おじさんとエレン
おじさんと出会ったのは6つのときだった
怒ってばかりのママがいやで、パパのところに行こうとした
家にあまりいないパパの顔はぼんやりとしていたけど、優しい人だったことは覚えている
どこにいけば会えるかなんて分からなかった
ただアイに手をひかれたから
この手だけは、絶対に放してはいけないと思った
「見て、おじさん!」
学校から帰る途中におじさんの家によるのはもう日課のようになっている
「エレン、お帰り。なんだ、今日はいつにも増して元気が良いじゃないか」
「ねぇねぇねぇ!これ、これみて!!」
エレンと呼ばれた少女は頬をリンゴのように真っ赤にし、喜色を顔全面に浮かべていた
一枚の紙を男の眼前に広げ、かけられるだろう言葉に期待しているのが分かる
『水沢エレン』
そう紙の右端に大きな文字で書かれているそれは、紛れもなく答案用紙だった
名前の下には赤いペンで100点と記されていて、何故だか楽しげに蝶まで飛んでいる
「凄いじゃないか、エレン。100点なんてそうそうとれるものじゃないぞ」
子供を誉めるにしては大分ローテンションな態度だったが、子供は大きな目を更に大きく見開き、瞳をキラキラと輝かせた
少女は体当たりをする勢いで男に飛びつき、腕を男の首にしっかりと巻きつけた
飛びついた反動もそのままに、両膝は見事に下腹へときまる
衝撃と痛みで倒れてしまいそうになる身体に力を込め、なんとか少女を支えることに成功した
「エレ、ン。私も歳なんだから、そういうのは勘弁しておくれ・・・」
「ふふっ。おじさんったら本当にダメダメね!わたしくらいひょいって受け止められなきゃもてないんだよ?」
「どうせ私はもてないよ・・・。それはそうと、お前の片割れはどこにいるんだい?いつも一緒に帰ってくるのに、何故今日は一人なんだ」
ゆっくりと少女を下ろし、蹴りをくらった腹を掌でさすった
「アイちゃんは、図書室によるっていってたー。本当はいっしょに帰りたかったんだけど、早くおじさんにこれ見せたかったからわたしだけで来ちゃった」
えへへ、と子供らしく笑ったエレンだが、自分の片割れともいうべき存在が近くにいないことが不安なのか、次第に表情が曇りだす
どうしたものかと男は考えるが、とりあえず目下にある頭を撫でることにする
ふたつに結ばれていた髪は少し乱れ、子供特有の細い髪の毛が指に絡まった
「エレン、冷蔵庫にプリンが入っているよ。お前の好きな、あまーいやつだ。アイのことは私が迎えに行くから、お前はプリンでも食べて待っていなさい」
「わぁ!プリン?!やったー!!」
ついさっきまで落ち込んでいた子供は、大好物の甘味のことを想像してもう笑顔が戻っている
「冷蔵庫に入っているものは好きにして良いが、私が出た後はしっかり戸締りしておくんだよ。あぁ、そうそう。もう少ししたらツバサが来ると思うけど、ツバサ以外の人が来てもドアを開けてはいけないよ」
うん!とエレンが大きく頷くと、男は子供の片割れを迎えに家を出た