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「これで、注文の品の納入は完了っと」



四人はギルド倉庫に行き、ポーションを納入し終えた。 空間魔法にギルド職員が目を丸くしていたのは言うまでもない。



「では、ワンちゃんの面でも拝みに行きますか!」


「そうですね、ケルベロスが、どれだけの強さなのかも気になりますしね」


「ケルベロスとやらを倒しに行くのかい?」



応接室での話の続きで、ケルベロスの討伐に行くのかと聞くロッテだった。



「うーん、あくまでも様子見かな? ここの人たちだけで対処できるなら、それに越したことはないしね」



ロッテの問いに対して、リリーは様子見と言い、リリーの言葉を汲んでエリカは言い難そうに、



「ロッテさん、冷たい言い方になりますけど、ここで私たちがケルベロスを倒したとしても、それは」


「それは、ウチのギルド員や騎士団の連中の為にならないってことだね?」


「はいそうです、私たちも万能ではありませんから、私たちに頼って掴んだ平穏は、私たちが頼れなくなった時点で、終わります」



誰かに頼って得られた平穏は脆いモノだと諭すエリカなのであった。



「自分の身を守るのは自分自身、冒険者の心得を忘れていたようだよ。 あたしも平和ボケしていたのかもねぇ」


「自分のことは自分でするのが一番だからね!」


「そうですね、頑張って努力して、それでもどうしようもないって時に、初めて神に祈るのもいいかもしれませんね」



ロッテは軽く息を吐き出しながら肩を竦めてみせた。 エリカは、どうしようもなければ最後には助けると暗に含ませるのだが、リリーを神と知らないロッテには通じないのである。



