25
「アイス5℃ 分離、H2CO3」
ゴキュゴキュゴキュ
「ぷはー いいね、労働のあとの一杯はいいね!」
「汗は掻きませんでしたけど、美味しく感じますね」
ジョッキの半分近くを一気に飲んでリリーが吠えた。
このあたりの姿は元男、サラリーマン時代の名残りが見て取れる。 要は、オヤジである。
そして、それに同意するエリカであった。
「明日はどうしようか?」
「私は最初に家具を見て回りたいですね」
そうエリカは、思案顔で答えるのだった。
「ベットがなければ寝れないもんね」
「はい、でも、お布団っていうのも魅力的ですけどね」
「布団は日本人の魂、ソウルだよ! でも、そうなると今度は畳が欲しくなるな」
興奮気味に捲し立てるリリーに、エリカも追随して、
「畳、いいですね。 イグサに似た植物を探さないといけませんね」
「うむ、探すといったら、早いうちに米も確保したいな」
ゴキュゴキュとビールを飲みながらも、畳と米に思いを馳せるリリーなのであった。
「そうですね、落ち着いたら東方大陸まで飛んで行きましょう」
「東方大陸ってゲームになかったけど、どれくらい離れているのか分かる?」
この世界、エターナルアースは地球とほぼ同じ大きさなのだが、リリーはそれを知らない。
「一応は、ゲームにもあったんですよ?」
「あったの?」
「ええ、キャップが解放されたら登場する予定でした。 ほら、ゲーム時代のマップで灰色掛かった場所があったでしょ?」
キャップ解放の予定。 あくまでも予定は未定である。 キャップが解放される前に、サービスが終了する事は、MMORPGに於いて、稀によく有ることである。
もっとも、このエターナルアースがエタる前に、リリーは転生して異世界に飛ばされたわけであるから、その後のエターナルアースが辿るであろう道のりは知る由もないのではあるが。
それはさておき
「あー、あそこがそうだったのね? 確かにマップの右側、東の方は灰色になっていたわ」
「そう、そこですよ。 距離は、ここから約一万キロ離れていますね」
「遠いね、でも、飛べるからそれほど苦にはならないか」
「そうですね、クリンスマンで飛べば、もっと早く着きますし」
クリンスマン、エリカとは別の金色ペットである。 クリンスマンを出すのにリリーは、ガチャを三万円分つぎ込んでいるのであった。
「クリンスマンがいたか! バタバタしていて召喚獣のこと忘れていたよ。 そういや、なんでエリカだけ、最初から表に出ていたの?」
「リリーが寝落ちした時に、外に出ていたからでしょうね」
「そういえばそうだったか、エリカはメインで使ってたからね」
エリカはガチャ五万円、クリンスマンは三万円、この差がメインとサブの差だなんて口に出してはいけない。
「はい、メインヒロインの座は誰にも渡しません」
「エリカがヒロインだったら私は?」
「ネカマ(主人公)ですかね?」
「それ逆だから。 それに、もうネカマじゃないし」
「塩茹で豆、お待たせしましたー」
そう言ってリーゼが枝豆をテーブルに置いた。
「待ってました、ビールの友よ!」
それから、時間潰しがてら姦しく喋りながらビールを飲む二人であった。
「お待たせー 待った?」
「お疲れさま、三杯飲んだくらい」
クララが声を掛けてきたのに答えるリリー。
「ミラさんもお疲れさまでした、今日は見掛けなかったですね?」
「ええ、倉庫の中で一日中チェックしてました」
エリカが労いの言葉を掛けるのに対して、ミラは疲れた表情で返答するのであった。
「リーゼも、もう上がれるのー?」
「はーい、いま行きまーす」
「あたしもサボって行こうかねぇ」
カウンターを見遣ってクララが声を掛けたのに、リーゼとロッテの母子が返事をした。
「では、みんな揃ったら行きますか? 湯上りのビールは昨日飲んだのよりも、もっと美味いよ!」
そう言って湯上りのビールに思いを馳せるリリーなのであった。
こうして、女六人でリリーホームin露天風呂に突撃するのだった。
「おー これがお風呂ですか?」
「そう、これが露天風呂です!」
露天風呂を眺めて、耳と尻尾をピコピコとパタパタと忙しなく揺れ動かし、リーゼが感嘆な声をあげるのに対して、スッポンポンの身体を恥ずかしくもなく晒しているリリーが、胸を張って答える。 けして、無い胸を張ったわけではない。 慎ましい以上の胸はあるのだ。 見た目が幼い少女の為に、逆に胸は目立っているのである。
合法ロリ万歳。
ちなみに、露天風呂を造ったのはエリカの精霊であって、リリーが威張る事ではないのである。
「なんだか変わった匂いがしますね?」
「そうですね、でも嫌な臭いではないですけど」
クララが興味津々に鼻をヒクヒクさせて問うのに対して、ミラも同じ感想を漏らした。 当然、クララの耳と尻尾もピコピコとパタパタ揺れ動いているのは自明の理である。
「もしかして、温泉かい?」
「ピンポーン、ロッテさん正解!」
温泉か、と尋ねるロッテにリリーが是と胸を張る。 そうまでして、胸を強調するのはいかがなものかと?
