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薬草採取を終えて、町に戻ろうとしていた二人の前にモンスターが現れた!
「ねえ、この子どうしよう? 弱すぎて殺すに忍びないんだが……」
現れたのは最弱モンスターの一角、ホーンラビットであった。
「ホーンラビットが仲間になりたそうにこっちを見ている。 仲間にしますか? Y/N」
「そんな画面出てないし、仲間になりたそうにしてないから!」
「そうでしたか、おかしいですね。 ドナドナして連れて帰りますか? 最終的には、ギルドか何処かで殺されますけどね」
冗談を言いつつも、エリカは冷静に冷酷な判断をリリーに求めるのだった。
「屠殺をしてくれる人がいて、はじめて美味しい肉が食べれるって事が理解できた気がするわ」
肉でも魚でも、スーパーでパックのまま売っている姿が真の姿ではないのである。 マグロが切り身で泳いでいると思っている子供の親は、何を教育しているのか問いたい。 問い詰めたい。 小1時間問い詰めたい。
「いただきますと、ごちこうさまっていい言葉ですよね。 リリーが殺さないまでも、連れて帰って私たちの胃袋を満たしてくれる存在に変えましょう」
そう言ってエリカはホーンラビットに魅了を掛けたのであった。 ハーメルンの笛吹きに操られた子供たちと同様に、ホーンラビットは死への旅立ちへと向かうのである。 魅了怖いです。
「うむ、この場合は、可哀想って思うのは偽善を通り越して悪だしね」
「人は見たいモノしか見ませんからね、度し難い生き物ですね」
リリーの言葉にエリカは追随して、辛辣なもの言いを重ねるのだった。
「まあ、そうなんだけどさ、一応は私も元人間なんだしさ、うん、まあ、そのなんだ」
「そのなんですか?」
「空気読めってこと!」
「空気読め 言ってる奴こそ 空気読め こうですねわかります」
五八五、字余り川柳の完成である。
「た、確かに、私は空気読めないわよ! 悪かったわね!」
涙目になって喚くリリーが、そこにいた。
「これが逆ギレってヤツですね。 別に空気は読めなくてもいいじゃないですか? リリーはリリーなんだし、それに私は、空気を読むって言葉自体嫌いですね。 分かっていなくても、如何にも分かってますって感じに装ってなにがしたんですかね?」
更に、どこかのスイッチが入ってしまったようなエリカは持論を捲し立てるのであった。
「自分を偽らなければ日本人の大人には成れないのよ……」
「もう日本人やめて神様なんですから、リリーには良かったじゃないですか。 それに、そんな大人なら成りたくないですね、私は」
溜め息交じりに呟くリリーに対して、エリカはぶっちゃけるのであった。
「エリカさんが怖いんですけどー」
「さて、薬草も取ったしお土産もできたし、帰りましょうか?」
こうして、薬草採取を終えてホーンラビットを生け捕りにした二人は、ハージマリの町への帰途についたのであった。
ドナドナ
「屠殺場へと続く道を荷馬車が~♪」
「荷馬車はないですけどね」
「この子のふいんきだよ、ふいんき」
「ダナダナダーナダァーナ ダナダナダーナダン」
「この歌を歌いながら帰る私たちって結構な鬼畜だよね?」
「人は生きていく為には常に何かを犠牲にして生きていくモノなのです。 うん、いいこと言ったな私」
「自分で言っちゃいましたよ、この人……」
ドヤ顔のエリカに呆れて溜め息を吐くリリーだったのである。
「真面目な話、著作権ってどこまで有効なんですかね?」
「メタったよ、この人……」
「そうですか? だって、ある晴れた昼下がり、これなんて、どこにでもあるような描写ではないですかね?」
当然の疑問とばかりに、エリカは首を捻るのであった。
「それを言ったら、市場へ続く道、これも同じだよね?」
「そうですね。 結局の所は、神のみぞ知るといった所なんでしょうかね」
「一応、私も神なんだけど」
