33
「クリスの本当の姿は龍だったとは……」
「へへー 流石のロッテさんもビックリしたでしょ?」
「あ、ああ、ビックリして腰が抜けそうになったよ」
変身したクリンスマンを見て目を丸くするロッテに対して、リリーは悪戯が成功した子供のように笑うのであった。
「皆の衆、我の背中に乗るんじゃ、領都までプチフライトなのじゃー」
「せっかくですから、30分くらい掛けてのんびりと行きましょうか?」
「そうだね、ロッテさん空の旅も乙なもんだよ」
クリンスマンに促されて三人は背中に乗るのだった。
翼を広げて悠然と大空を飛ぶ銀色の龍。 まさにその姿は地上の生物の頂点に君臨する王者に相応しい姿である。 中身は結構アレなのだが……
「確かに空を飛んでるわね…… この歳で新たな体験をするなんて思ってもみなかったよ」
「新たな体験って淫靡な香りがするよね?」
「それはリリーの頭が腐っているのですよ? 普通の人は、そんな反応しませんから」
「うむ、主の脳味噌は湧いておるのからのう」
上空から地上を見下ろして感慨深げに呟くロッテの言葉に、リリーが茶々を入れるのだが、逆にエリカとクリンスマンに突っ込みを入れられるのであった。
「二人とも酷い! エリカなんて私に色々と、あんなことやこんなことをしてるクセに、裏切り者!」
「それはエリカが悪いのじゃ、というかポジションを我と変わるのじゃ!」
「だが断る!」
顔を赤らめて声を荒げるリリーは、自爆しているのに気付いてない。 そして銀の龍と堕天使は、お馬鹿な言い合いをするのだった。
「クリス、あなたまでそっちの人だったの……?」
「我は前に言った通りに両性じゃからの、しかし、基本的に女人しか食べんぞ?」
「この身体で食べると聞いたら、バリバリムシャムシャしか思い浮かばんわ!」
「スプラッタでグロいですね」
クリンスマン改めクリスの背中をバンバンと叩きながら変な想像をするリリーであった。
「二人とも馬鹿なこと言っとらんと、我が人化した姿を思い浮かべるのじゃ」
「そ、それは、宝塚みたいで、ちょっといいか……も?」
「出身者の中で私は黒木瞳が一番好きですね」
男装の麗人のクリスに"あんなことやこんなこと"をされてるのを思い浮かべて、羞恥しモジモジするリリーなのであった。 エリカは平常運転である。
「あんたたち仲いいねぇ、羨ましいよ」
そんな二人と一匹のお馬鹿な会話に呆れながらも、自分の昔を思い出すロッテなのだった。
そうこうしている間に領都ヨークが見えてきたのであった。
ヨーク公爵領、領都ヨークの冒険者ギルド~
「ほえー ハージマリよりも随分と都会だよね」
「そりゃ腐っても領都ですからね」
「冒険者ギルドも大きいしね」
ギルドに着くまでの街並みを、お上りさんよろしくキョロキョロと見回していたリリーだったのである。 ギルド建屋もハージマリの三倍はあろう建屋であった。
「支部長はいるかい? ハージマリ支部のシャルロッテが、お土産を持ってきたって伝えておくれ」
「は、はい! 少々お待ちください」
ロッテの名前を聞いたギルド職員は、慌てて支部長を呼びに行くのだった。
「おお、ロッテか! 早馬が到着する予定は今日のはずだが、行き違いになったのか?」
「久しぶりだねフリッツ。 いんにゃ、込み入った話もあるから、取り敢えず応接室借りるよ」
フリッツと呼ばれた支部長は、スキンヘッドに髭面の五十絡みの普人であった。
「そうだな、して、そちらのお嬢さん方は?」
「それも含めて話すよ」
「ああ、分かった。 おーい、お茶を用意してくれ」
こうして、三人はフリッツと共に応接室へと向かうのだった。
「改めて、ヨーク支部の支部長をしているフリッツだ」
「ハージマリ支部所属、Eランク冒険者のエリカと申します」
「同じくリリーだよ!」
「リリーの従者をしているクリスじゃ、ランクはないのじゃ」
ソファに腰かけてから、お互いに自己紹介をするのであった。
「そういえば、クリスは領都に入る時に身分証を提示しなかったんじゃない?」
「普通にスルーして入ってましたね」
「ん? 普通に認識阻害で入れたのじゃが、不味かったのか?」
