考察する白露
「秋なのに、まだ暑い。どうかしてるよね」
半袖のワンピースを着た優璃が両手でぱたぱたと空気を仰ぐ。
「温暖化、か」
俺が呟くように言うと、優璃がそれに食いついた。
「ね!もう温暖化なんて早く終わっちゃえばいいのに!!」
「無理だろ。少なくとも、人間が増えるうちは」
「うう・・・暑いのは嫌いー」
ぐでー、と音が付きそうなくらい項垂れる優璃に、俺はふとした疑問を投げかけた。
「そんな事を言うなら、暑い間は此処には来ないで家にいればいいだろう」
「・・・そういうわけにもいかないの」
「何故だ?」
何気なく聞くと、優璃は少し眉間に皺を寄せた。
「家にいるとね、勉強させられちゃうの。折角此処に来ることに目を瞑ってもらってるのに」
「・・・目を瞑ってもらってる?」
俺は優璃の口から出た言葉に更に疑問に感じた。
「うん、赤坂が・・・あ。えっと」
「あの中年執事がどうかしたのか?」
「えっとね、えっと・・・」
優璃が変に言葉を探す。俺は推測できたので、促す。
「お前の父親が出てくるのか?」
「・・・うん」
「いいぞ、出して」
「ありがとう」
優璃は微笑むと、少し声を落として言う。
「赤坂がね、お父様に私がここに通い詰めてることを言ったの」
「・・・そうか」
まあ、そうだろうとは思っていた。それから、不審にも思っていた。
この少女が、俺の所にほぼ毎日来れるという事実に。
「私、お父様に呼ばれてね、ちゃんと毎日勉強するなら、ここに来ても良いって言ってくれたの」
俺はその一言に目を見張った。
・・・あの男は、俺とコイツとの接触を嫌がった筈だ。なのに、何故?
疑問に疑問が重なる。
ふと、ある一つの推察が浮かばれた。
・・・まさか、あの男・・・。
ギリッ、と無意識のうちに歯を鳴らした。優璃が驚く。
「コ、コウ?」
「悪い。今日はもう帰ってくれ」
「え?で、でも・・・」
「頼む。また明日、話そう」
出来るだけ柔らかく微笑むと、優璃は渋々と帰って行った。
少女のいなくなった閑散とした場所で、俺は独り考える。
あの男・・・・羽鳥優成。
あの男が俺と優璃を会わせる理由。優璃が俺に会いに来る事を許す理由。
もし、俺の考えが正しいとしたら。
「・・・優璃は、」
どうなる?