第29話 大切なこと、それはありがとう
「哲雄君、座ってよ。それにしても奇遇ね。まさかあなたも北山先生に会いにくるなんて」
一瞬驚いた表情を見せた優紀さんであったが、すぐにいつもの表情に戻り一言そう言った。横にいる北山先生を見るとニコニコと微笑んでいる。
その声に導かれるように俺は優紀さんの横に座った。
「せっかくだから哲雄君も聞いてくれる?私の話」
「もしかして…。それはイギリスに帰るって話じゃないですか?俺、聞いたんです。喫茶ジャマイカンのマスターから」
「あら…。知ってたのね。もう…。マスターお喋りなんだから…」
「おや…。ちょっとお話の最中すまない。二人はお知り合いなのかな?二人の関係、先生にも教えてもらえるかな」
俺と優紀さんの会話に割ってはいるように北山先生が喋りだした。
「そうねぇ…。なんていうかな…。私の好きな人です」
今、優紀さんはそうハッキリと言った。
「えっ…!?はい??優紀さん今なんと??」
あまりに唐突な一言に俺は唖然となった。
俺から言おうと思った言葉がまさかまさか…。
まさか彼女の口から出るとは…。
「いつも空回りするあなただけどその一生懸命さがとても心に染みるの。あなたからの告白を待ってたけどやっぱり私の口からも言わせて欲しいの。そして…。本当に本当にこれまでありがとう」
「おぉ!二人は恋人か。もしかして、二人してワシに会いに来てくれたのか。それは嬉しい!教職に就いて早40年。これほど嬉しいことはない」
しみじみとした口調で北山先生はそう言った。
いや、待ってくれ。俺にも少し話をさせてくれ。話が先へと進みすぎている。それに俺と優紀さんが図書室にいるのは偶然だ。たぶん。
でも、このまさかの展開、個人的にはとても嬉しいのだが…。
「哲雄君は私のことどう思ってるの?好きなの?嫌いなの?どっち?」
優紀さんは俺の目を見つめながらそう言った。
「あっ!大好きです!!!」
言ってしまった。それもかなり大声で。図書室にいる他の生徒が驚いている。
でもいい。
なんだかスッキリした。
喉に詰まった物がとれたような気分だ。
言葉を伝えることがこれほど気持ちの良いものだなんて今日まで知らなかった。
「そう…。ありがとう。ちゃんと私を支えてよ??ここにいる北山先生が証人だからね」
「あっ!はいっ!鈍い男を卒業して、今日からできる男になることをここで宣言します!」
パチパチパチ…。
最初は俺の大声に驚いていた周りの生徒が拍手を始めた。
「期待…。してるわよ?でも私が帰ってくるまで少し待ってね。来年の1月4日には日本に帰ってくるから」
「えっ…!?優紀さん意外と帰ってくるの早いんですね」
「あら、嬉しくないの?」
「と、とても嬉しいです!」
二人の上下関係は相変わらず変わらない。
優紀さんが上。そして、俺が下だ。
でも、それでもいい。
心の準備ができてはなかったが、それでも正直な想いを彼女に伝えることができたから。
でも、あまりに急な展開に俺は北山先生が前に言ってた誤解しててすまなかったの「真相」を聞くことをすっかり忘れていた。




