少し暑い日には
「コウ!!」
彼の元へ行く度に募るこの想いは、何処へやればいいのか迷うくらい大きく募った。
「・・・優璃か」
「うん!」
なんだか今日は眠たげだった。
「あれ、どうかした?」
「昨日は暑くてな。眠れなかった」
そういえばもう5月の半ばだ。ここは、寒いときはより寒いし、暑いときはより暑くなる。
「うーん・・・服、それしかないの?」
薄着ではあるけど長袖だから、捲くりでもしないと暑いと思う。
「腕、捲くったら?」
「・・・嫌だ」
えーっ、と不満の声を漏らすと、
「それに、この状態だと捲くるに捲くれない」
じゃら、と音を立てて手錠のような物を見せてきた。
・・・確かに、この短さじゃ捲くるに捲くれない。
「じゃあ、私がやってあげようか?」
「お前が?」
「うん!ちょっと待ってね・・・」
そう言って、格子の間に腕を滑り込ませて、
「ほら、コウ!腕貸して?」
「あ、あぁ・・・」
少しだけ唖然とした様子で、コウは渋々と腕を差し出した。
強引に袖を引っ張って、それから捲くる。
身体全体じゃなくて、腕だけを突っ込んでるから、やりづらい事この上ない。
「うぅ・・・んっ」
袖を折っていって、前進するように促す。
半袖状態になったところで、ある違和感を覚えた。
・・・コウの手が、私のお腹に触れてる。
それが何故かやけに恥ずかしくて、思わず離れてしまった。
「・・・?どうかしたか?」
「あっ、ううん!なんでもない!!」
首を振れば、不思議そうな顔で見られた。
もう片方の腕も捲くってあげて、拷問並みの恥ずかしさに堪えた気がした。
「・・・ありがとう」
礼を言われて、嬉しくなる。
「ううん、こんな事でいいなら、全然やるから!!」
照れているのを隠すために笑顔を見せると、コウも笑った。
最近見せてくれるようになった、柔らかい笑顔。
それを見るたびに、嗚呼、私はこの人が好きなんだ、と確認した。
「・・・じゃあ、もう行くね。バイバイ!!」
軽く手を振って、大分歩きなれた道を歩く優璃を見た。
「・・・」
姿が見えなくなるまで見送ってから、捲くってくれた袖を見た。
あの小さな手で少しだが、俺の肌に触れた。
それだけで、身体が熱くなるのを感じた。
「・・・俺は、馬鹿か」
じゃら、と音を立てて手錠をついた掌を見た。
「・・・」
俺は、この手であの少女に触れる事が出来るのか。
そんな事を思いながら、目を閉じた。
花見話は出来ませんでした(笑)
その代わり、少し暑い5月の話を書いてみました。
・・・あれ、これ、一話につき一月経ってないか?
じゃあ、次話は6月ですね(笑)