第7話 喫茶ジャマイカンにて
夏の訪れと共に太陽が出ている時間も少しずつ長くなっていく。
時刻はもうすぐ午後5時になるというのに太陽はサンサンと輝いているた。
俺はそんな太陽を背にしながら、商店街沿いにある緒海郵便局に向かった。
「あっ!来た来た。こっちよ」
局前に設置された赤ポストの前に優紀さんはいた。
「こんにちわ、早見君。意外と来るの早かったわね」
「えぇ…。走ってきましたから」
「そう。とりあえず来てくれてありがとう。ちょっと場所……変えましょうか」
「あっはい。わかりました」
こうして、俺は優紀さんに連れられて駅の方へと向かった。
あれから10分ほど歩いただろうか。
駅を通りすぎて路地裏に入る頃には、人通りも疎らになりどこか怪しい雰囲気が漂う場所になってきた。
「どこまで行くんですか?」
「もう少しよ…。あっ!ほら、見えてきたでしょ。あれよ」
優紀さんが指差した先には「喫茶ジャマイカン」という看板を掲げた古ぼけた喫茶店があった。
「ここ…。営業してるんですか?」
「もちろん。さっ入りましょ」
そう言うと優紀さんは中に入っていった。
遅れないように俺も急いで店のドアを開けた。
「いらっしゃい」
店内に入った途端、初老の男性にそう話しかけられた。
「マスターこんにちは。彼も私の連れだから。いつものコーヒー二つお願いね」
「わかりました。ささ、どうぞ、座ってください」
親しげにマスターと優紀さんは会話をしている。
たぶん、二人は知り合いなのだろう。
気がつくとマスターは奥の方へと消えて行った。
「ここ、私のお気に入りのお店なの。マスターにはなんか悪いけど、客がいないところがとてもいいのよね。落ち着けるし」
「はぁ…。そうですか」
客がいないところがいい。
マスターからしたら悲しい事実だろう。
でもたしかにこの時、店内には俺と優紀さんしかいなかった。
「なんか優紀さん前に会った時と雰囲気違いませんか?なんていうか…ワイルドな感じというか…。」
「あぁ、たしかにそうかも。こっちの方が本当の私よ。おしとやかなふりをしていた方が何かと便利なのよね」
「あ…。なんかそれわかるような気がします」
「でしょ?あ~良かった。理解してくれる人がいて。ふふ…」
場所や話す人によって自分を変える。
たしかに利口なやり方だと思った。
こっちが本当の自分ということは、優紀さんは俺を信用しているといくことなのだろうか。
そう思うとなんだか少し嬉しくなった。
「そういえば、聞いてもいいですか。優紀さんと北山先生との関係を」
「そうね、いいわ。教えてあげる。北山先生は私の命の恩人なの」
「えっ…命の恩人…ですか?じゃあ誤解していたというのは?」
「ちょっと!まだ私が話している途中じゃない。いきなり口を挟まないでよ」
「あっ…。ごめんなさい」
おしとやかな優紀さんの方がいいな。
俺はその時、そう思った。