39
「こんにちはー♪」
「あら、ミラさんいらっしゃい、休憩ですか?」
「ミラさんこんちはー」
水筒を作り終えて一段落していた所にミラがやってきた。
「いえ、今日は休みですから、お二人とお茶でもしようかと思いまして」
「それなら、私が淹れますよ? 東方と南方の良い茶葉がありますから」
「はい、それを知っているから、勝手にお呼ばれしに来ちゃいました」
首を竦めて舌をペロっと出すミラなのであった。
「ミラあざとい。 可愛いとなんでも許されるのは小学生までなんだよ?」
「ロリコン乙って言われますよ?」
「あのスクショは永久保存版だったのに、もう見れないなんて…… ぐすん」
リリーは日本最大の掲示板に貼られていたスクショを思い出し遠い目をするのであった。
「このロリコンめ!」
「いまの私の姿はロリコンだからいいじゃん!」
エリカにロリコンと、からかわれてキャンキャンと吠えるリリーなのだった。
「まあ、確かにあのスクショの女の子たちは可愛かったですけどね」
「お巡りさん、このひとです」
リリーは指を差して言うのであったが、手鏡を取り出したエリカによって反撃されるのであった。
「この人とはリリーの方ですよ」
「そんなことないもん! 私は悟りの境地に居るだけですから!」
「小五とロリではってヤツですかそうですか」
「うむ、二次元こそ至高! イエスロリータ、ノータッチです」
「というか、リリーのHHDの中身は熟jふがっ「わーわー」もごっyoの方が多かったですけどね」
「ふーふー エリカは、なに勝手にバラシてるのよ!」
エリカの口を必死に押さえるリリーであったが、バレバレなのであった。
「マザコンでロリコンでシスコンだなんてリリーも罪深いですよね」
「違うから、三倍速い赤い人じゃないんだから!」
ペロンッ
「この味は…… ウソをついてる味ですね……」
「またいつものアレが始まりましたね」
最後にミラが呆れながら独り言ちるのであった。
「お馬鹿な遊びはこれぐらいにして、ミラさん、緑茶、ほうじ茶、紅茶、コーヒーどれがいいですか?」
「オススメはなんですか?」
「そうですね、私の今の気分は紅茶ですかね? さっきも紅茶を飲みましたけど美味しいですよ」
「では、紅茶でお願いしますね」
エリカのお勧め通りに紅茶を頼むミラであった。
「ストレートも美味しいけど、レモンを入れても美味しいよ!」
「どちらでも楽しめるように、レモンの輪切りを添えて持ってきますね」
「ありがとうございます」
リリーが言った言葉にエリカも頷き同意しながら、新たな紅茶を淹れに奥へと消えて行った。
「それはそうと、この山積みの竹はなんですか?」
「これは、水筒の魔道具だよ」
ミラは店舗の奥に山積みになった竹筒を見遣って尋ねた。
「魔道具? もしかして、水が出るとか……?」
「うん、もしかしなくても水が合計3リットル湧き出る水筒で、こっちの細長い鉄がライターと言って、火打石の代わりになる魔道具だよ!」
ミラの問い掛けに対して、リリーは片手に水筒を持ち、もう片方の手にライターを持って着火してみせるのであった。
「お値段は?」
「値段は二つとも10シルバのお買い得価格! それに加えて、いまだけ特別にミニチュアケルベロスのロス君フィギュアをプレゼント!」
胸を張って答えるリリーであったが、ミラの反応は芳しくないのである。
「……」
「……」
「ライターとかいうのとロス君フィギュアは兎も角、水筒の販売は即刻中止すべきです」
「え? なんで? それとロス君フィギュアは多分冗談だよ?」
ミラに水筒を売るなと言われて、キョトンとするリリーであった。
「そこそこ魔力が有ると自負している私が、倒れる寸前まで魔力を使っても精々コップ三杯分の水を出すのがいい所なんですよ?」
「そ、そうなんだ……」
「それの5~6倍の量の水をたったの10シルバなんて、呆れてものも言えませんよ」
ミラは深く深呼吸して自分を落ち着かすようにしながら言うのだった。
