表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精の輪っか  作者: ゆーれい
第1章 めざめの森
1/22

プロローグ

  春節の候、森の中は暖かな春の空気に包まれていた。緩やかに風は流れ、柔らかな木漏れ日が湧水湖の上に差し込んでいる。

 湖には淡い燐光が漂っていて、そのほとりでは美しい女性と、彼女を取り囲む子供たちが今か今かとその時をまっていた。


 その女性は素肌が透けて見えるほど薄いベールをその身に纏っていて、そのしなやかに伸びる体つきが見てとれた。彼女の腰まで流れる黒髪は陽光を反射して紫色に煌めいている。そして、豊かな長髪の間からは一対の柔らかなアーチを描く緑の蔓が突き出ているのだった。

 その美しく整った眉を綻ばせた彼女は、周りを忙しなく動き回る子供達の色とりどりの髪色をした頭を撫でながら二本の白い花の蕾を見上げていた。


 その大きなユリのような花たちは頭を垂らし、その蕾を丸く膨らませていた。それはまるで何かを中に収めているようだった。

 

「みんな、そろそろ生まれるわ。

 新しい子を迎える準備をなさい」


「ハーイ!」


 子供達は仲良く声をそろえて返事をした。そして、女性が着ているベールのような薄衣を持ち出し二本の花の下へその虹色に輝く翅をはためかせて飛び上がった。二本の白い花のつぼみのそばでふわふわと近づいて行った子供達は女性に声をかけた。


「ネメシアさまー!これでいーですかー?」


「ですかー?」


「ええ、それでいいわ。そのままね」


 子供達は幼女特有の甲高い声をキャッキャとわめきたてながら言うと、女性はしっとりとした落ち着いた声で返す。

 すると、辺りを漂っていた蛍光が白い蕾と子供達の周りに集まってくる。それらはゆっくりと回り始め、光の旋風となり花を厳かに揺らし始めた。


「わあー!きれー!」


「すてきー!」


「精霊様が祝福されているわ。しっかりあなたたちの妹たちを受け止めてあげるのよ」


 光の高まりが最高潮に達し、光に包まれた二つの蕾がほどけ始める。蕾がしゅるしゅると解けるに従って、中の重みが先へ移り、穂先が広げられた布に近づいていく。

 一つめの蕾が布の上に先に覆いかぶさり、確かな重みが布の中に預けられた。もう片方も中身が布に包まれると、子供達は何人かで布を吊り下げて女性の元へ帰っていく。

 そろりそろりと女性の前へ降りてゆくと、ゆっくりと女性の伸ばした手へ二つの布の包みが渡された。女性は落とさないように、慎重にそれらを受け取ってその胸に抱きとめる。


 そこへ突然、横合いから飛び出してきたオレンジ色の髪の元気そうな少女が真っ先に女性の腰にまとわりついてまくしたてて言った。


「ネメシアさま!ネメシアさま!はやく!はやくこの子たちの顔が見たいよ!ねえはやく!」


「ポピー、落ち着きなさい。この子たちはにげたりしないわ。ほら」


 そう言って女性は包みを広げるとそこには二人の赤ちゃんがくるまれていた。二人とも白い髪で、その瞳は閉じられ彼女たちは穏やかな寝顔を見せていた。


「とっても可愛い双子だわ。白くて綺麗な髪に、そっくりな寝顔。名前は……、そうね、お姉さんのこの子はスノードロップ、それと妹ちゃんはリリーホワイトにしましょう。さあみんな、あなたたちの新しい妹よ。大事にしてあげるのよ」


 女性は双子の赤ちゃんを子供達に預け直すと子供達たちは我先にと抱っこして、赤ちゃんをワイワイとあやし始める。その様子を見て女性は微笑を浮かべると湖の方へ向き直り、呟く。


「どうかこの子たちに精霊様のご寵愛がありますように――――」




 木々の上へ消えていく燐光の足元には、咲き誇る一組の白い花が残されていたのだった。

※本小説にはガールズラブ要素、TS要素が含まれます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