1
チュンチュン…
鳥の囀りが聞こえる。
「うーん… もう少し、あと5分だけ…」
ポタッ…
「ひゃっ!」
ガバッ
「冷たいー! ……えっ!? …なんで森の中なの??」
勢いよく上半身を起こし、キョロキョロと辺りを見回す一人の少女。 そう、少女である。
年の頃は12才ぐらいで、身長は145前後で髪の色は薄いエメラルドグリーンか浅葱色のショートカットといったところだ。 瞳は瑠璃色で肌は健康そうな肌色。服装は何故か緋袴の巫女衣装である。
特筆すべきは、背中に生える四対八翼の翼と頭部で小刻みにヒョコヒョコ動く小麦色の獣耳と同じく臀部から生えるフサフサでモフモフな太い尻尾であろう。
大きなお友達には可愛らしいく見えると思うが、世間一般の人達からすればキメラに見えなくもない容姿なのかも知れない。
「あー てすてす ただいまマイクのテスト中…… うん、俺が喋ってる声だな……」
自分の声に違和感を感じた少女はマイクテストをしてみたらしい。 端から見れば完全に不審者である。
立ち上がり、おもむろに自分の両手を見つめる少女。
「手が小さい? それに目線が低いような……」
もう一度キョロキョロと辺りを見回してから自分の足元を見やり
「巫女服?」
それから、白衣の合わせ目に手を伸ばし、少しはだけさせ中を覗く少女。
「胸がある。 否、おっぱいがある!」
おっぱい(聖遺物)が有れば、する事は一つである。 ましてや、その聖遺物は自分の胸に付いているのだから……
「推定、B以上C未満といったところか?」
そう、少女は自分の聖遺物を両手で揉んだのだ。
パンパンっ
そして、緋袴の前部を手のひらで軽く叩く少女。 端から見れば完全に変態である。
「うん、無い マイサン(我が息子)が無い」
「えー」
「つまり、これらから導き出される答えは……」
……
「でぃもーると デ・モールト」
「ぐーとぐーとグーーーート」
「はらしょー オーチンハラショー」
「キタッ! 俺の時代が来たっ! TS少女キターーーッ!!」
右腕を天高く突き上げガッツポーズを決める少女(変態)。 無駄にキラキラのエフェクトを振り撒きながら。
ピコッ
「ふへっ!?」
頭に軽い衝撃を感じて、思わず間抜けな声を漏らした。
「落ち着いて下さい、ご主人様。 それと女の子なんだから『俺』って言わないで『私』って言って下さい」
「へ? 誰?」
後ろから可愛らしい音色で窘める声が聞こえ、振り返る自称少女。
「誰もいない……」
「ご主人様、上です」
そう言われて、声のする方を見上げると、そこには身長80㎝前後で金髪碧眼の可愛らしい少女が、ゆるりと三対六翼の翼をはためかせ宙に浮かんでいた。
手にピコピコハンマーを持っているのは謎だが。
「……」
「……」
見つめ合う少女()と少女(幼女)。
「もしかして、ペット(召喚獣)のエリカ?」
「はい、もしかしなくても、ご主人様の大好きな、ご主人様が大好きな可愛い可愛い天使のエリカですよ、ご主人様」
「自分で可愛い可愛いって連呼しちゃう女の子って…… それに、3Dアニメ風のキャラが実写になると、違和感がバリバリ……」
「なにか言いましたか?」
「イエナニモイッテマセンヨ?」
ニコニコ笑っているようだが目が笑っていないエリカを見て凍り付く少女A。
(こえー あの目は怖いよ! エリカに逆らうのはやめよう……)
「ゴ、ゴホンっ それはそうと、俺が巫女服のアバターでエリカも居るから、此処ってエターナルアースオンラインの中の世界だよね?」
エターナルアースオンライン 通称EEOは所謂MMORPGである。
「俺じゃなくて私」
エリカにピコッとピコピコハンマーで頭を叩かれる少女。
「はい、すみません…… (俺がエリカのご主人様だよな……?)」
