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それからマイホームに家具を揃えたり、魔法や錬金とか調合の練習をして二日過ごして、
――五日目
「百合百合した展開を見せろって? イマジネーションは無限大ですよ? あなたの右手は飾りですか?」
「エリカは誰に向かって言ってるんだ?」
「画面の向こうの大きなお友達にですよ」
「メタだな……」
半目でエリカを見遣るリリーなのであった。
「それはそうと、今夜にでも東方大陸へ行きませんか?」
「へ? 夜に出発するの?」
「はい、時差がありますので、クリンスマンで飛べば東方大陸には朝に到着する予定です」
「時差のこと忘れてたわ、時差ボケになりそうだな」
「そればかりは、クリンスマンの背中で仮眠を取ってもらうしかありませんね」
「寝ている間に空から落ちたりしないかな?」
「それは大丈夫ですよ、堕天使じゃないんですから」
「堕天使は空から落ちたのか……」
時計の針は瞬く間に進んで――夜
ハージマリ近郊のショーシンシャの木の近くで、リリーはクリンスマンを呼び出すのだった。
両手を胸の前へ突き出して印を結ぶ型を取る。 その姿は、まるで陰陽師か修験者の様である。
「我は願う、漆黒の闇の中を切り裂く汝の姿を
我は思う、泰然と光輝く銀の鱗を
我は聞く、心の臓を止める咆哮を
我は見る、あらゆる物を無に帰さす七色の焔を
我は言う、汝は我の僕なりと……
顕現せよ銀の神龍よ!」
シーン……
「リリーは何を言っているのですか?」
「いや、こう言ったら格好良いかな~って?」
ジト目で睨むエリカに対して、リリーは恥ずかしそうに頭を掻き、顔を逸らして言い訳をするのだった。
「格好つけて、そんなことを言っても出てきませんよ。 恥ずかしがるのなら、最初からしなければいいのです」
「男の浪漫を解さない俗物め!」
「ハマーンですか、俗物めって言いたいだけなんですねわかります」
「う゛ー」
顔を真っ赤にさせて唸るリリーだったのである。
「それよりも、さっさとアイテムBOXの画面を出してポチって下さい」
「そ、それじゃあ、あんまりにも情緒が無いじゃん!」
「はいはい、それでは、普通に金貨やポーションを出すみたいにすればどうです?」
「それも、なにも喋らないで出すのが気に食わないぞ」
口を尖らせて文句を言うリリーであった。 その姿は完全に子供である。
「わがままな子ですね。 それでは、普通の言葉を口に出せば良いのでは?」
「それもそうだね。 では、仕切り直して……
クリンスマン出ておいでー」
「呼んだか主よ、久しぶりじゃのう」
現れたのは体長30メートルはあろう巨大な銀色の龍であった。 そこ、金色ペットなのに銀色なのかとか言わない。
「一週間振りかな? こっちの世界では初めてだね、とういか実物は大きいな」
「これでも半分の大きさで現れたのじゃがな、して、用件は?」
「うん、呼び出した早々で悪いんだけど、東方大陸まで私たちを運んでくれるかな?」
「うむ、任されよ」
「クリンスマン、音速の二倍で飛んでくれるかしら?」
「む? エリカも居たのか?」
「失礼ね、ちゃんと居ましたよ!」
クリンスマンのもの言いに対して、やや頬を膨らませて抗議するエリカだった。
「はは、冗談じゃ、そんなのんびりした速度で飛ぶのか?」
「マッハ2がのんびりってどんだけー」
「向こうに朝に到着するように時間調整するのよ」
「なるほど了解した。 では、我の背中に乗るのじゃ」
こうして二人を背中に乗せた銀色の龍は、東方大陸へと飛翔したのであった。
「おー 満天の星空だ!」
「ええ、綺麗ですね」
そこには色とりどりの宝石を散りばめたような、満天の夜空が広がっていたのだった。
「星座が地球と違うから、本当に異世界なんだって実感するよ」