「そんなに信仰心が薄くても、神さまは助けてくれるのかい?」


「努力や苦労をしないで、神に祈っているだけの信仰心の厚い信者よりは、少なくとも私は好きですね」


「ははっ、それではまるで、エリカが神さまみたいな言い方に聞こえるねぇ」



エリカのもの言いに神さまみたいだと笑うロッテなのであった。



「エリカは神を僭称した。 エリカに神罰が下った」


「なにか言いましたか?」


「キノセイデスヨ?」


「神さまも会ってみたら、意外と気さくで心の広い人かも知れませんから、私に神罰なんか下さないですよ? ね?」


「ソウダネ、カミノココロハ、ソラノヨウニヒロイカラネ」



自覚はしていないが神は私だと、エリカをやや非難めいた目で見たリリーであったが、エリカの目の笑ってないスマイルに完敗するのであった。



「心の狭い神さまなんて居るのかねぇ?」


「多分ですけど、神さまも人と変わらぬ心を持っていると思いますので、多少は傲慢な神さまも居るかも知れませんね」



ロッテの言葉に、チラリチラリとリリーを横目で見ながら人の悪そうな笑顔で答えるエリカなのだった。



「要は、神さまと付き合うのも、人と接するのと変わらずに、普段の行いで付き合えってことだね」


「私は、それでいいと思いますよ」


「でも、神さまと接すると言っても、神さまだって全部を見れるわけじゃないでしょ?」


「そうですね、神の眼も神の手も、届く範囲は限られていると思いますから」



リリーが暗に、私は万能じゃないと言ったのに対して、エリカもそれに同意するのであった。



「神さまが見ていなくても、そういう心掛けが大事ってことさね」


「なんだか、難しい話になったから半分も理解できなかったよ」


「宗教観なんて人それぞれですからね、リリーはそのままでいいんですよ。 さて、ケルベロスでも見に行きましょうかね?」


「おー!」



こうしてギルドを後にしてヨークの町の外へと出た四人なのだった。






「ところで、ケルベロスは何処にいるのかな?」


「あんたたちは、場所も知らないで行こうとしてたのかい?」



お気楽に言ったリリーの言葉に呆れるロッテなのであった。



「てへぺろ」


「サーチすれば、居場所は分かりますから大丈夫ですよ」


「もうなんでもありだから、一々驚くのはやめにしとくよ」



そう言ってロッテは少し寂しく笑ったのである。



「主よ、ここから北東に40キロほどの場所で、やや強めの気配を感じるのじゃ」


「そうですね、離れて周囲を半円に取り巻いてる人もチラホラいますし、それが正解みたいですね」


「そこまで詳しく分かるのかい、取り巻いてるのは警戒の為に残った連中だろうね」



クリスとエリカがサーチを使いケルベロスの居場所を探知するのだった。



「どれどれ、ん? このワンちゃん動いてないみたいだね?」


「おおかた昼寝でもしているのでしょうね」


「では、様子を見に飛んで行くのじゃー」



そしてクリスは龍化して三人を背に乗せて、ケルベロスの居る場所へと飛んで行ったのである。






「おー いたいた! あれだな?」


「森の中にポッカリと穴が開いたように空き地があるとは、あのワンちゃん魔法でも使いましたかね?」


「では、降りるぞい」



上空から地上を眺めていたリリーがケルベロスを発見し声を上げた。 エリカが言った通りに、森には不自然に倒木された直径五十メートルほどの空き地ができていたのであった。 地上では、こちらに気付いたケルベロスが不審そうに見上げていた。 クリスは、その空間に躊躇なく降りることを選択するのである。




