第23話 冬の便り 前編
季節は変わり気づけばもうすぐ12月。
俺が暮らす緒海市にも本格的な冬がやってきた。
冬と言うのはなんだか寂しい季節だ。
寒さが心に染みてくる。
でも、冬には楽しみもある。
冬休みにクリスマス、そしてお正月にお年玉…。
まるで1年のメインイベントがギュと濃縮されているようだ。
「哲雄~!もう学校に行く時間でしょう。早く降りてきなさい!」
「わかってるよ~!」
俺は今日一番の大声で 母さんの問い掛けに応えた。
あぁ、早く支度して学校に行かないと…。
1分ほど目を瞑った後、俺は布団から立ち上がった。
制服を着た後、足早に1階に降り食パンを頬張る。
食パンにはマーガリンと決まっている。
そして、勢いよくコーヒーを飲み干すと俺は学校へと向かった。
今日は朝からとても寒い。
そう言えば、朝のニュースで今日は日中ずっと気温が下がるっていってたな。
そんなことを考えながら、学校へと通じる信号を右へ曲がった時だった。
「おや…。キミはたしか前にうちの店に来た…?」
いきなり向かいから歩いてきた初老の男性に話しかけられた。
「ん…?どなたですか?」
「おぉ、なんだ覚えとらんのか。喫茶ジャマイカンのマスターじゃよ。ほら、桜倉君と一緒に来た子じゃろ」
「桜倉…?あぁ、前に優紀さんと一緒に行った店のマスターさんですか!お久しぶりです」
「ワシの店に来る客はあんまりおらんからの。一人一人よく覚えとるわ」
マスターはニコニコと笑顔を浮かべながらそう言った。
「これから、学校かの?」
「えぇ、そうです。行くのめんどくさいですけど、もうすぐ冬休みですし…。頑張りますよ」
「学生の本分は勉強じゃからの。頑張らんとの。おぉ、そうじゃ。学校終わったらうちに来ないかの?キミに見せたいものがあるんじゃ」
「見せたいもの…。いいですよ!ちょうどまたマスターが入れたコーヒーも飲みたいですし」
「おぉ、コーヒーか。良いコーヒー豆を仕入れて待ってるよ。それじゃ店で待ってるよ」
「わかりました。それじゃあ夕方に」
こうして、俺はマスターが待つ喫茶店に行く約束をした。
それにしてもなんだろう。
「見せたいもの」というのは…。




