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「では、試しに。 『ファイアボールMP10』」
シーン
「……」
「……」
「発動しないですね」
「き、今日は、ちょっと調子が悪いみたいだな、うん」
「なみだふけよ。 やはり無詠唱はスキルが必要みたいですね。 ふふ、神様にも弱点があったと」
「神様って言われてもピンとこないし、発動時に魔法名を言う方がカッコイイし!」
「詠唱破棄の即時発動ってヤツですね。 スキルに詠唱破棄ありませんけど、お姉ちゃんの詠唱速度が破棄と同じなんですね」
「というか、魔法の詠唱なんて知らないし、本当に詠唱しないと魔法が発動しないのなら、苦労しただろうね」
「転生特典というか、ゲーム時代の名残りってヤツですか。 それに、無詠唱なんて声が出ない状況か、不意討ちくらいしかメリットがなさそうですから、即時発動で十分ですよ」
「うむ、念じるのも声に出すのも時間は変わらないしね。 エリカも、詠唱、無詠唱ってやってみせてよ」
「わかりました。 ファイアボール『MP10』」
DOGOON!
「7メートルくらいですね。 つぎ、無詠唱いきます。 『ファイアボールMP10』」
DOGOON!
「5メートルくらいですか。 やはり、無詠唱は効率が落ちるみたいですね」
「うむ、三割減って感じだな」
「これなら、普段は詠唱した方がいいですね。 さて、そろそろ町に向かいますか?」
「うん、お腹も減ってきたことだしな。 そういや、お金って持ってる?」
「お金? 私は、お姉ちゃんの召喚獣だったのですから、お金なんて持ってませんよ? インベントリっていうか、お姉ちゃんのアイテムBOXに入っているんじゃないですか?」
「アイテムBOXの事を失念していたわ…… どれどれ」
アイテムBOX
お金:619253G 65s
「イメージしただけで画面が出たな。 うん、レアアイテムとかも、ちゃんと揃ってるみたいだな」
「コレクションアイコンがありますから、コレクションの中のモノも取り出せますね」
「小説とかでは、倉庫が使えないパターンが稀に良くあるから助かったよ」
「ヌルゲー乙って言われちゃいますね。 銀行に預けているモノは怪しいですけど」
「銀行は素材とかばっかし預けていたから、最悪、ロストしても大して痛くないよ。 必要なら、また集めればいいし」
「集める=虐殺ですねわかります。 それに、銀行=倉庫なんですけどね」
「それ、フラグだから。 それよりも、取り出すのもイメージで出せるのかな? 1Gと1sを、よっと」
「これが金貨と銀貨ですか、初めて見ました」
「私も実物を見るのは初めてだよ。 問題は、このお金が使えるのかどうかと、価値だな」
「多分、そのまま使えるんじゃないですか? 最悪、インゴットにして売ってもいいわけですし」
「うむ、価値は1sが1円ってことはないよな?」
「流石に、それはないでしょう。 銀貨が1円って19世紀か戦前ですか」
「ですよねー ということは、1sは最低でも1000円位の価値はありそうだな」
「日本で600億円持っているのと同じですね! あれもこれも買えちゃいますよ!」
「えらい俗物的な上級天使だな」
「だって天界には、お金って概念がありませんでしたから、お買い物したいんです!」
「お金がないなんて、神様の考える事は理解できんな」
「お姉ちゃんも、もう神様ですけど?」
「まあ、そうみたいだけれども、少しエリカにも渡しておこうか? お金」
「大丈夫ですよ。 こうして、ほら♪」
「なんか、自分の財布から盗られた気分だ……」
「私のモノは私のモノ、お姉ちゃんのモノも私のモノ!」
「どこのジャイアンだよ」
「いいから、いいから、減るもんじゃないし」
「いや、減るから。 まあ、無駄遣いしなければ、勝手に使ってもいいけど」
