SECT.7 はじまりの終わり
ひそひそと小さな声がした。
眼を開けるほどは覚醒していない。ぼんやりと耳に入る単語を追いかけた。
「3年間も? 国にはまったく報告していないのか?」
「……してないわ。だってもう何十年も前に無くなったと思われていた滅びのコインなのよ? 今さら見つかって、いったいどうするというの?」
「国王はそれを望んでいる」
「私はあの子をそんな世界に入れたくないのよ」
「だが、戦になるのは時間の問題だ。その時グラシャ・ラボラスの力がどれほど切望されると思う? どれほど有効に働くと思う?」
「そういう問題じゃないわ!」
ぴりり、と空気が揺れた。
その声を聞いたことで少し覚醒に近づいて、手をピクリと動かした。
それだけで体のあちこちに痛みが走った。
「ぅ……」
まだ、生きている。
連続で何度も何度も死にそうになって、何度も諦めたけど。
まだ、生きている。
「ラック!」
ずっと聞きたかった声がした。
うっすらと眼を開き、ブロンドを視界の隅に入れてほっとする。
「ねぇ、ちゃん」
「よかった……」
ねえちゃんの顔色が悪い。大丈夫なんだろうか。
「だいじょうぶ? 顔色……あんまりよくないよ?」
そう言うと、ねえちゃんは泣きそうな顔で笑った。
なんで?
「ばかね」
額にひんやりとした手の感触があった。
気持ちいい。
「休みなさい」
「ねぇちゃん」
「なあに?」
「銀色のヒト……見たよ。すごくきれいなヒト……路地裏に落ちてた」
「そう」
「そんでね、壁が壊れてて……怪我してて……」
ああもう自分でも何を言っているのか分からない。
「も一度……会いたい……」
ねえちゃんの顔が悲しそうに歪んだ。
「分かったわ、分かったからラック、今は眠りなさい」
「うん。いっぱい話したいこと……ある……よ……」
意識が深いところへ沈み込んでいく。
ねえちゃんの顔も声も、痛いのも全部遠くなっていく。
波間に漂うようにしてゆっくりと眠りに落ちていった。