「ふふ、オリオン座と北斗七星くらいしか知らないクセに」
子供のように目を輝かせているリリーを微笑みながら見守るエリカであった。
「目立つそれが分かればいいのさ! しかし、飛行機よりも快適とは凄いね♪」
「主よ、あんな鉄の塊と一緒にされては困るぞ?」
「うんうん、クリンスマンは偉大だよ! 飛行機は乾燥するは五月蝿いはで、苦手だったからね」
リリーの言葉にクリンスマンは納得がいかないと訂正を求めるのだった。 ジェットエンジンの騒音も与圧している影響での乾燥もクリンスマンの背中では無縁なのだから、彼、女、の言葉は当然であろう。
「魔法で空気や気圧を無視してますから快適ですよね」
「うん、魔法のありがたさが身に染みるね」
「少しは仮眠を取って欲しいのですけれども、興奮して無理そうですね」
「うん、無理!」
エリカに後ろから抱きかかえられる格好のリリーは、興奮して眠気など感じずに、穢れを知らない少女の瞳で夜空を見渡すのだった。
「主は子供じゃのう」
こうしてクリンスマンは順調に飛行して、水平線の向こうに朝日が昇って暫らくしてから、東方大陸が見えてきたのであった。
東方大陸~
「ここが東方大陸かー」
「さっそく水田が見えますね。 クリンスマン、人里より離れて降りて下さい」
「了解した」
地上を見下ろせば、昔の日本の長閑な田園風景そのままが広がっていたのであった。
「本日もスターアライ○ンスメンバー、クリンスマン航空をご利用下さいまして、ありがとうございます」
「どこの宣伝ですか」
「言わないといけない気がした反省はしている キリッ」
「はいはい」
降下を始めたクリンスマンの背中で、リリーはキャビンアテンダントの真似をするのだが、エリカは見事にスルーするのだった。
「ノリが悪いよ!」
こうして二人と一匹は地上に降り立ち、東方大陸に足を踏み入れたのである。
「人化したクリンスマンは男装の麗人であったのであるまる」
「クリンスマンってネナベだったのね?」
流石に龍の姿では人里には行けないので、クリンスマンは人化したのだが、その姿を見た二人の反応が先ほどの言葉である。
「ネナベって、エリカは酷い言いようだな。 我は元々両性なのじゃ」
「それってもしかして、ふたなりさんってヤツですか?」
両性の言葉に目をランランと輝かせるエリカであった。
「ぶっちゃけて言えば、そうじゃな」
「なるほど、だから人化は中性っぽいのか。 のじゃはロリBBAの専売特許じゃなかったのじゃー」
「普段はナニは邪魔くさいんで外してあるがの」
「脱着式なんだ……」
何気ない感じでさらっとカミングアウトをするクリンスマンに、リリーは衝撃を受けるのだった。
「脱着式は百合には必須アイテムですね。 リリーも、もっと慣れてきたら試してみましょうね♪」
「た、試さなくていいから!」
妖艶な微笑みを湛えるエリカの言葉を想像して、怖く思い、全力で拒否するリリーなのであった。
いくら夜な夜なエリカに、可、愛、が、ら、れ、て、いるリリーであっても、それは若い果実の突起や小豆とか鮑の表面までだったのだから、元男のリリーとしては、破瓜の痛みがどれ程の痛みなのかなんて想像の範囲外なのだから、拒否するのも仕方のないことなのだろう。
「そうですか? 双頭とか考えただけでもゾクゾクしますのに」
「エリカは夜想曲に隔離されたいようじゃな」
そのシチュエーションを思い浮かべてギラギラと目を輝かせるエリカを、窘める男装の麗人だったのである。
「エリカの目付きが怖いです……」
そしてリリーは"膜"としてはだが、貞操の危機を覚えるのだった。
下書き分(会話文)はあるのですが、地の文が書かれていないので、数日は書き溜めに入って更新が出来ないと思います。
拙い小説ですけど、これからもよろしくお願いします。