桜散る
ようやく春になり、桜も咲き始めたころ、またあの少女はここへ来た。
「コウ!」
元気に俺の元へやって来る少女―羽鳥優璃。
羽鳥財閥の一人娘にして、本日より中学生になる。
「入学式、終わったのか?」
「うん!一番最初にコウに逢いたいと思ったの」
少女らしい、可愛らしい笑顔に思わず頬が緩む。
「似合う?」
と、スカートの裾を持ち上げ、首を傾けながら聞いてくる優璃。
「そんな事してたら見えるぞ」
「わっ!わーっ!!コウのスケベ!」
「誰がだ」
わーわーと騒ぐ優璃を呆れながら眺めつつ、ポソリと呟く。
「似合うぞ」
「・・・・・ほんとう?」
文字通りピタリと止まり、こっちを見ながら、ほんのり顔を朱に染めて。
「それとも、世辞が聞きたいのか?」
「ううん!聞きたくない!」
元気に答えれば、ふわふわと揺れるスカート。
くるくる回る優璃に、コイツは本当に中学生の女子なのか?と疑問を持ちたくなる。
温室育ちだからなのか、それとも無邪気であどけないこの少女の性格故なのか。
「そういえば、お前の通う学校って、どんな所なんだ?」
「えーっとね、小中高大一貫の、おっきい学校!!」
言いながら両手を広げて身振り手振りをする様子は明らかに子供の其れだった。
・・・そうだ、コイツは、羽鳥財閥の娘だ。
それを忘れてはいけない、忘れてはいけない、のに。
「それにプラスされて、付属の幼稚園があったりとかするよ。私はずっとそこにお世話になってるの」
「お世話に、ねぇ・・・」
ジャラ、と足枷の音を響かせて、目を瞑る。
「・・・じゃあ、俺は二年間、ここで世話になってるな」
「・・・・・それは、お世話されてる、って言わないよ」
片目を開いてちらりと見れば、最近俺に見せるようになったあの表情。
やけに寂しげで、やけに大人びた表情。
何故だかはわからないけど、その表情を見たくなくてまた目を閉じた。
「・・・眠い」
「あ、うん。じゃあ、私、もう行くね?」
「嗚呼。学生生活、楽しめよ」
そう言うと、クスリと笑う声が聞こえた。
「うん!!また来るね、バイバイ」
きっと手を振っているであろうその姿すら、俺は見ることをしなかった。
まるで、彼女を否定しているような気持ちになった。
何処かで、桜の花びらがはらはらと散っていった。
はい、お久しぶりです、優深です!!
色々ありましてですね・・・休んでました(汗
今日から復活です!
今回は短めになりました。
そして季節が少し外れたものになってしまいました・・・。
次回はお花見でもやらせますか(笑)