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区切りが悪かったので今回は短めです。
「今更だけど、気付いた事があるんだ!」
リリー商会の店舗カウンターを勢いよく叩いて立ち上がり、黄色のパーカーにデニムのホットパンツ姿のリリーは叫んだ。
「コーヒーが零れますよ。 今度はなんです、藪から棒に?」
「この世界に来てから一匹も魔物を倒してないのではないかと!?」
胡乱な目で聞いてきたエリカに対して、リリーは拳を握りしめて力説した。
「いまごろ気が付いたのですか? 無意識には倒してますけどね」
「そうだったの?」
無意識には倒していると言われても、自覚が無いリリーは小首を傾げてキョトンとするだけであった。
「はい、初日にファイアボールの練習中に巻き込んで、少数ですが魔物を倒してますよ?」
「知らなかった…… でも、無意識だからノーカウントだよね!」
「まあ、ノーカウントといえばノーカウントですかね。 でも、突然どうしたのです?」
突然、叫んだリリーを不思議に思ってエリカは尋ねた。
「いやー ファンタジーの醍醐味といったら、モンスターとの血湧き肉踊る死闘でしょ!」
「レベル差を考えてもみて下さい。 死闘になんかならずに、それこそ蹂躙虐殺ですよ? 魔界から出てきたロス君ですら精々40そこそこのレベルなんですから」
目を少年?少女のようにキラキラさせて言うリリーに、エリカは半ば呆れながらも説明するのだった。
「むむむ、ということは?」
「リリーの相手になる魔物は存在しない、ということですね」
「それって、本来なら危なくなくて嬉しいことなんだろうけど、なんか嬉しくないや」
魔物のレベルが低すぎて相手にならないと言われて、リリーは眉を下げて残念がった。
「気持ちは分かりますけど、事実ですから仕方ありませんよ」
「うーん、神さまって暇な職業だったのねー」
「まあ、忙しくても部下の下級神や天使たちに仕事を押し付けて、神さま自身は遊んでいるイメージがしますけどね」
「神とはニートオブキングだったのか」
エリカに神のイメージを語られて、リリー自身もウェブ小説等を読んで思い当たる節があったのか、ガックリと肩を落とすのであった。
「まあ、中には真面目に仕事をしている神さまもいるとは思いますよ? この世界は他の神の存在が感じられませんので、分かりませんけど」
「この世界には私の他には、神さまは居ないってこと?」
「絶対とは言い切れませんけれども、おそらく居ないかと思いますね」
「そうなると、私が唯一神…… 唯一無二の存在、オンリーゴッド! ふふふっ」
「病気が悪化、進行していますね」
唯一神に中二心をくすぐられたのか、リリーは怪しげな笑みを浮かべながら独り言ちた。
「けど、職業と称号は戦神のままなんですよね?」
「うん、そうだね。 でも、それって変だよね?」
エリカが確認の為に問い掛けたのに対して、リリーはステータス画面を開いて確認した。
「変といえば変ですね、もしかしたら存在が感じられないだけで、他にも神さまは居るのかも知れませんね?」
「居るのか居ないのかどっちなのよ?」
「正確なことは、私にも分かりませんとしか言いようがありません」
「ふぅ~ 使えない従者だな」
リリーは両手を広げ肩を竦めて、外人特有の大袈裟な"やれやれ"のポーズでエリカをからかうのであったが、
「私に依存しているリリーには言われたくないですよ?」
「い、依存なんかしてないもん! エリカは私の従者だから一緒にいるんだから!」
あっさりとエリカに切り返されてダメージを食らったリリーは、顔を真っ赤にしながら言い訳をするのだった。 依存している自覚はあったらしい。
「はいはい、それで、万が一にでも他に神が居たと仮定して、リリーはどうしたいのですか?」
「うーん、特にどうしたいとかはないんだけど、話の流れで聞いてみただけかな?」
「なんという行数の無駄遣いでしょうか」
呆れたエリカは、ジト目でリリーを見遣った。
「だって、暇でやることがないんだもん!」
「こうして店番しているじゃありませんか?」
暇だと頬を膨らませて不貞腐れるリリーに対して、エリカは相変わらずリリーは子供だなと思うのであった。
「それはそうなんだけどさ…… 神さまが店番って考えたらシュールだよね?」
「それを言ったら、雑貨屋を営んでいる時点で十分シュールですよ」
「まあ、確かにそうだね」
そう言ってリリーはコーヒーを美味しそうに啜った。
「ごめん! 店主はいるか!」
「いらっしゃませ、私がリリー商会の会頭、リリー・マルレーンですけど?」
勢いよく店頭に飛び込んできた強面の騎士に対して、リリーは自己紹介をした。
「君がこの商会の会頭?」
「はい、会頭といっても、私とエリカだけの商会とは名ばかりの雑貨屋ですけどね」
「なるほど、少女二人だけで経営しているという噂は本当だったのだな」
名乗ったリリーを一瞬だけ、こんな幼い少女が?と訝しんだ騎士であったが、噂のこともあり納得するのであった。
「それで、騎士団の騎士さまが当商会に何用でございますか?」
「うむ、この商会でポーションは一日に最大どれぐらい作れるのだ?」
慇懃に尋ねるエリカに対して、騎士はポーションの最大作製数を問い返してきた。
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「戦争だ!」
騎士は顔を強張らせて、戦争が始まったと告げた。