鈍男外伝~デミグラスコロッケパン争奪戦~前編
もうすぐ緒海商業高校にお昼がやってくる。
お昼といえば、そう…。昼食だ。
俺は今、ある「パン」を買うために全身を集中しながら、4時限目の授業を受けている。
俺が狙ってるのはその名も「デミグラスコロッケパン」
1階の売店で昼限定20個で売られているのだが、かなり人気のあるパンでなかなか買うことができない。
人気の理由…。それはやはり、あの1度食べたら忘れることができないほどのジューシーな美味しさだ。作ってすぐに売店に持ってきてるらしく、手に取った時でもまだ中身が温かい。
これも、このパンが人気な理由の一つだ。
前に友達の吉田が運良く買えたことがあり、俺も半分ほど分けて貰ったことがあるのだが、あまりの美味しさに心を奪われてしまった。
このパンを自分の力で手にいれたい。
今、俺はそのことばかりを考えていた。
「おい…。哲ちゃん…。デミグラスコロッケパン俺の分も頼むぜ…。俺、今足を捻挫してて走れないんだ…」
隣の席に座ってる吉田が俺にヒソヒソ話でそう言う。
「もちろんだ。前の借りは返すさ。もう俺は鈍男ではない…!」
***
「お~い!ここテストに出るからな。しっかり書き写しとけよ!テストも近いぞ~。よし!少し早いが今日はこれで終わり!」
「起立~。礼~」
日直のやる気のない声が教室に響き渡る。
4時限目が終わることを知らせるチャイムがなった時が勝負だ。
鳴り終わった直後、すぐに走り出そう。
今、俺がいる教室は3階にある。
幸運にも売店はすぐ下の1階だ。
いくら数量限定でも走れば間に合うはずだ。
もちろん下の階の教室にいる人ほど有利なのはわかってる。
だからこそ、「最初の一歩」に全てがかかってる。
ギュ…。
自然と足に力が入る。
キ~ンコ~ン!カ~ンコ~ン!
「聴こえた!チャイムだ!」
俺は勢いよく席を立った。
その時だった!
俺はすぐさま自分の足の「異変」に気がついた。
そう。
力を入れすぎて足がつってしまったのである。
「いてて…。しまった!」
しかし、後戻りはできない。
俺は吉田に言ったのだ。
「借りは返すさ」と…。




