!待って!ポピーの持ってるやつ違――」


「ふんぬりゃああああ!!!」


 威勢のいい掛け声とともに私の顔面にボールが着弾、破裂する。そして私を爆心地に真っ赤なインクが飛び散った。盛大な花火だ。

 みんななんてこった、とこっちを見ている。私は立ちつくしたのち、あちゃー、とか言ってる原因をキッ、とにらむとそのまま向こうへ歩き出す。


「やー、悪気はなかったてゆーかー」


 そこらになってるのから一番大きいやつを選んでむしり取る。


「怒ってる?ねーおこってないよねー?リリー?」


 ピッチングの構え。3、2、1!


「てぇぇい!!」


「ぶぁばあっっ!!!!」


 ポピーの顔面に赤い花を咲かせてやった。どんなもんだ!全身染めてやったぞ!


「にゃろう!」


 間髪入れずにポピーが投げ返してくる。それを避け、手みじかな実を取り投げ返そうとするも先に投げられ被弾する。

 めげずに投げると、こっちのも当たった。


 次々と投げ合う。流れ弾や飛沫に当たった妖精たちもこぞって参加していく。スノーもいっぱいに球を抱えて参戦。ついにはみんなしっちゃかめっちゃかになる。

 妖精たちの大戦争だ。仁義なき戦い、敵味方なにもなし、ぶつけまくる、ぶっかけまくりだ。


 結局いつもの赤い実はじけるリング外の大バトル。ドッジボールとはなんだったのか。でもまあいっか!なんたって楽しいからね!




 そうして肌の白いとこが残ってる子なんかもういなくても、私たちは遊びまくった。


 ついには、お昼寝の時間、ネメシアさんが呼びにきて、バテバテのグッショグショになってても続けていたのだった。

キスは日常

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