鈍男外伝~デミグラスコロッケパン争奪戦~後編
「くっ…。足が…」
俺はうめき声をあげるかのような声でそうつぶやいた。
まさか、最初の一歩に失敗するとは…。
「哲ちゃん!大丈夫か!?」
吉田の声が俺の元へ届く。
「あぁ…。問題ない」
俺はつった足を気遣いながらも前へと進み出す。
まだ勝負は始まったばかりだ。
戦いは最後までどうなるかわからない。
大切なのは…。
そう。
「諦めない心」だ!
***
流行る気持ちを抑えながら、俺は1階へと躍り出る。
売店は食堂を構成するスペースの中にある。
すでに食堂内は多くの人で賑わっていた。
もちろん売店内もだ。
「ちょっとごめん。前へ進ませてくれ!」
人混みをかき分けるようにして俺は一歩ずつ前へと進む。
少しずつ売店のパンコーナーが見えてきた。
そして俺は驚愕の事実に遭遇する。
パンコーナーにあるパンが「コッペパン」だけなのだ!
「おばちゃん!もうデミグラスコロッケパンは売り切れたんですか?」
諦めきれない俺は一応、売店のおばちゃんに真実が何かを確認してみる。
「あ~ら、ごめんね。すぐに売り切れたのよ。今日はあんまり持ってきてなくてね…。また明日来てね」
「そ、そうですか…」
負けた…。
俺はデミグラスコロッケパンを巡る戦いに負けたのだ。
あの時、足さえつってなければ…。
そんな後悔が頭をよぎる。
そう、まさに勝利と敗北は紙一重の差なのだ。
「くよくよするのは止めな!」
不意に売店のおばちゃんが俺に「喝!」を入れる。
ハッとした俺はおばちゃんを見つめる。
「コッペパンをバカにするんじゃないよ!コッペパンに出会えたことの喜びを……。大切にしな」
そうだ。
俺はデミグラスコロッケパンに執着するあまり、大切なものを忘れていた。
俺とコッペパンの今日の出会いは「運命」なのかもしれない。
もしも俺が足をつってなければ、今頃デミグラスコロッケパンを二つ手にいれていただろう。
でも、俺は足をつってしまい今、コッペパンの前に立っている。
そうだ。
コッペパンを買おう。
感謝の気持ちを込めて!
「おばちゃん!ありがとう!大切なことを忘れるところだったよ」
「その想い、忘れるんじゃないよ!」
そう言ってくれたおばちゃんの笑顔がまぶしかった…。
***
「哲ちゃん!デミグラスコロッケパン買えた?」
教室に戻った途端、吉田が俺にそう言いながら駆け寄ってくる。
「買えたよ!コッペパンを!」
「はぁ!?」




