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穏やかな春の日差しの昼下がり、冒険者ギルドの中は閑散としていた。




「クララ、こんにちはー」


「こんにちは」


「にゃっ!?」



リリーとエリカの声に、こっくりこっくりと船を漕いでいたクララが耳を立てて正気に戻った。



「寝てたね」


「ええ、完全に熟睡していましたね」


「ご、ごほん。 リリーさんにエリカさん、いらっしゃい。 あそこの家は買えたの?」



半目の二人に、取り繕うクララだったのである。



「ええ、おかげさまで無事に買えました」


「それは良かったですね。 それで今日は、クエスト受けに来たのですか?」


「はい、午後から受けても夕方には終わりそうなクエストってありますか?」


「それだと、常設クエストの薬草採取かホーンラビット狩りくらいですね」



エリカが尋ねたのに対して、掲示板の端を指差しながらクララが答えた。



「やっぱり、今日中に完了させようと思うと、ほとんどのクエストが朝から受注しなければ間に合わないか」


「リリー、初めてのクエストですし、のんびりと薬草でも探すのもいいかもしれませんよ?」



残念がるリリーを宥めるエリカであった。 もっとも、Fランクが受注可能なクエストは、他も町の中での手伝いなどしかないのだが、それは蛇足というものであろう。



「それもそっか、絶対冒険しなきゃダメってわけでもないしねー」


「では、一応あちらの掲示板に目を通して確認してからクエストに向かって下さいね?」


「あの紙をクララに渡して受注すればいいのかな?」


「いいえ、常設クエストは紙を剥がしてカウンターで受注する必要はありませんよ」


「ゆ、夢が…… テンプレのやり取りが……」



クララの言葉に頭を抱えて呻くリリーであった。 その気持ちは分からないでもない。



「また今度できるじゃないですか、ほら、確認してから行きますよ」


「あい……」



夢破れたリリーを引きずるように、エリカは掲示板へと足を向けるのだった。






「どれどれ……」




 常設クエスト


 薬草採取


 内容:ポーション等の材料になるニガミ草の採取


 買い取り金額:1株3ベニー、非ギルド員の買い取り金額は一割引き


 ギルド貢献ポイント:Fランク1株に付き0.5ポイント、Cランク以上ポイント無効だが、クエスト受注とみなす




 毒消し草採取


 内容:毒消し草の採取


 買い取り金額:1株30ベニー、非ギルド員の買い取り金額は一割引き


 ギルド貢献ポイント:Fランク1株に付き5ポイント、Cランク以上ポイント無効だが、クエスト受注とみなす




 ホーンラビット狩り


 内容:食肉などになるホーンラビットの狩り


 買い取り金額:1kgあたり10ベニー、※要血抜き、状態によりマイナス査定あり、生け捕りの場合はプラス一割査定 非ギルド員の買い取り金額は一割引き


 ギルド貢献ポイント:Fランク1匹に付き10ポイント、Cランク以上ポイント無効、クエストは受注とみなす





「ホーンラビットは生け捕りして持って帰ってきてもいいんだ」


「ドナドナされるカピバラもどきのウサギですね」


「一応、魔物ですから生け捕りで持ってくる人は少数ですけどね」



掲示板を見て話している二人に対して、ホーンラビットの生け捕りについてクララが補足した。



「なるほど、では、行きますか!」


「はい、行きましょう」


「行ってらっしゃい、気を付けて下さいね」


「あ、クララ、もうお風呂に入れるからねー」


「早いですね、仕事が終わったら伺いますね」


「あいよー」



クララに手を振って冒険者ギルドを後にするリリーとエリカであった。






「ところでさ、ニガミ草ってドコに生えているのかエリカ分かる?」


「そこら辺に生えているんじゃないですか?」


「クララさんに聞けばよかったな」


「なんとかなりますよ、町を出たらサーチを使って調べてみますね」


「それもそだね」



肝心な所で抜けている二人なのだが、チートの二人に緊張感を持てと言うのは"せんなきこと"なのかも知れない。






ハージマリの町を出て適当に歩いて行く二人を柔らかな風が通りすぎて行く。




「東風吹かば~ 匂いむせぶる、桃の花~」


「それ、東風吹かばしか合っていませんよ?」


「ふ、ふいんきで言ってるからいいのだ!」


「それに、東風というよりも薫風ですかね? 麦秋も近いみたいですし」