「でも、エリカも言ってたんだけどさ、値段を高くしただけでは意味がないって」
「ですから、わ、た、し、は、売るのは中止すべきだと、言ってますよね?」
「イエスマム!」
再度ミラに売るなと言われて、リリーは直立不動の姿勢で答えるのであった。
「分かってくれたら良いのです、この水筒は見る人が見れば価値が分かりますから、大量に買い占められてしますよ?」
「お待たせ、クッキーも焼いたから、お茶請けにどうぞ♪」
「い、いただきます」
トレーにティーポットとカップ、クッキーを載せて戻ってきたエリカに慌てて恐縮するミラであった。
「それで、聞こえていましたけど、水筒の値段が安すぎるという話でしたよね?」
「安すぎるのもそうですけど、私は売るべきではないと言いました」
「なるほど、水筒を巡って争いごとが起きる可能性をミラさんは危惧しているわけですね?」
「その通りです」
奥の台所でお茶の準備をしながら、聞き耳を立てていたエリカが確認の為に尋ねたのに対して、ミラはハッキリと返答するのだった。
「分かりました、水筒の販売は中止にしましょう」
「え? 進言した私が言うのもあれですけど、簡単に中止にしてもいいのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ? もともと私も水筒の販売には、ミラさんと同じ理由で乗り気ではありませんでしたから」
あっさりと販売の中止を決めたエリカに対して、抵抗されると予想していたミラは拍子抜けをするのであった。
「そうだったんですね」
「推し進めた私の立場が…… ぐすん」
「売らないだけで私たちは使えるのだから、リリーも落ち込まないの」
ズズッと紅茶を啜りながら"いじける"リリーの頭を撫でながら慰めるエリカなのであった。
こうして、せっかく作った水の出る魔道具は日の目を見ることも無く、ひっそりとアイテムボックスに仕舞われたのであった。
「よし! こうなったら冷たくて美味しいビールが飲める魔道具を開発しよう! 名付けて、ビールサーバー!」
「捻りもなく、そのまんまですね」
気を取り直したリリーは立ち上がり拳を握りしめて叫んだのであった。
「それが出来たら、エリカさんが居ない時にも飲めるから嬉しいですけど、値段は高そうですね」
「リリー、冷やす魔道具も問題は山積してますよ?」
「そうなの? たとえばどんな問題?」
エリカに問題山積と言われて首を傾げるリリーなのだった。
「飲み物の入った樽を冷やすのか、樽を保管している倉庫を冷やすのか、これだけでも魔石の大きさが変わるし、倉庫を冷蔵庫みたいにするのにも改造をしないとダメだし、まあ、いろいろと試行錯誤しないと完成しないと思いますよ?」
「言われてみれば、そうかも……」
「まあ、少しでもお金が掛かりそうにないのは樽か、倉庫を業務用冷蔵庫に改造するのではなくて、小型の冷蔵庫を作るかのどっちかですね」
エリカの説明にリリーは、そう簡単には物事が運ばないと改めて思い知らされるのである。
「私は詳しいことは分かりませんけど、冷やすのって一定の温度以下を保つことが大事ですよね?」
「その通りですね、だから、気温の高い夏場は冬場の何倍もの魔力を使って温度が上がるのを防がないとダメですから、こればかりは魔石の大きさに掛かってきますので、私の力ではどうしようもない感じがしますね」
ミラが疑問に思って尋ねたのに対して、エリカも自分が思うところを述べるのであった。
「とりあえず、樽で試作品でも作ってみようよ?」
「そうですね、机上の理論よりも実践がなによりですかね? お茶が終わったら始めましょう」
リリーが論より証拠とばかりに気を急くのに釣られて、エリカも同意するのだった。
「私も見学してもいいですか?」
「いいよー」
「ええ、構いませんよ」
「ズズッ うん、今日も平和でお茶が美味い」
そう言ってリリーは美味しそうに紅茶を啜るのであった。