「ふむ、この子がケルベロスか? だいたいイメージ通りだね」



リリーは自分が想像していたケルベロスの姿と、実物の姿がほぼ同じであった事に微笑むのであった。



「そうですね、では、鑑定」



 名前:ケルベロス

 種族:ケルベロス

 年齢:1456歳

 性別:雄

 称号:【冥界の番犬】


 ステータス


 Lv:41

 HP:4500

 MP:1200 




「弱くね?」


「体力はそこそこ有りそうですけれども、強くはないですね」


「あたしでは到底敵わないくらいは強いはずなんだけど、怯えて見えるのは気のせいかねぇ?」


「弱いのも怯えているのも、気のせいではないのじゃ」



三者三様、好き勝手に言い合うのを纏めるクリスであった。



「……?」



「このワンちゃん戸惑ってないかい?」


「冷や汗を掻いているみたいですね」



突然現れた四人に対して、戸惑いながら様子を窺うケルベロスだった。



「……!!」



様子を窺っていたケルベロスは目を見開いたと思ったら、突如として仰向けに寝転び四肢を宙に投げ出したのである。



「キャウン、キャウーン」


「これって服従のポーズだよね?」


「そうですね、イチモツは見せなくてもいいのですけど」



犬なのに猫なで声を出して服従のポーズをとるケルベロスなのであった。



「これが、ケルベロスかい? 確かに図体はデカイし頭も三つあって異形だがしかし……」


「可愛いよね!」


「可愛いですね」


「プリチィでキュートなのじゃ!」


「辺り一面に剣や鎧、盾なんかが転がっていなければね」



三人が異口同音に可愛いと言うのに対して、ロッテはあたりを見まわしながら、三人の美的センスを疑問に思って軽くため息を吐くのであった。



「確かに、食い散らかした遺体や人骨や臓物やらが散乱していて行儀が悪いですね」


「グロいはずなんだけど、なんとも思わないのが不思議」


「リリーの場合は精神耐性のおかげですね」



精神異常無効のバシップスキルがなければ、元日本人のリリーはこの光景を見て嘔吐していた可能性が高いのである。



「この惨状を見なければ、この魔物が本当に冒険者と騎士団を壊滅させたとは思えないくらいに、従順だねぇ」


「我等の力には逆立ちしても敵わぬと理解しておるのじゃ、利口なのじゃ」



ロッテは服従するケルベロスを見遣って肩を竦めてみせるのだった。 クリスは無駄な足掻きをしないケルベロスを素直に褒めた。



「なんだか懐かれちゃったみたいだけど、どうしようか?」


「ケルベロスが仲間になりたそうにこっちを見ている。 仲間にしますか? Y/N」


「冗談抜きに、そのシチュエーションなんだが」



仰向けの服従のポーズから、お座りのポーズに変わって六つの瞳を潤ませているケルベロスであった。



「当初の予定とは変わりますけど、リリーのペットにでもしますか?」


「それでもいいけど、この姿のままでは不味いでしょ」


「そうですね、流石に、そのまま連れて帰るわけには行きませんからね。 では、こうしましょうか? あらほいさっさと♪」



そう言ってエリカは手のひらをケルベロスに向けて魔法を唱えたのであった。



ポンッ



「これってまんまイギーじゃん!」



エリカの魔法によって変身したケルベロスの姿を見てリリーが叫ぶのだった。



「違いますよ? ボストンテリアのケルベロス君です」


「それがイギーってまあいいか、ケルベロスって言い難いから、今日からおまえはロスと呼ぼう!」


「ワン!」



リリーに名付けられたロスは、嬉しそうに吠えるのであった。



「こんなんでいいのかねぇ……」


「いいんじゃないですか?」


「いや、ギルドに報告するのにね?」



一連のやり取りを見ていたロッテは、呆れてため息を吐くのであった。



「応援が集まったら再度、部隊を編成して討伐隊を送り込むでしょうから、この子の脅威は無くなったと直ぐにでも分かるでしょうから、ほっておいても大丈夫ですよ」


「まあ、手懐けてペットにしましたとは報告できないから、それでいいのかもねぇ」



エリカの言葉に対して、不承不承に頷くロッテなのだった。



「そういえばさ、ロスが此処に居るってことは、冥界の番犬は誰がやってんだろ?」


「さあ? この子の弟のオルトロスが、代わりにやっているんじゃないですかね?」


「ワン!」



リリーの疑問にエリカが適当に答えると、ロスもそれに追随して軽く吠えるのであった。



「適当だな、ロスよ、おまえもそれでいいのか……?」




「この散らばってる人間共の死体はどうするのじゃ?」


「死霊にでもなられたら困るねぇ」


「そうですね、それでは、スピリチュアルヒーリング、魂の安らぎを」



エリカがそう唱えると、森一帯が聖なる光に包まれた。



「ほー エリカが仕事らしい仕事をしたのを初めて見た気がするぞ」


「リリーは失礼ですね? 私もやる時はやるんですよ?」


「殺ると書いてヤルですねわかります」


「お仕置きが必要なようですね」


「ジョークですってば、ジョーク!」



リリーに茶化されたエリカが半目で睨むと、リリーは両手をブンブンと振って言い訳をするのだった。



「漫才はそれくらいにして、そろそろ帰るのじゃ」


「そうだね、報告もできないことだし、このままハージマリに帰るかねぇ」


「うん、お腹も減ったし帰ろうか」


「そうですね、一件落着みたいですしね」



これで仕舞いだと切り上げに掛かるクリスに、みんなも同意するのであった。



「我はカレーライスが食いたいのじゃ」


「クリンスマンはカレーばっかりですね? 他にも美味しい料理はたくさんありますよ?」


「私はラーメンと手巻き寿司とハンバーグが食べたいのだ!」


「はいはい、また今度、作ってあげますから」



子供みたいなメニューを言うリリーの頭を優しく撫でながらエリカは微笑むのだった。



「それは楽しみなのじゃ、では、皆の者、我に乗るのじゃー」




こうして、ヨーク公爵領のAAランク魔物騒動は、山もなく一応の終結をみたのであった。


領都ヨークでドラゴン騒動が起こるのは、また別のお話である。




「クシュン、むむ、誰か我の噂をしているのじゃ」



「ところで、魔界の扉とやらはどうなったのかねぇ?」


「そういえば、すっかり忘れてたね」


「見当たらなかったから、忘れていましたね」


「大丈夫じゃろ? なんとかなるのじゃー」


「ワン!」



ロッテの疑問に対して、ど忘れしていた三人であったが、自、分、た、ち、に、とって危険な兆候は無いと判断して放置を決め込むのであった。 そんなことより腹が減ったので帰るのを優先したともいう。


ラグナロクなんて無かった……。




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