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「とうちゃーく!」
「ゆっくり飛んだつもりでも、5分と掛かりませんでしたね」
「ちゃんと意識して目標を見ると、目標までの距離が分かるって便利だな。 12キロを5分って事は、144キロ!? どうりで目が明けにくいわけだ」
「実際には、もう少し出てますけどね。 向かい風でしたら、風魔法のウインドバリアを前方に展開すれば大丈夫ですよ?」
「そういう事は、飛び立つ前に教えてよ!」
「えへっ」
「こっからは、怪しまれないように歩いて町まで行くよ」
「ういうい」
「風魔法といえば、飛行スキルじゃなくて、風魔法で飛行する魔法があってもよさそうなのにな」
「おねえ、リリーは理屈っぽいですね」
「昔、良く言われたから軽くへこむわ……」
遠い目をするリリー。
「スキルも魔法も似たようなモノですし、あまり深く考えるとハゲるわよ? それにリリー以外で空を飛べる種族は、無意識で飛んでますし」
「ハゲは勘弁して。 私だけ飛行スキルがあるってのは、翼が後付けだからって事なのかな?」
「多分そうですけど、そんな些細な事は気にしたら負けですよ? 絶対、リリーはA型ですね」
「確かにA型だけど、そんな事を言ったら日本人の半分は理屈っぽいって事になるぞ?」
「それが既に理屈っぽいですよ?」
「う゛ それより、第一村人発見!」
「あ、誤魔化した。 まあ、いいですけど。 どれどれ、鑑定」
「私も見てみる。 鑑定」
名前:マルコ
年齢:42歳
性別:男
種族:普人族
職業:行商人(雑貨)
称号:
従属:ウィンザー王国ヨーク公爵領ハージマリ所属
ステータス
Lv:12
HP:460
MP:65
「Lv12って低いな」
「戦闘力たったの5か、ゴミめ」
「いや、12だから」
「一度、言ってみたかったんですよねー でも、Lv12は普通より少し上のレベルだと思いますよ?」
「そうなの?」
EEOでは戦闘しないNPCはLv表示がされなかったので、リリーはNPCだった人間の平均的なレベルを知らないのである。
一般人の大人の平均的なレベルは10前後で、兵士が15、ベテラン兵士が20、一流の兵士、冒険者等は30前後が、この世界のレベルなのだ。
単独で竜を倒す事ができる人間などは、それこそ歴史上の人物か御伽噺の中にしかいないのであった。
「ええ、そうでないと、あちこち出歩く行商人なんて出来ないと思います」
「エリカの観察眼が鋭いな。 確かに一人歩きだし、平均よりは強いのかもな。 しかし、MPが低くないか?」
「皆が皆、魔法を使えるわけではありませんから。 MP65だと生活魔法が精々だと思いますけど」
「生活魔法なんてあるんだ」
「スキルで生活魔法があるわけではないですけど、リリーが最初やったように、火打石代わりにファイアを使うとかですね」
「なるほど」
「あくまでも、推測ですけどね」
「当らずとも遠からずってところか。 従属の項目が詳しく表示されているな」
「『いえども』が抜けてますよ。 表示は神眼だからじゃないですか? 私の方では、ウインザー王国としか表示されてませんよ?」
「ほう、エリカの鑑定と神眼の鑑定では違うのか。 けど、他人の従属、所属が分かったところで、あまり役に立つとも思えないな」
「そのうち、なにかの役に立ちますよ、多分」
「多分かよ」
テクテク
「さっきから、チラチラとカピパラみたいな角の生えたウサギが見えるけど、あれって」
「ええ、最弱モンスターの一角、一角兎ですね。 それと、『カピバラ』です」
「一角なだけに一角ってやかましいわ! ホーンラビットでしょうに!」
「細かい事を気にしすぎるとハゲますよって何度も言ってるでしょ?」
「いや、エリカも十分に細かいから!」
「私の場合は可憐で繊細な乙女って言って下さい」
「誰が火煉で戦災な乙女だって?」
「乙女は肯定してくれるのですね」
「いや、当て字がね? ごほん、ホーンラビットでも鑑定しますか」
種族:ホーンラビット
年齢:1歳
性別:雄
ステータス
Lv:3
HP:70
MP:0
「ゴミ以下のレベルが哀愁を誘うな……」
「ゴミにsじゃなくて、ホーンラビットに失礼ですよ? 家畜以上の繁殖力で成長も早く、食べて美味しく毛皮も角も使える庶民の味方なんですから」
「いま、ゴミを上に見ていただろ?」
「気のせいです」
「まあ、ホーンラビットが庶民の貴重なタンパク源ってのが、こういう世界のお約束なんだね」
「そうですね、私も竜の肉とかよりも、ホーンラビットかココットドリの肉が好きですね」
「エリカって貧乏舌だったんだ」
「貧乏舌って、例えば、オージー産のステーキでも松阪牛最高品質の霜降りですって言われたら、信じて食べちゃう舌の人の事を指すのでは?」
「そうなの!?」
「いえ、リリーの言ってる意味で使っている人の方が多いのかもしれません。 言葉って時代と共に変化するモノだと思いますので、どちらも正しいのかも知れないですね。 まあ、幸せなのは、手軽な食材でも美味しく頂ける舌を持った人だとは思いますけど」
「確かに。 チェーン店の食べ物が不味いと感じて食べられない人は、ある意味不幸だわな」
「そうですね。 こんな話をしていたら、お腹が空いてきちゃいました うーんと、これにしますか♪」
「アメリカンドックか、よくアイテムBOXに入っていたの知っていたな」
「もぐもぐ リリーも食べる?」
「うん、頂戴!」
「もぐもぐ 自分で出せるでしょ?」
「そうくるか…… 一応、エリカは私の従僕だよね?」
「もぐもぐ……」
「従僕だよね?」
「違いますよ?」
「え? だって私の召喚獣だよ? おかしいよそんなの! エリカを出すのに、どれだけ課金ガチャを回したと思っているの!」
「ふふ、元召喚獣ですよ? 5万円分回したご主人さま♪」
「元なの!? ちゃんと、職業:リリーの従者、上級天使って表示されてるよ? それと、金色ペットは10万使っても出ない時は出ないから!」
「それだけ、私には価値が有るって事なのです。 厳密に言えば、いまでも一応は召喚獣みたいですけどね。 ちゃんと答えは表示されていますよ?」
「表示されている? 私の従…… 従僕じゃなくて、従者が正解?」
「そういうことです。 従僕って私は女の子ですよ?」
「そっか、ごめんごめん。 はぁー なんか、一気に疲れたわ」
「私がリリーから離れる事なんてないのですから、心配しなくてもいいのです」
「うん、ありがと」
「どういたしまして。 はい、ご褒美あげますね、どうぞ♪」
そう言ってエリカは、アメリカンドックをリリーに渡した。
「お、サンキュ もぐ、、なんかこれ湿ってない?」
「アメリカンドックは、しっとりもっちりしてますからね」
「いや、外側が……」
「気のせいですよ、気のせい」