2姫
転校してきた少女に魔の手が~
彼女の名は松郷ちはるといい、転校早々に学校中にその存在は知れ渡っていた。あまりの影響力の大きさに僕らは彼女の身の危険を案じるほどだった。
僕らが初めて彼女のために行動したのは、転校してきた彼女の席についてのことだ。
「やあ、ちはるちゃんよろしくね」
彼女にそう声をかけたのは僕のクラスきってのやんちゃ坊主で、すでに幾人かの女生徒と交際し、すでにしこたま経験をつんだと豪語する力也である。
彼女に初めて割り当てられた席は力也の隣だった。これはまずいのではないか。彼女に良識あらば心配ないのかもしれないがあるいは……。
僕は次郎と顔を見合わせた。
「提訴だ」
僕らは即刻担任に席替えの敢行を訴え出た。しかし最近行われたばかりなのでそんなすぐにやるわけにはいかないと押し返されてしまった。僕はしずしずと引き下がりそうになったが次郎はそうではなかった。
彼はその後ひとりで校長室に席替えの訴えを上告し、あらゆる理屈をこねまわして説き伏せた。
するとあくる日席替えは行われることになった。僕は彼の行動力に感服した。
「もし校長もイエスと言わなかったら、教育委員会に申し出るつもりだった」
そこまでする必要があるのだろうかと僕は思ったが、彼の判断が間違いでないことはのちのちわかった。
初めての席替えを彼女も楽しそうに見守っていた。誰もがその輝く笑顔の隣に座すことができるならこれ以上の喜びはないとばかりに興奮していた。
席はくじによって決まり、先生に呼ばれた順に席についていった。僕の後ろに次郎が座ることになったのは運が良かった。
しかし彼女の席がどこになったか。僕らは驚いた。
「あれ、また隣だね、ちはるちゃん」
力也だった。こんな偶然もあるものかと僕は思ったが、次郎はそうは考えなかった。
「あいつ、担任を買収しやがったな」
いくらなんでもそんなことまでするだろうか。僕は楽観的だったが、次郎は眼を鋭く光らせた。彼は力也の素行調査をすることをひそかに仲間に依頼した。




