雪とお茶
「コウー!」
少女・・・優璃が、俺のいる檻へと駆けてくる。
暖かそうな格好だった。
今は3月の半ば。もうすぐ春の兆しが来てもおかしくはないのだが。
「ここだけ、なんかまだ冬っぽいよね」
彼女はそう言うと、バッグの中から何かを取り出した。
「・・・ポット?」
「うーん、魔法瓶、って言うんだっけ。温度が変わらないんだって」
笑いながら蓋を開けて、それをコップがわりにして、中身を注いだ。
「暖かいお茶なんだけど、大丈夫?」
「なんで俺に訊く」
「だって、コウの為に持ってきたんだもん」
彼女そそう言うと、鉄格子の間に、コップを差し出した。
それは、するりと格子の間をすり抜けてきた。
「飲める?」
俺は答える代わりに、それを受け取って飲んだ。
「美味い」
「よかった」
優璃はそう言うと、しゃがみ込んだ。
「ねー、コウ?」
「なんだ」
「・・・コウは、ここから出たい、って思ったことないの?」
そう言って俺を見上げる。
「思った。最初だけ」
「最初だけ?」
「そう。でも、もう諦めた」
「諦めないでよ!!」
優璃は思い切り立ち上がって、大声で言った。
「・・・優璃?」
「あっ・・・。う・・・ごめんね」
小さな手が格子に触れた。鉄だから冷たい筈なんだが・・・。
「冷たい」
「冬だからな」
「暦上は春だよ」
「暦なんて知ってたのか?」
「もう!」
彼女はぷくっ、と頬を膨らませて、怒るような仕草をとった。
それが面白くて、思わず笑ってしまった。
「笑わないでよ!私だって、そんな見た目より子供じゃないもん!」
腕を振りながら大声で喚く優璃。
「幾つになったんだ?」
「今年で13だよ!」
「俺の5歳下か」
「え・・・じゃ、コウは18歳?」
「まだ17だけどな」
俺がサラッと言って見せると、優璃は俯いて、
「そんなに上なのか・・・」
と呟いた。
「歳の差がどうかしたのか?」
訊いてみると、優璃は思い切り顔を上げて、
「なんでもない!!」
首を全力で左右に振った。
「優璃?」
「な、なにっ!」
「赤いぞ、どうかしたのか?」
「え!?」
彼女はそう言うと、両手で頬を押さえた。
「ああ。耳まで赤い」
首を傾げて、格子ギリギリまで近づく。
「ち、近い・・・」
「寒いのか?大丈夫か?」
「大丈夫・・・です」
優璃の吐息が顔にかかってくすぐったい。
「くすぐったい」
「コウ、近いよ!」
優璃がそう言うと、一、二歩退いた。
「お前の顔が赤いからだ。心配してやったんだぞ?」
「ありがとうございます!!」
そう言って俺の手を叩いた。
「痛い」
「煩い!!あー、もー!」
また両手で頬を押さえて、のた打ち回っている。
「・・・どうかしたのか?」
「なんでもないです!コウは黙ってて!」
理不尽だと思いながら、言われた通り黙っていた。
「・・・」
「・・・?」
「・・・・・・」
「コウ・・・?」
優璃は、何事かと、俺の方へ近づいて、俺の顔を覗き込んだ。
「コウ!」
「・・・・・・なんだ」
「どうして黙ったの?」
「お前が黙れと言ったんだろ」
「だからってわざわざ黙ることないでしょ!?」
信じられない、とブツブツ言ってる優璃に、俺は、
「お嬢様だから、命令慣れしてるんじゃないのか?」
と、冗談のつもりで言ってみた。すると、
「・・・お嬢様、なんて言わないで」
悲しそうな、そんな声で返された。
「お嬢様だからって、我侭を言っていたのは幼い頃だけ。今はそんなことなんて、ない」
だから、命令とかじゃない。
彼女はそう言って、哀しげな眼で俺を見た。
「・・・悪かった」
「大丈夫だよ」
微笑んでくれた。少し胸に痛みが走った。
「あ、そうだ。おかわりいる?」
「・・・貰ってもいいか?」
「もちろん!」
優璃は笑うと、俺からコップを受け取って、またお茶を注いだ。
湯気が漂って、香ばしい、いい匂いがした。
「優璃」
「なに?」
首を傾げて、俺を見つめてくる。
「寒くないのか?」
そう訊くと、彼女は笑って、
「大丈夫!」
両手を広げて答えた。
俺も釣つられて笑った。
そうやって、しばらく話していると、優璃に変化があった。
空を見上げ、輝かしい顔でこう言った。
「雪!」
「雪?」
そう。雪だった。しんしんと降ってくる雪。
「綺麗だよ!ほら!!」
指を指してはしゃぐ優璃。
俺は、しゃがんで、上を見上げた。
灰色の空から、白い胞子の様なものが降っていた。
「・・・綺麗だな」
「だよね!凄い!」
一層はしゃいで、時折ジャンプもする優璃。
「子供だな」
「むー。悪うございましたねっ!」
膨れっ面をしながらも、眼は雪に釘付けだった。
「コウ、お茶自分で汲んでね!」
優璃はそう言うと、お茶を俺に差し出してきた。
俺はそれを受け取ると、自分で汲んだ。
そして、それを優璃に差し出す。
「?・・・どうしたの?」
「やる。寒いだろ」
「え、でも」
優璃は受け取るのを躊躇しているようだった。
あいつの気にしている原因を理解した俺は、少し笑って言った。
「俺はそういうの気にしないから、大丈夫」
「う・・・じゃあ、頂きます」
優璃は俺の手から受け取ると、そおっとコップを口付けた。
「・・・・・・美味しい」
「そうか」
「うん。・・・ありがとう、コウ」
そう言って微笑む優璃。
胸に、暖かい何かが流れた気がした。
「コウ、雪、凄いね」
「そうだな」
ここから見る雪は、とても幻想的だった。
どうしてだろう。ここで見る雪は、2回目なのに。
去年は、ただ寂しげで、孤独しかなかったのに。
「・・・そうか」
「ん?」
優璃はこちらを向いた。その勢いでお茶をこぼしたらしく、
「あつっ」
と言って濡れた手をぶんぶんと振った。
「お前、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。大分温くなってたし」
「ならいいんだが・・・」
「ごめんね。心配してくれてありがとう」
苦笑しながら言う優璃。俺も少し笑ってみた。
・・・そうか。こいつが来てからなんだろうな。きっと。
俺の世界は、きっと、コイツのお陰で広がって、綺麗になっていくんだろう。
「ありがとう」
「・・・?どうかした?」
優璃は不思議そうな顔で訊いてきた。
「なんでもない」
少しそっぽを向いて、眼を瞑った。
「・・・もうすぐ暗くなる。帰れ」
「あ、うん・・・。またね?」
優璃は手をひらひらと振って、歩いて帰っていった。
俺は、その後ろ姿を、少し未練がましく見ていた。
自分でも気付くぐらい、大きな未練だった。
はい、どうもです。ごめんなさい。
こっち書くの楽しくなっちゃった・・・(汗)
歳の差が明らかになりましたね。
優璃が12歳、コウが17歳です。
その差、5歳差です。
これ以上は縮められなかった・・・。
本当は、もっとあったんですけどね(笑)
さて、今回のお話ですが。
コウも、優璃に徐々に好意的なものを持っていきます。
あれ、展開速くないか・・・?
これからのろのろ書きます(笑)
ロリコンじゃないんです。
たまたま好きになった子が年下だっただけなんです!!
という苦しい言い訳。
そんなものすらないですが。
頑張ります。