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リリーホームにて~




「調合! おー 謎の技術だ!」


「瓶が何処から出てくるのか、考えたら負けですね」



リリーが調合のスキルを使って現れたのは、栄養ドリンクと大きさが同じぐらいの陶器で出来た小瓶だった。



「うむ、錬金に通じるモノがあるな」


「どれどれ、どんなモノのが完成しましたかね? 鑑定」



そう言って小瓶に向けて鑑定を掛けるエリカだった。




 ポーション+7 製作者リリー・マルレーン


 HPを120~140回復させる。


 リリー特製のポーション、ニガミ草と綺麗な水で作る初級回復薬。栄養ドリンク並に飲みやすい。




「普通に苦くないのができましたね」


「飲んでみるか」



リリーはコルクの栓を抜いて小瓶の中身を試飲した。



ゴクッ



「うん、普通の栄養ドリンクだな、なぜ苦くないか考えるのはよそう……」


「チートですからね。 これを売るなら、二倍に薄めてから販売した方が良さそうですね」


「そうなの? 高めの値段を取るからこのままでも良くない?」



エリカの言葉に首を傾げて問うたリリーであった。



「ダメですよ、苦くて不味い市販のポーションの回復値は50~60ですよ? ミドルポーションに近い回復値で値段が五倍は安すぎますよ」


「それもそうか、オマケに飲みやすいときたもんだから、ダメか」


「はい、ミドルポーションが売れなくなって、抗議が来るのが目に浮かびます」



周囲との軋轢を避け穏便に事を運びたいエリカは、そのまま販売した時の事態を想像して渋面を作ったのである。



「では、調合、希釈二倍」



リリーは両手で小瓶を包み込むような仕草でスキルを使ったのだ。




 ポーション+1 製作者リリー・マルレーン


 HPを60~70回復させる。


 リリー特製のポーション+7を薄めた物、ニガミ草と綺麗な水で作る初級回復薬。栄養ドリンク並に飲みやすい。




「これなら大丈夫ですね」



ポーションを鑑定して合格点を出すエリカであった。



「二倍に薄めたら+7の価値が+1にまで落ちただと? なんだか、納得いかないな……」


「おそらく、+1ごとに、回復値は+10されているんじゃないですかね?」



疑問に思っているリリーに対して、エリカは素早く計算して推定するのだった。



「なるほど、二倍に薄めたから回復値は半分で、ポーションの基本回復値が50~60だから、付加価値のプラス表示は+1ってことなのか」


「それで合っていると思いますね。 ですから、最初から+1指定の調合をすれば、もっと薬草の使用を抑えられるかも知れないですね」



自分に言い聞かせるように説明するリリーに、是と返して調合のやり方の変更を提案するエリカなのであった。



「なるほど、じゃあ次はエリカも作ってみせてよ」


「分かりました。 では、調合」


「どれどれ、鑑定」




 ポーション+10 製作者エリカ・シュタインベルク


 HPを150~170回復させる。


 エリカ特製のポーション、ミドルポーションと同等の回復値がある。

 ニガミ草と綺麗な水で作る初級回復薬。栄養ドリンク並に飲みやすい。




「ぶっ! +10って!」


「調合Lv99ですから」



エリカが作ったポーションを鑑定して吹き出すリリーに、事もなげに言うエリカなのであった。



「これこそ、そのままでは売れないね」


「いっその事これはこれで、ミドルポーション改とかなんとかの名前で売り出しますかね? 値段はミドルポーションの五倍とかで」


「ということは、えーと、ポーションの十倍の値段の更に五倍だから……」


「12シルバと50ベニーですね」



日本円に換算したら十二万五千円の栄養ドリンクである。



「流石にその値段では高くない?」


「でも、リリーが作ったポーションには1シルバ25ベニーの価値が有りますよ? ミドルポーションはポーションの十倍の値段ですから、妥当では?」


「なんでもかんでも、十倍にすればいいってもんでもないと思うんだけれど」



単純に十倍の値段を付けるエリカに対して、リリーは反論するのであった。



「それもそうですね、4シルバか5シルバくらいが妥当ですかね?」


「あまり安くてもダメだし、それぐらいの価格になるのかな?」


「では、5シルバで売りますね。 ゲーム時代のポーションはどうしますか? 私としてはゲーム時代のは売らない方がいいかと思います」


「そうだね、あれは封印しておこうか」


「それが賢明ですね」



ゲーム時代のポーションは、一番価値が低い初級ポーションですら、回復値が250~270も有るのだから、市場に出回ると混乱するのは必至であるのだ。



「では、ちゃっちゃとポーション+1を作りますか!」


「私は、なんちゃってミドルポーションを作りますね」



こうして二人はポーション作りに励み、数を揃えてから先日の約束通りに、道具屋へ売りに向かったのであった。






「おじさーん!」


「こんにちは」


「お、この前のお嬢さん達かい、今日はどうした?」



元気に道具屋の扉を開け放ったリリーに、店主も愛想良く応じた。



「苦くないポーションできたから持ってきたよ」


「それは本当か?」


「モノは試しに飲んでみてよ。 はい、これ」



