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「必要があるのならば、リリーが敵を殺すことも吝かではありませんが、今回の場合はリリーが出る必要は無いのですから」


「私は必要と感じたから言ったんだよ」


「それはまた何故です?」



神妙な面持ちで言うリリーに対して、エリカもまた、姿勢を正してリリーに向き直った。



「命令だけして高みの見物だなんて、殺される相手に失礼じゃない? ううん、ここに居たまま事が終わってしまったら、どこか遠い外国か別世界での出来事と思ってしまって、高みの見物にすらなっていないのかも知れない。 それに、殺される相手をこの目にしっかりと焼き付けておきたいの」


「それは命令する人間の責任、そう受け取ってよろしいのですね?」



リリーの言葉にエリカは、念を押すように確認するのであった。



「うん」


「ふぅ~ それなら仕方ありません。 では、リリーには女子供を殺してもらいましょう」


「ちょ、ちょっとなんで、いきなり女子供なのよ!」



深くため息を吐いてからエリカは、リリーに婦女子を殺せと言い放ったのに、予想とは違う答えにリリーは慌てた。



「あら、リリーの殺す覚悟とは、その程度だったのですか?」


「そ、そんなことは無いけど…… なんで貴族とか騎士が相手じゃないのよ?」



蔑むような目で見遣るエリカに、リリーは気後れして言い淀んだ。



「それはもちろん、無抵抗な女子供を殺して良心の呵責に苛まされるリリーを、私が優しく慰めたいからに決まっているではありませんか」


「鬼だ、鬼がここに居た!」



怪しげに目を光らせたエリカに対して、リリーは指を突き出して抗議するのだった。



「まあ、いま言ったことは半分冗談ですけどね。 真面目な話、処刑する一族の中には当然、女子供も含まれていますので言ったまでです。 男は殺せても女子供を殺すのは躊躇するなんて、そんな甘っちょろい考えならば、それこそ殺す相手に失礼ですよ? 殺すならば相手に最大限の敬意を払って殺すべきです」


「それはそうなんだけど……」



口ごもるリリーに追い討ちを掛けるように、エリカは畳み掛ける。



「それがリリーに出来ますか?」


「う゛」


「人には役割というものがあります。 リリーが無理をして全てを背負い込む必要は無いのですよ? その崇高なる志は従者の私にとって誇りではありますけど」


「うん……」



言葉に詰まったリリーに対して、今度は一転して優しげな声で諭すようにエリカは言うのであった。



「身勝手な言い分になりますけれども、汚れ仕事は全て臣下に任せればよいのです。 その為に臣下は存在するのですから」


「エリカの言いたいことは分かったよ。 でも、せめて私には見届ける義務があると思うんだ」


「そうですね、三十万全員を見届けることは不可能ですから、親玉の教皇の死だけでも見学しましょうか?」



義務と言って、それだけは譲れないという風な空気を醸し出したリリーに、エリカも折れて妥協案を提案した。



「悪の親玉なら良心も痛まないね。 矛盾しているかも知れないけど」


「自己矛盾を内包していない人など、いないと思いますよ? それこそ機械でもなければ。 でも、殺すのは従者に任せてもらいます。 それが見届ける条件です」


「うん、分かったよ」



リリーが了承したことに、出来得るのならリリーには人殺しなどさせたくは無いと思うエリカは、ホッと息を吐き安堵するのであった。



「では、早速今夜にでも行ってサクッと殺って帰ってきましょうかね」


「遠足かピクニックじゃないんだから……」



気軽に言ったエリカの言葉に、リリーはガックリと首を垂れた。






マーロ教国皇都バカチン 夜半過ぎ~




「起きなさい」



そう言ったエリカは、ブクブクに肥え太った老人の頬をバシッと叩いた。



「うーん、余の顔を叩くなどマルガリータは寝相が悪いムニャ」



だらしなく涎を垂らして寝ていた老人は、頬を叩かれた痛みで目が覚め掛けたのだが、微睡みの中でまだ状況が飲み込めていないようだ。

ちなみに件のマルガリータは、エリカによって深く眠らされている。



「起きないね」


「目覚めが悪いのじゃ」


「もう一発叩きますか」



叩かれても起きない老人にリリーとクリスは危機管理の無さに呆れ、エリカは起こす為に再度、老人の頬を叩いた。



バシッ



「イッ、な、何奴じゃ! 無礼者!」


「貴様がマーロ教々皇に相違ないな?」



今度こそ目が覚めた老人が声を上げたのに対して、リリーが教皇本人か尋ねた。



「むう、如何にも余が、いや、私はただの"しがない"泡沫貴族でして……」


「ふーん、こんな気違いみたいに大きな天蓋付きのベットで寝れる泡沫貴族とやらがいるのですね」


「あからさまな嘘を吐くなんて、ジジイはよっぽど根性ひん曲がってるね。 鑑定」



ようやく自分の置かれている状況が飲み込めてきたのか、教皇は慌てて言い繕ったのだが、そこにエリカの嘲笑とリリーの侮蔑の声が飛んだ。



 名前:パオロ・ベネチアーノ6世

 年齢:61歳

 性別:男

 種族:普人族

 職業:教皇(マーロ教)

