第1話 落ちた手紙
*登場人物紹介*
○早見哲雄
緒海高校2年生。
なるべく目立たないように生きている。
あだ名は鈍感な男、略して鈍男。
「あの…。手紙落としましたよ?」
俺は勇気をだして彼女にそう言った。この一言が俺と優紀さんとの出会いの始まりだった。
***
今日もいつもと同じ退屈な1日が終わろうとしている。
学校に行っても刺激的なことは何もなく、あるのは平凡な日々の連続。
俺は少し他の人と違っていた。
それは、どんなことがおきても焦らないのだ。
もし、寝坊をして遅刻しそうな時でも俺はけっして走らない。
焦らないことが俺のポリシーでもあった。
クラスの友達はそんな俺のことを鈍感な男、略して「鈍男」と呼んだ。
俺が住んでる緒海市は人口9万人ほどの地方都市だ。海に面してる港町で昔は海産物が集まる中心港として、とても賑わっていた。
今も多少は賑わってはいるが、祖母によると昔ほどの活気はないらしい。
とても住みやすい町ではあるが、悪くいえば平凡な田舎町だ。
俺はこんな平凡な日々に満足してなかった。
心からワクワクするような出来事を求めていた。
でも、今のところそんなこととは無縁の毎日を過ごしている。
「もうすぐ夏休みだな。自転車で旅にでも出ようか。そうすれば、何か変わるかも」
俺は外の景色を見ながらそんなことばかり考えていた。
「おい!早見!授業ちゃんと聞いてるのか!窓の外ばかり見るな!」
「はっはい、すいません」
先生の一言で俺は妄想の世界から呼び戻された。
そういえば、まだ授業中だった。
退屈な1日はまだ終わってなかった。
この些細な出来事は私が帰宅中におきた。
ちょうど、昼下がりの午後4時頃だ。
いつも通学で通っている横断歩道を渡って交差点の角を曲がろうとした時だ。
ドンッ!
走ってきた誰かとぶつかった。
相手が持ってたカバンの中身が道端に散乱する。
「あっごめんなさい」
「あっごめんなさい」
二人の声が重なる。
「すいません。私、急いでて…」
彼女は慌てながら道端に落ちたものを拾い集める。
細かいものがいろいろと散乱している。
「手伝いますよ」
人一倍正義感の強い俺にとって手伝うという選択は当たり前のことだった。
むしろ彼女がカバンを落とした原因は俺にもある。
それにしても、とても綺麗な女性だ。
年齢は20代前半くらいだろうか。
とりあえず17歳の俺より年上に見えた。
整った黒髪が太陽に反射して輝いていた。
「ありがとうございます!私、急いでるんで。それじゃ…」
そう言って彼女は走り去っていった。
「忙しい人だな」
彼女の後ろ姿を見送りながらそう思った。
俺も家に帰ろうとしたその時だった。
「あっ…」
道端に切手が付いた手紙が一通落ちてる。
さっきの彼女がまた落としたのだろう。
「おいおい…。また落としたのかな。ぶつかったのには俺にも責任がある。ちゃんと渡してあげないと」
俺は彼女を追いかけた。
もちろん走ることはせず早歩きで。
いない。さっきまでいたのに。
緒海商店街の中に入るとこは見た。
でも、そこから彼女を見失ってしまった。
平日ではあるが、商店街内はほどほどに賑わっていた。
たぶん大切な手紙なのだろう。
手紙ということはこれから投函する予定だったのだろうか?
投函ということは……ポスト?ということは…郵便局?
たしかにこの先には緒海郵便局がある。
とりあえずそこに行ってみよう。
俺は手紙をしっかり握りしめて郵便局へと向かった。
ここからなら早歩きで5分ほどの距離だ。