「ありがとう! お姉ちゃん大好き!」
「なんか、お金に負けた気分だ……」
「ということで、バージマリの町へ、レッツラゴー!」
「ちょっと待った」
「翼を掴まないで下さいよ~って、なんです?」
「エリカ、その姿のまま行くのは、いかがなものかと? というか、真面目に不味くない?」
「あー ゲームではなくなったのだから、天使の姿は不味いかもですね。 テヘッ」
「ホビットよりも小さくて妖精よりもデカいし、なによりも天使の輪と羽が目立つしな」
「羽って言うな、翼です! なるほど、この為にスキル【人化】があったのですね。 では、あらほいさっさっと♪」
「……」
「どうしましたか? 可愛いでしょ!」
「お、おう。 というか、色々と盛り過ぎじゃね? 文字通り、いろいろな意味で」
Hカップの爆乳。
「そうですか? 私的には、理想的な姿だと思いますけど?」
「私的には、EぐらいかE~かな~?って、なにを言わせやがるんですか」
「いやん、お姉ちゃんのエッチ♡」
「あと、その身長で、その顔は幼くないかい?」
「それもそうかもですね。 では、改めまして、 らみぱすらみぱするるるるるー♪」
「やっぱり、エリカはアラフォーだな」
「ドヤっ」
そこには、年の頃は二十歳前後、髪はプラチナブロンドで瞳は翠色、肌は健康的な小麦色の美女がいた。
身長165㎝、上から90.65.92のダイナマイトボディの完成である。
「うん、グートグート!」
「気に入ってくれて、なによりです」
「でも、翼がなくて飛べるのかな?」
「大丈夫だと思いますよ? ほらっ」
「なんか、色々な意味で本当にチートだな」
「気にしたら負けですよ? お姉ちゃんも獣人がいるから耳と尻尾は、そのままでいいとしても、翼は隠した方がいいですね」
「そうだな、【隠蔽】の【認識阻害】で部分的に隠すか」
「それか、ステータス画面の外観からアバターのチェックを外すかですね」
「そっちは、まんまゲームだな。 でも、ゲーム時代にも一部のチェックを外してプレイしてたから、そうするか」
八翼大天使の翼のチェックを外す。
「実写画面だと、私の顔はこう見えるのか。 幼いな、合法ロリ?」
「自分の顔で、ハァハァしないで下さい。 キモいですから」
「してないわ! でも、こうして見ると、完全にエリカがお姉ちゃんで、私が妹だね」
「ううっ もう、お姉ちゃんって呼べないのね……」
「普通にリリーって呼べばいいじゃない」
「さよなら、お姉ちゃん。 こんにちは、リリー」
「台詞が変だけれども、まあ、これからはリリーでよろしく」
「僅か1時間の儚い命だったね、お姉ちゃん」
「勝手に殺すなよ。 死んでないから」
「『お姉ちゃん』という、愛称が死にますた」
「はいはい、バカ言ってないで、今度こそショーシンシャの木の近くまで飛ぶわよ」
「ショーシンシャとショーシャンクって似てますね?」
「それ、40年間服役するフラグだから」
「出所してから社会の変化に戸惑うわけですね。 まるで、いまの私達みたいですね」
「泣けるからやめて、見たことないけど」
「ないんかい!」
「うむ、題名だけ知っていたのだ。 ドヤっ」
「はいはいわろすわろす。 いい加減、行きますよ」
「脱線させたのはエリカなのに。 では、ポチっとな」
「ボタンないですし」
こうして、ようやく二人は最初の目的地ハージマリの町の手前にある、ショーシンシャの木に向かって飛び立ったのであった。
二人が去った後には、無数のクレーターと、巻き添えになっていた少数の魔物の死骸が残っていた。 エリカが気付いて殺したともいう。
リリーのバシップスキル【危険予知】には引っ掛からなかった。 魔物が弱すぎて、文字通り危険はかったのだから。
ちなみに、最初の100mクレーターの巻き添えになった魔物は、憐れにも跡形もなく消し飛んでいたのであった。