「ロッテさん、温泉に入ったことがあるのですか?」
「ああ、若い頃に何度か入ったことがあるよ、肌がスベスベして気持ち良かったね」
「お母さん入ったことあったんだ、知らなかった」
「冒険していれば、いろんな土地に行くからねぇ」
エリカの問いにロッテが昔を懐かしく思い出すように返すのだった。 ロッテさんよんじゅうにさい。
「誰かなんか言ったかい?」
「お母さんどうしたの?」
ロッテの言葉に一同は首を傾げ、代表してリーゼが尋ねるのだった。
「いや、 空耳かねぇ?」
くわばらくわばら
「では、掛け湯をしてから入りますか!」
「掛け湯?」
「こうやって、湯船からお湯をすくって身体に掛けてから、お湯の中に入るのですよ。 とくにアソコは洗い流して下さいね?」
リリーが言った掛け湯が分からずに、オウム返しをしたクララに対して、エリカが手本を見せるのであった。
「なるほど、軽く汚れを落としてから入るわけですね」
「湯船の中が汚れないようにってマナーだね」
「分かりました! みんな、汚れた中に入るよりも、綺麗な中に入りたいですもんね」
手本を見たミラが納得し、ロッテは当然と受け止め、リーゼも素直に聞くのであった。
「では、ざぶーん おー 気持ちイイ!」
掛け湯をしたリリーが湯船に飛び込んだ。 湯船には飛び込まないように、そう注意する大人は皆無だったのである。 徐々に精神年齢が低下しているリリーであった。
女六人姦しい露天風呂な光景をお楽しみください。
「広い湯船にして正解でしたね」
「そうだね、芋洗いになったら楽しみも半減だからね」
いい仕事をしたと、エリカが自画自賛するのに対して、リリーも満足げに頷くのだった。
「ほへー 温まりますー」
「これが極楽ってヤツですかね?」
クララが仰向けで足を伸ばして、湯面に推定Dカップの張りのある双丘を突き出しながら独り言ちた。 双丘の頂きには桜色した突起が見えるのであった。それがなにか、と言葉に出してはいけない。
ちなみに、極楽と現を抜かすミラはというと、うん、まあ、いろいろと残念であった。 双丘とは言えない、僅かばかり平原がこんもりとしいるだけだったのである……
「くしゅん!」
「ミラさんどうしましたか? ちゃんと肩まで浸かった方がいいですよ?」
「いえ、誰かの悪意が感じられた気がしまして……」
心配するエリカを余所に、ミラは首を傾げるのであった。
「リリーさんとエリカさんにはお世話になりっぱなしで申し訳ないですけど、気持ちいいですー」
「気にしなくてもいいよ、私が入りたくて造ったんだから」
「造ったのは私ですけどね」
リーゼが恐縮気味に言うのに対して、リリーが胸を張って答えたのだが、エリカに突っ込まれるのだった。 リーゼもクララと同じ格好でくつろいでいる。獣人はしゃがんで浸かるのが嫌いなのであろうか?
リーゼの双丘はというと、リリー以上クララ未満と言ったところである。
「旦那にも入らしてあげたいねぇ」
「私たちが入ってない時間ならいいですよ?」
「いいのかい?」
肩から首にかけて揉み解すようにする艶めかしい姿でロッテが呟いたのを、リリーが耳に拾って許可を出したのだった。
「ただし、旦那さん、ヨハンさんだけです。 知らない人はダメですよ?」
「あ、あたしゃ旦那以外と入ったりはしないよ!」
ただし、と条件を付けたリリーに対して、ロッテが慌てるように否定した。
「そうですね、見ず知らずの人まで入れる義理はありませんから」
「ありがとう、恩に着るよ」
エリカも、ヨハンは良いと言って、それに礼を言うロッテだった。
「旦那さんのがロッテさんの中に入るんですねわかりm痛っa」
「まあ、結界張ってるから許可した人しか入れないんですけどね」
茶々を入れるリリーに拳骨を落とすエリカであった。
「ロッテさん、ヨハンさんと一緒に入ってイチャイチャしちゃたりして」
「そうですね、来年のいまごろには、リーゼの弟か妹がいたりして」
「あ、あ、あんたたち! なにを言うんだい! それにもう歳だし……」
リリーの茶々に続いてクララとミラまでもが、からかいの言葉を口にするのに、ロッテが赤面しながら反論しようとするも、最後はゴニョゴニョと言葉を濁すのだった。
当然だけれども、ロッテさんはまだ現役です。 エリカより大きな双丘は伊達ではないのである。
ただし、多少は垂れ気味なのはご愛嬌です。 まあ、歳もげふんげふん
ちなみに、ロッテ>>エリカ>>クララ>リーゼ>>リリー>>越えられない壁>>ミラである。
「お母さん、顔が赤いですよ?」
「こ、これはの、のぼせただけだよ!」
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤを声に出す人初めて見ましたよ」
娘のリーゼにまで言われて周囲が敵だらけになるロッテだったのであった。 それをニヤニヤしながら見つめるリリー、それに呆れるエリカであった。
以後、女六人姦しい露天風呂な光景を想像してお楽しみください。
心の眼は嘘を吐かない。 byフリードリヒ大王