最終話 10年後のクリスマスイブ
「おぉ!来てくれたか。二人を待っとったぞ。いや、ワシも年をとっての。あれほど好きだったタバコも3年前からは禁煙してな。おぉ、話が長くなった。ささ、入って入って!」
俺達の顔を見た途端、マスターは笑顔でそう言ってくれた。
2025年12月25日。そう今日はクリスマスイブ。あの図書室での出来事がなんだかとても懐かしく感じる。
それに、5年前の東京オリンピック。とても感動した。日本代表選手が金メダルとった瞬間、感動して思わず泣いてしまったっけ。
「あぁ…。あれからもう10年かぁ」
俺はため息混じりの声でそう言った。
あの頃の俺は若かった。
いや、本当に。なんと今年で27歳になってしまった。
じゃあ優紀さんの年齢は…。いや、それを考えるのは止めとこう。
「ちょっと何ため息なんかついてるのよ。今日は聖夜の夜でしょ?笑顔笑顔!それに今日はこの店貸し切りだよ?マスター本当に良い人なんだから」
「ははぁ…。そうだね優紀さん。それに今日はクリスマスイブということでマスター気前よく貸し切りにしてくれたもんね」
もちろん「いつも客がいなくて毎日貸し切り状態だよ!」というノリ突っ込みはあえてしない。
あれからいろんなことがあった。
でも俺達は二人で力を合わせて乗り越えてきた。
笑顔を失った日もあった。
笑顔で満ちた日もあった。
「おや?哲雄君?キミの後ろにいるのはまさか…??」
マスターが驚きながら俺の後ろを除き込む。
「あぁ…。紹介が遅れました。息子の優哲です。今年で四歳になりました」
「ん…。優哲??二人の名前を一文字ずつとって優哲とは…。この子はきっと大物になるぞ!」
「ははぁ…。そうだといいんですけど…」
優哲は恥ずかしいのか俺の足に隠れたままだ。
「おぉ!立ち話もここら辺にして席に座ってくれ。みんなでケーキを食べよう。今日はクリスマスイブ。一年に一度の特別な日。さぁ!みんなで楽しもうではないか!」
マスターはやけにテンションが高い。
ちなみに誤解しててすまなかったの真相だが、結局優紀さんは教えてくれなかった。彼女いわく「たいしたことではない」だそうだ。
二人の指には四つ葉のクローバーがデザインされた結婚指輪が輝いている。
白く輝くその指輪はまさに雪の結晶のようだった。
「優紀さん来年もみんなで過ごそうね」
「何いってるの?当たり前でしょ。優哲も来年から幼稚園に行くんだから。いろいろと期待してるわよ?哲雄君?」
その時の優紀さんは母の顔になっていた。
「あっ!はい!仕事頑張ります!」
俺は気合いを込めてそう言った。
今年も残すことあと少し。
でも俺達は進み続ける。
そう、未来へと。
終わり。
……。たぶん(笑)




