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こんな夢を観た

こんな夢を観た「電車の切符」

作者: 夢野彼方

 田端駅の改札を出ようとすると、

「ピンポーン、係員にお知らせ下さい」とアラームが鳴った。

 すぐに駅員が飛んできて、

「お客さん、料金が不足していますよ」と言う。

「あ、すいません。うっかりしてました」わたしは精算機で追加料金を支払った。


 もう1度自動改札に切符を入れると、

「ピンポーン、係員にお知らせ下さい」

 また、駅員がやって来る。


「ちゃんと、不足分のお金を支払ったんですよ……」わたしはおどおどと説明する。

「あー、今度は料金が多すぎましたね。こりゃあ、もっと電車に乗ってもらわなくては」

「えっ、ここで降りたいんですけど」

「ダメです。そういう規則になっていますから」とまるで、融通が利かない。


 わたしは仕方がなく、電車に乗り込んだ。

 切符を確かめてみると、池袋まで乗らなくてはならなかった。そこでいったん下車し、再度、反対回りの電車で戻ってこなくてはならない。

 まったく面倒なことだった。


 乗車の際、わたしは「山手線」であることを確かめて乗ったはずである。ところが、次の停車駅は「駒込」ではなく、なぜか「駿河湾」だった。

「そんなばかなっ……」東京のど真ん中から、いきなり静岡まで来てしまった。

 駅看板で次の駅を見ると「ずんどこ」となっている。東京からどれだけ遠かろうと、「駿河湾」なら、とりあえず場所はわかる。ところが、「ずんどこ」とはどこなのか、見当もつかない。

 わたしはひどく不安になった。


 いっそ、ここ「駿河湾」で降りてしまおうか、とも考えた。けれど、ホームは周囲をぐるりと海で囲まれて、港ははるか彼方に霞んでいる。おまけに、この小さな駅には人の気配すらなかった。

 こんなところで、いつ来るかもわからない次の電車を待つなど、怖ろしくてたまらない。

 「ずんどこ」がここよりましであることを期待して、もう少し乗り続けることにした。


 「ずんどこ」駅に着いた。ずいぶんと山深い場所である。数年前に廃線になったローカル線、そう言われても素直にうなずいてしまいそうだ。

 世の中には「わびれマニア」というのがあるそうだが、彼らならこの景観の素晴らしさが理解できるに違いない。

「ここで夜を迎えることになったら、熊や野犬とパーティを開くことになりそうだなぁ」ぶるっと首を振る。

 わたしはシートに座り直した。


 次の駅は、どこだかさっぱりわからなかった。というのも、窓の外を、濃い霧がおおっていたからである。

 霧は全てを白く包み込み、カンテラらしいぼんやりとした光ばかりが、滲むように差してくる。

「たぶん、だけど」わたしはつぶやいた。「あの霧の中には、邪悪な怪物が潜んでいるんだろうな。好奇心に負けて探索に行った者を、頭からボリボリと食べてしまうんだよ、きっと」


 最後に停車した駅は、なんと「池袋」だった。人混みの作る喧噪が、この時ばかりは懐かしくも心地よく感じられた。

 わたしは電車を降り、改札へと向かう。

 自動改札機に、少し緊張しながら切符を挿入した。


「ピンポーン、係員にお知らせ下さい!」

 すぐさま、駅員が現れた。

「お客様、本日はご乗車ありがとうございました」ぺこりと頭を下げる。「山手線に乗車された方は、丸ノ内線もご利用なさっています。他にも有楽町線などがお勧めです」


 わたしはどちらも断った。

 この次は「アマゾン」にでも停車しそうな気がしたからである。 

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