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「原価率三割五分って少し高くない?」



先ほどのリーゼが言った言葉が気になって尋ねたリリーであった。



「どうなんでしょうかね? お母さん、これは言っちゃてもいいのかな?」


「構わんだろ、リーゼが自分で三割五分って言ってるしな! リリーさんも内容を知っているみたいだし」


「そ、そうでした、では、エールが一番利益率があって計算も簡単で分かりやすいので、エールで計算しますと、エールひと樽でジョッキ約340杯分になるんですよ。 それで、エールひと樽の仕入れ価格が2シルバ50ベニーなんです。 エール一杯3ベニーで出している訳ですから……」


「だいたいエールの原価率は二割五分くらいですね」


「そうです、エリカさん計算速いですね」



リーゼは素直に関心したのであった。 それに対してリリーはというと、



「暗算できんかった……」


「リリーは電卓ばっかり使っていたからですよ。 それに2シルバ50ベニーから計算するから難しく感じるんです」


「クワッドコア搭載のエリカに言われたくないわい!」


「イン○ルハイッテル? 私の脳味噌は108個までありますよ?」


「また始まったよ狐方言漫才が」


「なにを言っているのかさっぱりですね」


「うむ、まったく分からんがビールが美味いことは分かるぞ ゴキュゴキュ」


「と、兎に角、一杯3ベニーのエールの原価は約7.35アイゼンで原価率は約24.5%となります」



クララが呆れ気味に呟き、ミラが首を傾げる傍でロッテは美味そうにビールを飲み、それを横目で見つつも最後にリーゼが纏めたのであった。


そこにタンボのように耳をそばだてていた、強面で若い普人の冒険者が一言、



「おいおい、それじゃあ俺達は一杯7アイゼンのエールを3ベニーで飲まされてるって訳かい? それって、ぼったくりじゃねえのか! あ゛!?」


「なんかきた」


「テンプレ乙ってヤツですね」



文句を言ってきた若者を嬉しそうに眺めるリリーとエリカであった。 リーゼはオロオロと動揺して、



「お、お、お母さん、どうしよう!? あわわ」


「落ち着きなさいリーゼ。 見ない顔だね、流れ者かねぇ? 正確には、あなたは銅プレートだから2ベニーと7アイゼンで飲んでいるはずよね? 文句があるのなら他所で飲んでくれてもギルド的には一向に構わないのですよ? この町でウチより安くエールを提供している店があったかしら?」



娘を宥めつつも若者を挑発するロッテ。 クララも続けざまに、



「商売のしょの字も知らない人が茶々を入れると恥を掻くだけですよ? 」



そう呆れ顔で嫌味たらしく言った。



「ぷぷぷ、しょ、しょの字、く、苦しい草生えるというか、生やしたい」


「いまいちツボが分かりませんけど、好き嫌いが分かれますし、主に否定的な面で叩かれますから、我慢して下さい」



笑いの琴線に触れたらしいリリーが目に笑いの涙を溜めているのを、エリカが冷静に切り返した。



「ぐぬぬ、み、みんなもそう思うだろ!?」



ロッテたちに言い返された若い男は、周囲の賛同を得ようと酒場に居た他の冒険者を見回して言い放った。



「やめとけやめとけ、若いの、おまえが可哀想だから忠告してやるがな、そこの宿屋の女将には逆らわない方が身の為だぜ?」


「そうだな、流れの銅プレートが通る道とも言うがな。 おまえさんがソロみたいだからアドルフ(モブA)も、態々心配してるんだぜ?」


「んだ、アドルフとベント(モブB)の言う通りだ。 おまえさんがケンカを売って勝てる相手じゃないのよ、シャルロッテさんは」


「それに、此処より安い店がないのも本当だぜ? 酒場でエール一杯の値段が分からないようなネンネならママのおっぱいでも吸ってな」


「「「「ぎゃははははー」」」」



酒場に居た他の男たちは異口同音に、賛同を求めてきた若い男の言葉を否定して、最後には爆笑したのであった。



「むむむ……」


「なにがmほごぅ「脊髄反射しないの」uふがふがっ」



賛同を得られなかった若い男が唸るのを、リリーが突っ込みそうになり、リリーの口を塞いでエリカが止めたのだった。



「また漫才している」


「なにかの儀式みたいですね」



ここ数時間で見慣れた光景となった為に、クララとミラは落ち着いてスルーする事ができたようである。



「言わせておけば、みんなして馬鹿にしやがって! こうみえても俺は荒野の瞬雷と呼ばれているんだぜ!」



そう言って若い男は剣の柄に手を置いたのだが、そこにエリカが一言、



「やめておいた方がよろしいですよ? この人数を相手に勝てるとお思いで?」



口調は丁寧だが、目を細めて相手を恫喝しているような雰囲気を醸し出していたのであった。



「こ、荒野の瞬雷、は、腹がががーーー」



リリーはプルプルと震えて腹を押さえて蹲ってしまったのである。



「ちっ、酒が不味くなったわ! 飲み直しに他所にでも行くか!」



エリカの威圧にたじろぎ、そう捨て台詞を吐いて酒場を出ようとする若い男に、ロッテが声を掛けた。



「いつでも戻ってきてもいいさね、またおいで!」


「ふん!」


「お、お会計まだですよ?」


「ほらよ、釣りはいらねえよ」


「ど、どうも、ありがとうございました?」



慌てて会計したリーゼがお礼を言い、強面で若い冒険者は大銅貨を1枚置いて、悔しそうに酒場を出て行ったのであった。



「毎度ありー ってあなた達、あの子をいじめちゃ可哀想でしょ?」


「俺達があいつをからかわなかったら、姉さんがあいつをいじめてたでしょうに」



ロッテは出て行った若い男を見送ってから、酒場に残るモブたちを振り返り窘めたのに対して、モブを代表してアドルフが返した。



「それは、あの子の出方次第でしょうさね? あたしゃ、自分からはケンカは売らない主義なんでね」



肩をすくめて溜め息交じりに、そう答えたロッテだったのである。



「あー、笑い死ぬかと思ったよ、腹が捩れて痛いです。 普通こういう場面では、若い兄ちゃんが頭に血が昇って剣を抜くってのがテンプレでないの?」


「ええ、予定は未定だったみたいで、つまんなかったですね。 でも、ここで剣を抜かないだけの分別があって助かりましたね。 主に彼が」


「……」



拍子抜けして首を傾げるリリーに対して、エリカも同調しながらも、若い男の、身、を、案、じ、る、ように言った。 それをロッテが胡乱な目で眺めるのであった。




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