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誰も知らない英雄

作者: 三日天下

 ある所に手品師の男がいました。

 その男の腕はなかなかでしたが、披露する手品が古臭いものばかりだったので、あまり人気はありませんでした。

 ある日の事、仕事を終えて帰宅した男がテレビをつけると、ちょうど手品の番組が放送されていました。

 テレビに出演していた手品師の手品は素晴らしいものでした。

 なにも無い空から食べ物を作り出し、車を一瞬で馬に変え、月を空から消してしまうのです。

 素晴らしい手品の数々に、男は感嘆の声を上げました。

「ああ、すごい手品だ。私にもあんなすごい手品が出来れば英雄になれたのに」

 手品人気の高いその国では、一流の手品師は英雄として扱われていたのです。

 男は英雄に憧れて手品師になりました。

 しかし何時までたっても日の目を見ることはできません。

 手品師として男は無名でした。

 ですが、男は決して英雄になる夢を諦めませんでした。

「諦めないぞ。頑張っていればいつかきっと英雄と呼ばれる手品師になれるはずだ」

 そう呟くと、男は日課にしている手品の練習を始めました。

 その頃、地球侵略を企む悪の宇宙人、ポロロッカ星人の二人が円盤に乗って男の家の近くを飛んでいました。

「よし、99人目の調査を完了したぞ。間違いない。地球人の科学力は我々ポロロッカ星人の足元にも及ばないな」

「ああ。だが母星に報告するには100人の地球人の調査をしなくてはならない」

「判っている。ちょうど下に一人暮らしの地球人がいるようだ。そいつを調査して報告しよう」

 二人のポロロッカ星人の役割は地球人の科学力を調べることでした。

 その為、99人の地球人を調査しました。

 そして、最後の一人として手品師の男が選ばれたのです。

 円盤から降りた二人のポロロッカ星人は窓から手品師の男の様子を伺いました。

 一方、自分が覗かれていることに気付かない男はいつもと同じように手品の練習を行っていました。

「よし、それでは最後にシルクハットのマジックを行おうか」

 被っていたシルクハットをテーブルに置いて、男はその中に手を入れました。

 すると、シルクハットの中から旗が出来てました。

 続いて本。時計。タオル。コップ。傘。様々な品が次々と出てきます。

「やれやれ。こういった古臭い手品ではダメなのかな」

 ため息をつきながらも、男は様々な品をシルクハットの中から出しました。

 実際、シルクハットのマジックは決して簡単な手品ではありませんが、新鮮味のない手品でした。この国の目の肥えた観客からの反応は今一つでした。

 しかし、そんなことを知らないポロロッカ星人の二人は目を丸くして男の手品を見続けました。

「いったいあれはどういうことだ。あんな小さな筒から次々と物が出てくるぞ」

「見ろ。あれは傘と呼ばれているものだ。あんな大きな物まで出てきたぞ」

「おかしいぞ。どう見ても傘の方が筒よりも大きい。あの小さな筒の中に入っているなんてありえないはずだ」

「もしかしてあの筒は物質転送機ではないか」

「なるほど物質転送機か。遠くの物体を手元に寄せる機械だな。それなら納得だ」

「しかしまさか地球人が物質転送機を作りだすほどの科学力を持っているとは思わなかった」

「ああまったくだ。我々は地球人の科学力を甘く見すぎていたのかもしれない」

 そんなポロロッカ星人たちの驚きに気付くことなく、男はシルクハットのマジックを続けました。

「それでは最後だ。お前たち今日も頼むぞ」

 そう呟いて男がシルクハットに手を入れると、中から3匹の鳩が飛び出してきました。

 よく訓練された鳩は、元気よく男の周りを飛び回ります。

「やれやれ。お前たちが出た時だけは少しだけ盛り上がるんだがな」

 自嘲気味に笑いながら、男は鳩たちの頭を撫でました。

「さてと、明日も早いし。そろそろ休もうかな」

 そう呟くと、男は鳩を小屋に戻し、部屋の電気を消して床につくことにしました。

 その頃、男を覗いていたポロロッカ星人の二人はあまりの驚きに言葉を失っていました。

 男が眠りについて随分と時間がたった頃、ようやく二人は自分たちの見たことを理解したのです。

「な、なんだと。生き物が出てきたぞ」

「信じられない。物質転送機どころの話ではないぞ」

「生体転送機など我々ポロロッカ星人ですら確立していない技術ではないか」

「しかも三匹もまとめて出たぞ。生体転送では生き物を単体で入れないと融合して死んでしまうはずなのに」

「ああ。それに三匹とも元気に飛び回っていた。つまり肉体への負担が一切ないということだ。完璧な転送を行ったという事だ」

「なんということだ。地球人の科学力は我々ポロロッカ星人を遥かに上回っているではないか」

「全くだ。こんな恐ろしい星を侵略しようなんてとんでもない。すぐに母星に報告して地球侵攻作戦を中止しなくてはいけない」

 二人ポロロッカ星人は円盤に飛び乗り、大慌てで地球から逃げ出していきました。そして自分たちの見たことを全て母星に伝え、地球侵略作戦を中止させたのです。

 こうして地球はポロロッカ星人たちの侵攻から免れたのです。

 そうです。

 形は違えど、男は地球を守った本物の英雄となったのです。

 しかしそのことに気付く者は誰もいませんでした。

 男自身ですら、一生気付くことは出来ませんでした。 


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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかったです! 手品師を観察しながら驚くポロロッカ星人を想像するのは楽しかったです。 やっぱり勘違いは侮れないですねw ある意味手品ですw 知らない間に…
2015/12/16 22:54 退会済み
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