そう言ってリリーは小瓶を店主に手渡したのだった。



「う、うむ、確かにポーションみたいだな…… では」



小瓶を受け取った店主は半信半疑ながらも、飲めば分かるとコルク栓を抜いたのだった。



ゴクッ



「!?」


「どう?」



ポーションを一口飲んだ店主の目が大きく開いて固まるのを見て取ったリリーは、してやったりと思い微笑むのであった。



「なん……だ……と!?」


「言い方が少し違いましたね」


「エリカ、そこは個人の自由でしょ?」



驚いている店主のセリフを冷静に判断して処理するエリカに対して、リリーが突っ込むのだった。



「身体に力が漲って来る! これは確かにポーションだが、本当に苦くないポーションを作るとは…… お嬢さん達は何者なんだい?」


「そこは詮索しないで下さい、そうでないと売りませんよ?」



いとも簡単に苦味の無いポーションを作って持ってきたのを訝しる店主に対して、エリカは釘をさすのであった。



「こんな売れそうなモノの仕入れが出来ないのは困るな。 そうだな、詮索しないのが暗黙のルールだしな、了解したよ」


「助かります」


「こちらこそ失礼した、買い取りの金額は前に言っていた通りに一本75ベニーでいいかい?」



再度、確認するようにエリカに聞く道具屋の店主なのであった。



「その金額で構いません。 ポーションは約束ですから、当然そちらにも一日に十本までは、このポーションを卸しますけど、私たちの方でも販売しますので、それは了承して下さい」


「うん? 店を開くのかい?」


「はい、半年前まで雑貨屋だった場所で、同じく雑貨屋みたいなのを開きます」



私たちも販売するの言葉に聞き返した店主に対して、エリカは説明するのだった。



「私たちは一本1シルバ25ベニーで売るから、おじさんは少し安めで売った方がいいよ?」


「なるほど、ライバルと言いたい所だが、俺は、お嬢さん達から仕入れるのだからライバルにもならないか、ハハ」



リリーが自分の所で売る値段を言うと、店主は勝負にならないと乾いた笑いを漏らしたのであった。



「手の内を見せたのは、こちらの道具屋とは共存共栄が出来ると思ったからです」


「ああ、これからよろしく頼むよ。 俺はハンスって言うんだ」


「私はエリカです、こちらこそ、よろしくお願いします」


「私はリリーだよ、ハンスさんよろしくね!」



正直にエリカが告白すると、店主も納得した顔で挨拶をし名乗ったので、二人も自己紹介をするのであった。



「こちらこそよろしく。 うん、取り敢えず、この店では一本1シルバ20ベニーで売って様子を見ようかね」


「卸値の75ベニーはマケませんし、現状では一日に十本までしか卸せませんけど、値札付けはそちらの自由ですので、構いませんよ」


「私たちは定価の値段から下げないけどね!」



道具屋の店主改めハンスは、この店での売り出し価格を告げると、エリカからは確認と肯定する返事が、リリーからは定価で販売するとの言葉が返ってきたのだった。



「随分と強気だね」


「ポーションの五倍の値段でも売れるって言ったのはハンスさんだよ? まあ、名古屋人もビックリの殿様商売は否定しないけどね」


「ハハ、そうだったな。 そのナゴヤ人が誰なのかは知らんけどね」


「貧乏人は苦いのを飲めってことです!」



ハンスの言葉に毒を吐くリリーなのであった。



「リリーの言葉は半分冗談で名古屋人に失礼ですけど、既存の調合をしている人達の恨みを買いたくは有りませんし、それに私たちは製造元ですので、客商売は二の次と言うのは本当ですから」


「俺達みたいな小売りや、元から生業にしている人達を尊重してくれるのは助かるよ。 そうでないと、こちとら商売上がったりだしな」



そう言ってハンスは肩を竦めるのだった。



「それに、もし、このポーションの人気が出て、お客さんがひっきりなしに来られても、私たちには困りますしね」


「なるほど、そういう事もあるか」



エリカの言葉を、"なるほど"と軽く受け流したハンスであったが、ポーションは確実に人気が出るであろうと確信するのであった。



「では、ポーション十本お渡ししますね」


「おお、早速とは助かるよ」


「注文してくれたら、十本までなら遅くても翌日には届けるからね」



エリカはカウンターにポーションを置いてハンスから代金を受け取り、リリーは翌日配達を約束するのであった。



「7シルバと50ベニー、確かに頂きました。 それでは、今日はこの辺で失礼します」


「ああ、売れたら直ぐに注文させてもらうよ」


「じゃあ、ハンスさんまたねー」



こうして、納品と挨拶を終えて道具屋を後にした二人なのであった。






「このままの足で商業ギルドに登録に行きましょうか」


「そうだね、屋号はどうしようか?」


「そうですね、リリー商会とかマルレーン商会とかはどうです?」


「ありきたりだね」



エリカの名付けに、幾分不満げなリリーであった。



「屋号は無難な方がいいと思いますよ?」


「それもそっか」


「では、リリー商会に一票」


「商会ってほどの品揃えはないけどね」


「まあ、確かに」



その後、無事に商業ギルドにも加盟して、リリー商会は誕生したのである。




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