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第16話 秋の邂逅~俺が鈍男になった理由~後編

季節が夏から秋に変わった途端、急に寒くなったような気がする。

佐藤さんからプレゼントを貰った次の日もそんな寒い1日だった。

空が雲で覆われていたからなのかもしれない。


でも、その日の朝の俺は意気揚々としていた。

もしかしたら、佐藤さんからプレゼントを貰えた嬉しさの余韻が次の日になっても残っていたのかもしれない。


そして、俺は歩き出した。


「運命」が待つ学校へ


***


「哲っちゃん話がある。ちょっと来て」

教室に入ろうとした時、俺は吉倉君に呼び止められた。

どうしたんだろうか?

呼び止められた理由がわからない。

「ここではダメなの?」


「あぁ、ここは人が多いから。下のトイレに行こう」


「わかったよ」

俺は吉倉君についていった。

いったい何の話だろうか。



「俺が佐藤さんを好きなの言いふらしたの哲っちゃんだろ?」

吉倉君は周りに誰もいないのを確認した後、俺に突然そう言った。

俺が言いふらした?

吉倉君は何を勘違いしているのだろうか。


「いや、そんなわけないだろ。俺がそんなことするわけないだろ」

俺はすぐさま反論した。

たしかに吉倉君が佐藤さんのことを好きだというのを知ってるのは、修学旅行で部屋が同じだった俺と裕くんと間城君しかいない。

でも、いったいなんの証拠があるというのか。


「吉倉君、いったい何を根拠にして俺を疑ってるんだ?」


「根拠?あぁ、教えてやるよ。俺、見たんだよ。昨日、体育倉庫裏で哲っちゃんと佐藤さんが二人でコソコソ話をしてるのを。お前ら二人で俺をバカにしてるんだろ!」


「お、おい待てよ…。たしかに昨日、俺は体育倉庫裏で佐藤さんと一緒にいた。でもそれは誕生日プレゼントを貰っただけで…」


「た、誕生日プレゼント!?あぁ、そうか。お前ら二人そういう仲なのか…。チクショウ!!とことん俺をバカにする気だな」


ダメだ。

頭に血が上ってる今の吉倉君に何を言っても火に油を注ぐようなものだ。

昔から彼は一度勘違いしたら、とことん暴走していくようなやつだった。


そして今、彼の勘違いの目は俺に向けられていた。


この疑惑を解決するには、もう一人の当事者である佐藤さんに協力してもらうしかない。


俺は放課後、また改めて話そうと吉倉君を説得した。

彼も渋々、その提案を受け入れた。


***


「佐藤さん、ちょっと話があるんだ。来てくれない?」

待ちに待った放課後。

俺は帰ろうとしていた佐藤さんを呼び止めた。


「いいわよ。手紙の答え聞かしてくれるんでしょ?」

彼女は俺の目を見ながら、そう言った。

えっ…。手紙…?

なんのことだろうか?

写真たての中に手紙が入っていたことを知らない俺は彼女の言ってることの意味がまるでわからなかった。


そして俺はその後、最悪の選択をとってしまった。


彼女の真剣な問いを適当に誤魔化そうとしたのである。


「て、てがみ?もちろん読んだよ。良かったよ」


「良かった?何が良かったの?」


「えっ…?あぁ、内容良かったよ。グッドだよ」

この言葉を聞いた瞬間、彼女のキラキラした目が怒りの目へと変わった。


「グッド…?ふ、ふざけないでよ!あなたって本当に何もかもが鈍いのね!!もういいわ!2度と私に話しかけないで!近づかないで!」


その言葉を残して、佐藤さんは走り去ってしまった…。


「あっ…。待って…。佐藤さん…。違うんだ…。吉倉君の誤解を解かないといけないんだ…」


その時の俺は事の重大さに気づいてなかった。

結局、吉倉君の誤解を解くこともできず、佐藤さんにも嫌われてしまった。

クラスで影響力のある二人を敵にしたことへの代償は大きく、俺は徐々にクラスから孤立していった。


クラス委員長なのに、誰も俺の言うことを聞かない。

これほど辛いものはない。

そして、そんな毎日に嫌気がさした俺は自分の殻に閉じ籠るようになった。

「あなたって何もかもが鈍いのね!!」という言葉と共に…。


ある日、そんな俺を見て、裕くんはニヤリと笑った。

俺はその「笑み」を見逃さなかった。


***


地元から少し離れた高校に進学した今、小学校の同級生との繋がりはまったくない。

吉倉君や佐藤さん。そして、その他の人達が今どうしてるのかも知らない。


でも、それでいいのだ。


高校での毎日はそれなりに楽しい。


そして、なにより優紀さんもいる。


だから、俺は今を大切にしていきたい。


そして「鈍い男」と言われた過去を克服していきたい。


秋の想い出は苦い。

でも、苦い想い出が俺を強くする。


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