ひまわりの下に埋まっています
私の名前は太田 陽あだ名は太陽。成績そこそこ。運動神経そこそこ、顔面偏差値50ほどの、どこにでもいる普通の女子高生だ。そんな私がなぜこの物語のヒロインになったかというと……
「あなたの運命は…
あぁ、残念ですね。あなた死にます。」
「え?」
どうやら私はこれから死ぬ運命にあるらしいからだ。
「ほんと…意味がわからないわ。なんなのよあのインチキ占い師。」
今朝登校中、すれ違いのインチキくさいおばさんに突然声をかけられ、連れて行かれ、そして100均で買ったイヤホンのように安っぽい先ほどの言葉を浴びせられたのだ。
「おはよー」
イライラしている私に綺麗な声がかけられる。
日向葵ちゃん。あだ名は向日葵ちゃん顔面偏差値70ちょい。高身長、スタイル抜群。おまけに誰にでも優しい。あと、それから…もういいわ。そうね、完璧よ。私はあなたが大嫌いだけど。
「おはよう」
少し微笑んで空っぽな言葉を返す。
みんなのアイドルひまわりちゃんは根暗な太陽の方まで見てくれますってか。輝いてない太陽でごめんなさいね。って、なんて卑屈なんだ私は。
いろいろとうまくいかずイライラしながら教室に上がると私が入るのとほぼ同時に飛び出す男とぶつかる。
「あ!ごめん!太陽!」
去って行きながら綺麗な顔をこちらに向ける男の名は
「海斗くん!全然いいよ!」
海斗くんとは私の好きな人で、この忌々しいあだ名をつけた人。
叫び返すけどもう彼はいなくて、彼を追いかけて出てきた彼の親友の山田くんに彼の行き先を聞かれただけだった。
私が席についてしばらくしてからひまわりちゃんが何人かの友達と楽しそうに雑談しながら階段を上がってきた。そう、不幸にもこの完璧人間さんと同じクラスなのだ。
ひまわりちゃんは友達たちに軽く手を振ってから私の斜め前の席にカバンを置いた。間違って目でも合わないようにと手元の教科書たちに視線を落とす。そんな私を知ってか知らずか、長い髪が空中を切り、綺麗な顔が振り向いた。
「ひなたちゃん、今日一緒にご飯食べていい?」
いきなり何を言い出すのか。目をパチクリさせると、可愛らしい顔で首を傾げた。
「え、あぁ、えぇ」
恥ずかしながらも私は普段立ち入り禁止の屋上で一人で弁当を食べている。断る理由はなかった。だけど、承諾する理由もなかったはずなんだけどなあ。
いよいよ昼休みになって、ひまわりちゃんは私の前に弁当を広げた。とても小さな可愛らしいお弁当。
「いただきまーす」
無言でご飯を食べている私に対して笑顔でおいしー。などと言い出す彼女。
「あのさー」
話しかけると、一度持ち上げた卵焼きを元の場所に戻した。私の顔を見つめている彼女の頭の上にはわかりやすくはてなが浮かんでいて私の続きを待っている。
「なんで、今日…」
私と一緒に食べようと思ったの?
一人で食べてることに気づいていて、その同情?それならやめてほしいんだけど。
ほとんど口から出ていない言葉を右頬にとどめておいたタコさんウィンナーと一緒に咀嚼して飲み込んだ。
止まっていたひまわりちゃんもまた箸を進めだし、暫くしてこちらも見ずに
「迷惑だった?」
と口だけで聞いた。
はいすごく。
「いいえ、全然。」
一列挟んだ窓の外を眺めながら言うと、視界の隅の彼女は脱力したようにふにゃりと笑って
「よかったー。」
と呟いた。
あぁ、海斗くんはこの顔が好きなんだね。羨ましいなそんな顔できて。本当。
「ひまわりちゃんは本当に海斗くんと付き合ってるの?」
いきなり聞いた私に驚いた様子で見上げる綺麗な顔。
「ん?恋話?」
ケラケラと笑いながら 一応ね と答えた彼女は何かを含んだ言葉を一瞬で空気に溶かした。
「そっか」
わかってたことでも落ち込む。そんな心情を悟られたくなくて、
「どんな感じ?」
と話しかけた。会話が続いてるなんてはじめてよ。
「んー、可もなく不可もなしって感じかなー」
予期せぬ返事に失笑して なにそれ と呟いた。
「ひなたちゃんはやっぱり笑うと可愛いよ。うん。」
その時の私にはその言葉がただの皮肉にしか聞こえなかった。
数日後。
死ぬ宣言をされていたことも忘れてかけていた私に、ひまわりちゃんと海斗くんが別れたというニュースが流れ込んだ。どうやらひまわりちゃんかららしい。朝からルンルンです。スキップをしながらいつもの道を通りすぎる。あの時の占い師の水晶が転がっていた。それを見て、これから死ぬというのに私ったら呑気ね。と思う自分とやっぱり安物の水晶、偽物ね。と思う自分がちゃんといた。
その日もなぜかひまわりちゃんは私の前に弁当を広げた。
笑いはするものの何も喋らないひまわりちゃんに目を向ける。
「どうして別れたの。」
本当は上がりそうな口角を必死で抑える。多分今他から見た私は不貞腐れた顔をしている。
「多分…」
ひまわりちゃんは一向に減らないお弁当をつつきながら言葉をつないだ。
「好きな人がいるの、私。実は結構前から。」
その言葉を聞いて、驚いて呆れた。あぁ、結局そういう子なんだ。知らなければよかったわ。
「でも、その人は、別の人のことが好きなの。」
いやいや、私もその状態だったから。三角関係だったから!多分。
「私ね、」
ひまわりちゃんは窓から入る日の光を追った。
「あなたが好きなの。ひなたちゃん。」
ちょうど風が吹き込みカーテンがふわりと上がる。光が差し込む教室。目の前のひまわり。
「……ありえないわ!」
それが私たちのはじまり。そして彼女の終わりだった。
全てを恨んでいた私は消え。ひまわりちゃんとは仲良くしている。もちろん、友達として。
「ひなたちゃんちゅーしよ?」
「嫌です。」
「ぶー。」
今日も今日とて、私はひまわりの下に埋まっています。
読んでいただき感謝です。