「この世にはリリーよりも遥かに強大な力を持つ神が存在するのですよ? それこそBANとかいう力を振りかざせるような神とか」
「表現の自由なんてなかったんや……」
「表現の自由なんて言葉の魔法ですから、いつの時代も権力者によって、いとも簡単に捻じ曲げられる程度の代物なんですよ。 どこまでなら許されるのか、どこからは許されないのか、許容範囲なんて神以外には分からないのですから、所詮は、神の箱庭の中での、表現の自由でしかないのかも知れませんね。」
エリカは冷めた目をしながら、そう言ったのであった。
「今日のエリカは、やけに突っかかるね、もしかして生理とか?」
「なにか言いましたか?」
ジト目でリリーを睨むエリカであった。 ちなみに、エリカの本体は五歳の幼女であるからして、げふんげふん
「ひょ、表現の自由を表現してみますた」
「ふーん、へー、ほー…… リリーは死にたいみたいですね?」
エリカは、ジト目から更に細められた眼でリリーを見遣るのだった。
「前言は撤回させて頂きますです!」
「よろしい」
「表現の自由なんてなかったんや、とほほ……」
がっくりと首を垂れる稲穂かな
ダナダナダーナ
こうして、二人と一匹はハージマリの町へと帰って着たのであった。
「ただいまー」
「お帰りなさい早かったですねって、生け捕りにしてきたんですか、それ?」
ホーンラビットを見てクララが聞いてきた。
「殺して、担いでくるのも面倒でしたしね」
「は、はあ、とにかく計量してからですね、あちらに回ってもらえますか?」
「ほーい」
二人と一匹は買い取りカウンターへと向かった。
「ホーンラビットが生け捕りの12.3kgで、1シルバ35ベニー、ニガミ草が40株で、1シルバ20ベニー、毒消し草が3株で、90ベニーで、合計は、3シルバ45ベニーですね。 貢献ポイントは合計を二人で折半となります」
「ということは、22.5ポイントですね」
「そうなりますね」
計算を終えて、エリカに銀貨と銅貨を渡しながらクララが肯定したのだった。
「クララ、なんポイントでEランクに上がれるの?」
「100ポイントですから、あと80ポイント弱ですね」
「今日のをあと四回分でEランクって楽勝だね!」
「そうですね、薬草採取だけでも200株取ればEランクですからね。 Fランクは本当に初心者って意味なんですよ?」
意気軒昂なリリーに、クララが微笑みながら説明するのであった。
「なるほど、薬草採取のおばちゃんでもEランク冒険者ってわけだ」
「冒険はしてませんけど、Eランク冒険者の肩書は持っていますね」
「冒険かー してみたいような、面倒臭いような」
うんうんと頷きながらも、冒険について考えるリリーだったのである。
「リリーの好きなようにすればいいんですよ? ギルドのクエストに拘らなくても冒険はできますし、家を買ったのですから商売を本業にしてもいいわけですし」
「そうだね、気が向いたら気の向いたことをしてみよう!」
「エリカさん、リリーさんが、そんなのでいいんですか?」
エリカの言葉に単純に気を良くするリリーだったが、そこでクララが疑問を呈したのだった。
「いいのですよ、私は、あくまでもリリーの従者ですし、あまりにも目に余るようでしたら修正しますので」
「しゅ、修正って、殴んないでよ!?」
「そんな大人、修正してやる! こう言って欲しいのですか? まあ、リリーの姿は子供ですけどね。 それに、誰も殴りなんてしませんよ? 軌道修正の修正です」
「ホッ」
嫌な想像を否定してもらえて、リリーは、あからさまに息を吐き出すのであった。
「お目付け役も大変そうですね」
「そうでもないですよ? 私もリリーと一緒で楽しいですから」
苦笑いのクララに対して、エリカも苦笑いで返したのだった。
「確かに、退屈はしなさそうですね」
「では、私たちは酒場にいますので仕事が終わったら来て下さいね」
「はい、あと小一時間ほど待っていて下さい」
こうして、冒険者ギルドでの用事を済ませて、酒場へと移動する二人なのであった。
ドナドナさんは不味かったかな?