「よろしい。 う~ん、正確にはエターナルアースオンラインに似た異世界って言った方が正しいですね」
「ゲームの中じゃなくて異世界?」
「はい、ご主人様は寝落ちしたまま元の世界では死んじゃったみたいですよ?」
「なん……だと……」
「私も気が付いた時には、ご主人様と一緒に此処に居ましたから詳しい事は分からないのです」
「ん? そしたら、エリカは此処が異世界って事や、俺…じゃなくて、私が死んだって事を知っているのは何故なの?」
「う~ん、なんとなく頭の中に知識が入っているみたいですね」
「ご都合主義ってヤツか……」
「身も蓋もない言い方しないで下さい」
そう言ってジト目で少女を睨むエリカであった。
「それにしても、ご主人様は自分が死んだ事に動揺してませんね?」
「ん? そうだな、リリーのアバターとはいえ、お、私はこうして生きているみたいだしな!」
少女改めリリーは腕を組み控えめな胸をそらして尊大に言い放った。
それを見たエリカは、あからさまに溜め息を漏らして
「はぁ~ そのポジティブさを前の人生で発揮していたのなら、35過ぎて自宅警備員なんかにならなかったのに……」
「ちょ、なんでそれを知っているの!?」
「なんでって言われましても、知っているモノは知っているとしか言いようがありません。 ご主人様と私は一心同体ですから」
「つまり……」
ゴクッと喉を鳴らして冷や汗を掻くリリー。
「ええ、ご主人様の恥ずかしいあんな事やこんな事の「やめてぇーーーーーーーーー」過去とかも色々と」
「もう私のライフはゼロよ!」
「まあ、ご主人様の過去には同情しますけど……」
頭を抱えながらゴロゴロとのた打ち回るリリーを、憐憫の眼差しで見つめるエリカがそこに居た……
「ハァハァ…… ヴぅーーーーーーーっ」
「少しは落ち着きましたか?」
「HPバーがガリガリ削られたわ……」
「1ドットも減ってませんよ」
「気分の問題なの! それにエリカはずるい! 私はエリカの過去を知らないのに、エリカだけ私の過去を知ってるなんて、ずるい!」
白衣の裾を噛み、涙目になってエリカを睨みながら吠えるリリー。
「ご主人様は私の過去を全部知ってますよ?」
「え? そうなの?」
「ええ、私の過去は、ご主人様と一緒に居た5年間が全てですから」
「ゲームの、エターナルアースの世界がエリカの全て?」
「はい。 ですから、こうしてプログラム、電子の世界から現実の世界に出れて、感無量です」
そう言ってエリカは、ニッコリと微笑んだ。
「此処を現実って言うのなら、私もエリカと同じで感無量だな。 ファンタジー小説で定番の異世界転生が出来たんだから!」
「はい! ご主人様、これからもよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
「まず、最初に現状確認だな。 VRMMO小説とかでは、こういう時には……」
「こういう時には?」
「ステータスオープン! のわっ!」
リリーは、奇声を上げてバックステップを踏んだ。
「びびったー 本当に画面が出るとは」
「この仕様は私も知りませんでした」
「エリカにも、この画面が見えるんだ?」
「はい。 私は、ご主人様の召喚獣ですから」
「ふむ。 未来でVRが実現したのなら、こんな感じなんだろうな。 リアルでバーチャルを体験する事になるとは」
「リアルでバーチャルって日本語破綻してませんか?」
「いいの、リアルもバーチャルも英語だし!」
「カタカナ語で定着してますけどね。 まあいいです」
「なんか、エリカの性格が怖いんですけど……」
「なにか言いましたか?」
「いえ!? エリカは可愛いな~ って」
「うふ♡ ご主人様にそう言ってもらえるとエリカ困っちゃう~♪」
「ゴ、ゴホンっ で、肝心のステータスはというと……」