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SECT.4 はじまりの危機

 左腕の痛みで目が覚めた。

 うっすら目を開けたが、あたりは暗がりで様子がよくわからない。

「目が覚めたか」

 低くてよく通る声がして、目の前の空間にヒトがいることに気付いた。

 シルバーブルーの髪と深い群青の瞳、それに透き通るような白い肌――自分が気絶する直前路地裏に落ちていたヒトだ。

 少しずつ暗闇に目が慣れてきた。それでもここがどこなのかまでは分からない。暗くてこの空間の広がりがどこまであるのかが見えないし、周囲に何かがある気配もない。ただ、自分の背中に木か柱か、何かそんな形状のものがあってそこに自分が寄りかかっていることだけが分かった。

 改めて見ても、暗闇の中でもそのヒトはやっぱりきれいだった。まるで夜光蝶の燐粉をまとったみたいにそのヒトの周りの空間だけ輝いて見えた。

「きれい……」

 思わず呟くと、そのヒトは自分のほうに歩み寄ってきてぐい、と髪を引き上げた。どうやら自分が頭に巻いていた水色のバンダナはどこかで落としてしまっていたようだ。括っていたはずの黒髪は肩に落ちていた。

 目の前に群青色の深いブルーアイが迫る。

「何を言っている」

 動こうとしたが動けなかった。どうやら後ろ手に縄でくくられているようだ。動いた瞬間左手と首筋に鋭い痛みが走った。

「ぐっ……」

 血の匂いがする。自分のだろうか、それともこのヒトの?

 キモチワルイ

「あきらめろ。印もつけた。もう逃がさない」

 ずきん ずきん

 左腕と首筋の痛みに耐えて、何とか銀髪のヒトを見上げた。

 が、銀色の髪を視界に入れた次の瞬間、気を抜けば意識が飛びそうな激痛が全身を駆け巡った。

 血の匂い。

 全身を襲う痛み。

 薄暗い空間に、銀髪のヒトが一人――

「うあぁぁぁぁ!」

 地面が崩れ落ちるような恐怖が襲った。心の内が抉り取られるような感覚と吐き気を催すほどの嫌悪感、目の焦点が合わなくなるほどの衝撃が同時に自分の中で爆発した。

 痛みも忘れてがむしゃらにもがいた。

「あああああ」

 暗闇に浮かぶ銀の髪がこちらに近づいてくる。

 何かの映像が目の前に飛来する。

「うぁ……く……」

 暗闇に光るブレイド、むせ返るような血の匂い、全身を襲う痛み、そして……浮かび上がった、銀髪のヒト。

 脳裏に焼きついた光景と体が覚えている感覚が目まぐるしく全身を駆け巡った。

「いやああああ!」

「いったい何だ!」

 そのヒトの一喝で、はっと我に返った。

「はあ……はぁ……」

 激しく心臓が脈打っている。頭がくらくらする。気分が悪い。吐きそうだ。

 自分の体が傾いだのがわかった。

 辛うじて縛られた手がつっかえとなって倒れるのは免れたが、おかげでひどい痛みが襲ってきた。

 だが、それに抗う気力は残っていない。

 何キロも全力疾走した後みたいに疲労している。体が重い。力が入らない。額に大粒の汗が浮かんでいる。

 目を開いているのも億劫だ。

 いつものフラッシュバックとは比にならない強烈さで、自分の体力をすべて奪ってしまった。

 荒い息を整えていると、

「いったい何なんだ……貴様」

 その銀髪のヒトは舌打ちして自分に背を向けた。

 それは自分が聞きたいことだ。

 いったいどうしてこんなことになっているんだろう?今日はいつもと同じようにパトロールして、帰りにケーキを買って食べる予定だったのに。

「おかしいな」

 もう、何がなんだか分からない。

 この銀髪のヒトは誰なんだろう。探している『光』って何なんだろう。どうして自分はこのヒトに嫌われているんだろう……?

「くそっ。」

 銀髪のヒトは闇の中で少し震えていた。

「『光』、どこだ……どこに行ったんだ……」

 ああ、『光』っていうのはこの銀髪のヒトの大事なヒトなのかな。自分にとってのねえちゃんみたいに。

 ねえちゃんがいなくなったらきっと自分もこうやってがむしゃらに探すんだろう。

 でも、どうしてその人のことを自分が知っていると思ったのかな。

 目覚めたとき、目の前にいたから?ただそれだけ?

「ちくしょ……」

 低くてよく通るつぶやきが悲痛なものに変わった。

「探してるのか……?『光』ってヒト」

 荒い息の下でかろうじてそんな台詞が出た。

「レメゲトンが! 貴様に関係ない!」

 その瞬間に群青の瞳で射抜かれた。

「レメ……?」

「昨日のやつの仲間だろう! 貴様は生かしておかん!」

 銀髪のヒトは蒼白な顔で立ち上がった。

 そうだ、このヒトからは血の匂いがしていた。どこか怪我をしているはずだ。顔色も悪い。

「怪我……してんじゃないか?」

「貴様に関係ない」

 先ほどと寸分違わぬ台詞を吐いて、銀髪のヒトは自分を睨み付けた。

 さらりと銀髪をかきあげて、耳の横に手を置いた。どうやら耳を澄ましているようだ。

「そう……昨日のやつとは無関係か」

「え?」

 昨日?どういうことだろう。

「貴様が持っていたのはどうやらロストコインらしいな。何も知らないわけだ。が……」

「!」

 よく女らしくないと言われるが、唯一肌身離さず持ち歩いているアクセサリーがある。

 それが、コインをトップにしたペンダントだった。

 見たことのない複雑な文字が周囲に刻まれたメダルは、中心に何かのモチーフであろう幾何学模様が掘り込まれている。

 何という金属か知れないがくすんだ黄金色で鈍い光を放っている、用途の知れないコインだ。

 それはずっと胸元にしまってあるから、このヒトが知っているはずはないのだ。

「ちょうどいい。目覚める前に片付けてやる。コインは破壊する!」

「なん……ぐっ!」

 なんで知っているんだ、と聞こうとしたが、その前に口を塞がれた。首筋に手がかかる。

 何をする間もなく、目の前が暗くなった。

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