第24話 冬の便り 後編
平凡な学校での1日が終わり、夕陽に影を揺らしながら帰り道を急ぐ。
でも今日は少し寄るところがある。
前に優紀さんと一緒に行った喫茶ジャマイカンにだ。
朝会ったマスターが言うには、何か俺に見せたいものがあるそうだ。
いったい何だろうか。
もしかして、マスターイチオシの新作コーヒーでも飲ませてくれるのだろうか?
そんなことを考えながら、俺は足早に喫茶ジャマイカンへと向かった。
カランカラン~。
ドアを開けた途端、呼び鈴がなった。
相変わらず誰もいない店内。
優紀さんと一緒に入った時と同じだ。
「おぉ!いらっしゃい。よく来たね」
奥からマスターがやって着た。
「こんばんわ。約束通り来ました。それで見せたい物って何なんです?」
「まぁまぁ、そう焦りなさんな。コーヒーでもどうかね?外は寒かったろう。温まるぞ」
マスターはそう言いながら俺がいるテーブルにコーヒーを置いた。
「えぇ…。ではお言葉に甘えて…」
俺はコーヒーを一口飲んだ。
うん、美味しい。
昔、コーヒー好きの祖父がコーヒーは香りと味で楽しむものだと言っていた。
まさに今、俺が飲んでいるコーヒーこそ、その言葉に相応しい逸品だ。
「コーヒー美味しいかの?」
微笑みながら、マスターは俺に問いかける。
「はい。心が温まります」
俺は今、頭に思い浮かんだ正直な気持ちを声に出した。
「人は誰かの支えなしには生きていけん。一人で生きてる人間なんかおらん。コーヒーだって同じじゃ。いろんな要素が合わさってこの美味しいコーヒーができとる。もし、このコーヒーにほんのすこし砂糖が足りなかったら?たぶん味のバランスが変わるじゃろうな」
マスターは何やら深い話を始めた。
その目はどこか遠くを見つめている。
「そうですね。俺もそう思います。誰かを支えられるような、そんな男になりたいです」
「何言っとる。君はもうそんな男になっとるぞ。もっと自分に自信を持て。そして、桜倉君の支えになってやってくれ。彼女はもうすぐイギリスに帰ってしまうんじゃぞ?」
「イギリス……!?はいっっっ!?」
その時、気がつかなかったが窓の外は粉雪が舞っていた。
まるで突然の別れと冬の訪れを告げるかのように。