「人が気持ち良く歌ってるのに、エリカは杓子行儀な女だな。 そんなんじゃ道真が化けて出てくるよ」


「菅原道真だと知っていたのは意外でした。 しかし、残念ながら、杓子定規です」


「むむむ……」


「なにがry」



お馬鹿な事を言い合いながら歩いて行く二人を、お天道様は優しく見守るのであった。






トコトコトコ




「ふっふっふふふーん ふっふっふっふふーん ふんふふふんだーふんだーでふんだーでふんだーで ふふん ふふはーへん♪」


「それで分かる人いるんですかね?」



ご機嫌に鼻歌を歌うリリーに対して、エリカは首を傾げて疑問を呈したのだった。



「私のテーマソングだぞ♪ みんな分かるさ! 分からない人はラーゲリ送りな!」


「音痴すぎて分かりませんよ、それにラーゲリは鉄のおじさんの方ですよ?」



自信を持って胸を張るリリーだったのだが、エリカに切り返されて、



「むむむ、せっかくアンデルセンの方で歌ったのに……」



意気消沈するのであった。 憐れリリー。



「なにが、むむむですか。 それではディートリッヒでも違いは分かりませんよ」


「分かった人は親衛隊名誉隊員の称号を授けよう。 分からなかった人はダッハウな! ゲショタポは、あなたの隣に居る」


「リリーは誰に向かって喋っているのですか」


「男には引けない時があるのさ!」


「もう、女ですけどね」



こうして、更に歩いて行く二人であった。






トコトコトコ




ハージマリの町から歩くこと三十分弱、薬草が採取できる場所へとたどり着いたのだった。

そこは、荒野と草原の中間みたいな土地であった。 もっとも、町から延々と同じ光景ではあるのだが。 三キロ程度では変わり映えのしようもないのである。






「見える、私にもニガミ草が見えるぞ!」


「ララつながりですか。 それを言わないと始まらないのは、いかがなものかと?」


「事実を言ったまでだよ、でも、色付きで光って見えるなんて、サーチって便利だね」



スキル、サーチを使うと目的の物が視界に入ったら発光して教えてくれるのである。



「便利ですね、察知系のサーチだけではなくて、スキル採取もこの状態であればバシップで使えますから、簡単にニガミ草以外の薬草も分かりますしね」


「うむ、鑑定とサーチと採取の合わせ技か。 しかし、思っていたより数が少なく感じるな?」



薬草の群生地というのには、ほど遠い数しか視界の中で発光していないのに、リリーが疑問を投げ掛けた。



「サーチを使えない人なら、朝から晩まで探して2,30株くらい採取できたら上出来でしょうかね?」


「日給60ベニーから90ベニーくらいか? 上手い具合いに出来ているもんだね」


「人の営みなんて日本も此処も、たいして変わらないってことですね」



そう簡単に採取できたのなら、瞬く間にニガミ草は取りつくされて無くなってしまうであろう。 これは植物が持つ防衛本能、生存本能によって、人間が逆に助けられていると言っても過言ではない。



「なんだかチートで簡単に採取できちゃって、普通の人に申し訳ないような気がしないでもない」


「リリーは今更そんな事を気にしているのですか? 与えられた立場で最善を尽くす方が、よっぽど健全だと思いますよ?」


「最善を尽くしたら、ここら辺の薬草は粗方取りつくしちゃうじゃん!」


「言葉を額面通りに受け止めないで下さい。 比喩ですよ」


「うん、そうだね。 それで、取り過ぎないように疎らに採取する方がいいのかな?」


「その方がいいですね。 そうでないと、他の人にニガミ草が全く生えてない場所を探させてしまう事になって、可哀想ですね」


「博愛の精神だね。 友愛だね」



他人を思いやるエリカを茶化すリリーなのであった。



「友愛()」


「うむ、自分で言っておいてなんだが、思った以上に恥ずかしかったわ」


「博愛とか友愛ってなんだか、上から目線っぽいですけどね」


「だって、自称神様ですから」


「薬草採取する神様なんているんですかね?」


「ここにいるじゃん」



ニガミ草を一株引っこ抜いて、手に持ったリリーが振り返って言った。



「リリーは神様()ですから」


「それを言ったらエリカだって上級天使プギャーになるし!」


「まあ、誰も私たちが神や天使だなんて信じないですよねーっと毒消し草発見♪」



そう言ってエリカは毒消し草を引っこ抜いたのであった。




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