ギルドランクから身分証を思い出したリリーが尋ねたのだが、クリスは事もなげに言うのだった。
「ロッテ、どういう事だ?」
「リリーと愉快な仲間たちだから、仕方がないのかもねぇ」
「仕方がないでは、不味いだろ?」
クリスが身分証を提示せずに領都へと入った事に渋面を作るフリッツだったが、ロッテは苦笑いするのみであった。
「まあ、緊急時だし細かいことは置いといて、フリッツ、いまから話すことは他言無用だ」
「確かに緊急時だな、守秘義務は心得ておる」
挨拶はこれまでと、ロッテは真面目な顔をしてフリッツに確認するのだった。
「うむ、まず最初にハージマリに早馬が今日到着したのは、私が報告を受けたから間違いない」
「そのおまえさんが、何故、いまヨークに居るのだ?」
報告を受けた、そう言うロッテの言葉を訝しむフリッツなのであった。
「とりあえず黙って聞いて欲しいのだが、報告を受けて、こちらのお嬢さん方にポーションの製造を依頼して、持ってきたってわけさね。 リリー、ポーションを出してくれる?」
「はいなちょいな♪」
ロッテに言われて手のひらにポーションの小瓶を出してみせるリリーであった。
「こ、これは空間魔法か!?」
「どうやらそうらしい、当然、他言無用だぞ?」
「あ、ああ……」
突然、リリーが何もない空間からポーションを取り出したのを見て、唖然とするフリッツに対して、ロッテは念を押した。
「全部、ここに出しちゃってもいいの?」
「倉庫の方がいいな、後で倉庫に納入しておくれ」
「分かりました」
ここでブチ撒くかと聞くリリーの言葉をロッテが否定し、それに答えるエリカなのであった。
「それで、フリッツこのポーションを飲んでみてくれるかい?」
「ん? 普通のポーションじゃないのか?」
ロッテから小瓶を受け取ったフリッツは、疑問に思いながらもコルク栓を抜いたのだった。
ゴクッ
「こ、これは!?」
「やっぱ、みんな同じ反応するんだね」
「そりゃそうですよ、苦くないんですからね」
ポーションを一口飲んだフリッツの反応を見てリリーが面白そうに言うのに対して、エリカは当たり前だと、いなすのである。
「これは本当にポーションなのか? いやしかし、確かにポーションだな、むむむ……」
「なにがmふがふがっu」
「苦くないだろ? このポーション改を五百本とミドルポーション改とマジックポーションを各、百本づつ持ってきたさね」
頭の中が疑問だらけのフリッツに対して、ロッテは自分の事のように胸を張って告げたのだ。
「ミドルポーションとマジックポーションまでもか? それも百本づつも?」
「もちろん、それらも苦くないぞ? 当然、値段は高いけどな」
「な、なんと、この短時間にこれだけの数を揃えたのか! それもハージマリで…… それもそうだが、移動時間が、ブツブツブツ」
フリッツは驚きと混乱でブツブツと独り言をこぼすのであった。
「ギルドとしては、このポーションの出所を詮索しない条件で、今回の事を彼女たちに引き受けてもらったわけだ」
「ああ、このポーションは間違いなく厄介な代物になるな」
「うむ、ウチのギルド員と商業ギルドの連中が五月蝿そうだが、我々は知らぬ存ぜぬを貫き通す」
「それでいい、AAランクの魔物の対策でテンテコ舞いな所に、いらん騒動は勘弁して欲しいからな」
ロッテが事情を説明すると、フリッツもそれを肯定するのだった。 伊達に領都の冒険者ギルド支部長を任せられている訳ではないのだ。 頭が回り、清濁併せ呑むぐらいの器量がなければ支部長というポストは務まらないのである。 もっとも、フリッツには脳筋の気が有る事にはあるのだが。
毛は無いが。。。
「うむ、ポーションの話はこれぐらいにして、ウチのBランク以上の連中と騎士団を壊滅させたっていう、AAランク相当の魔物ってのはどんなヤツなんだい?」
「いままでに見たことも聞いたこともない魔物らしい、大きさはビッグホーンブルの三倍か四倍で、頭が三匹ある犬みたいな魔物らしい」
ロッテが今回の騒動の核心を尋ねたのに対して、フリッツは両手を広げて身振り手振りで説明するのだった。 それを聞いていたリリーが、
「ん? それってもしかして?」