 称号:【狂皇】

 所属:マーロ教国


 ステータス


 Lv:16

 HP:525

 MP:163




「狂皇って……」


「あらあら」


「こやつにピッタリの称号なのじゃ!」



称号【狂皇】を確認した三人は三者三様の反応をするのであった。



「むむ、言わせておけば、誰かある! 曲者ぞ! 出合え出合え!」


「うわー 時代劇の悪役そのもののセリフだね」


「そうですね。 ちなみに結界が張ってありますので、配下の兵たちは気付きもしませんし、万が一に気が付いても入ってこれませんよ?」


「この部屋に居た護衛の鼠も始末したのじゃ」



教皇が悪代官さながらのセリフを吐いたのにリリーは失笑し、エリカは結界を張ったから聞こえないと言い、クリスはハイドで隠れていた護衛を既に殺していたのだ。

もっとも、レベル差がありすぎてリリーたち三人には最初からバレてはいたのだが。



「結界に護衛だと!?」


「あら、この部屋の主が自分に護衛が付いている事を知らなかったのですか?」


「し、知らん! ワシは護衛には部屋の外で待機せよと命じていた」



エリカによって結界が張られた事と、護衛が自分の命令を無視して部屋に隠れていた事に教皇は驚き慌てた。



「それもそうですね。 そんな粗末なモノを見せつけられる護衛が気の毒ですよね」


「うわ~ エリカは手厳しいね。 こればかりは、少し教皇に同情するかも」



情事の後、裸で寝ていた教皇のナニを汚そうに見遣ったエリカが馬鹿にするように言ったのに、リリーは眉を下げるのだった。



「なんじゃ、主も小さかったのか?」


「ち、違うよ! 多分、普通サイズくらいはあったよ! 物差し当てて測ったことあるもん!」



クリスの言葉にリリーは、真っ赤になって反論するのであった。



「さて、お遊びはこれくらいにして、教皇の処刑を始めますか」


「ま、待て、余を教皇と知っての狼藉か!?」



処刑を開始すると言ったエリカの言葉に、教皇は時間稼ぎに出た。



「さっきは泡沫貴族って言ってたのに、今度は自分で認めちゃったよ」


「むむむ、余に無礼を働いたら、ここから生きては出られんぞ!」


「さあ、それは貴方を殺してから考えますので、お気になさらずに死んで構いませんよ?」



リリーに馬鹿にされ教皇は唸り、それから虚勢を張るのだが、エリカには当然通用しない。



「も、目的はなんだ? 金か? 金なら望みの額だけ払うから見逃してくれ!」


「なんというテンプレ的な小物臭が漂っているんだ……」


「小物臭とは臭そうじゃのう。 おお、臭い臭い」



教皇のもの言いに、リリーは残念な子を見るように憐れみ、クリスはリリーの尻馬に乗って鼻を摘まんだ。



「お金などいりませんよ。 我々の安寧を妨げた罪を償ってもらうだけですから」


「獣人の小娘が居るということは、ウィンザー王国の刺客か!?」



暗闇に目が慣れてきた教皇は、リリーの獣耳が見えたのとエリカの安寧の言葉で、ここにきてようやく三人が敵国からの刺客だと気が付いた。



「気付くのが遅いね。 いまは戦争中だよ? 敵の頭を取るのは鉄則でしょ?」


「ぐぬぬ、亜人風情が粋がりおって!」



リリーに指摘され、歯軋りをして悔しがる教皇は自分の置かれている立場も忘れて負け惜しみを言った。



「その亜人風情に下の世話をしてもらっていたのは、どこのどなたさんでしたかね?」


「ふん! 亜人の奴隷なんぞ、余が可愛がってやっているのだから、逆にマルガリータはアンアン啼いて、いつも余に感謝しておるぞ」



エリカが冷めた目で言い放ったのに対して、醜悪な笑みを浮かべた教皇は、兎人の少女マルガリータを見遣り顎でしゃくってみせたのだった。




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