初めての日
私は、赤坂に連れられて、家に戻った。
「・・・随分、嬉しそうなお顔をされていますね」
「そうかなぁ?」
ほっぺたをグニグニを引っ張りながら、首を傾げて訊いてみた。
「ま、いっか。私、もう部屋に戻るね!」
「はい」
そのまま部屋に直行しながら、初めてあの人・・・コウにあった日を思い出す。
あの日に比べたら、物凄い進展だった。
だって、あの日は、会話すらしてくれなかったもんね。
遡る事一ヶ月・・・。
あの日、私は家の中にある林に入って遊んでいた。
一人で家を抜け出すのは珍しいことじゃなかったけど・・・。
帰ってくるたびに、擦り傷やら切り傷やらつけて帰ってくるので、皆心配した。
「そんなに心配しなくてもいいのになぁ~」
心配してくれる事に申し訳ないと思う半分、子供扱いされたくないという気持ちもあった。
そんな事を思い、時々独り言として呟いて、林の中を探検した。
この林には、いろんなものがあった。
大きい木が沢山あって、枝や根がとても大きくて。
「うわっ」
ドサッと転んで泥をつけては、手で顔を拭っていた。
適当に、目印もつけずに探索していた。
だから、しばらくしてから気付いた。
「あれ?」
ここは、どこ?
左右を見る。大きな樹木が生い茂っていた。
時折、風の音と鳥の声が聞こえた。
それ以外は、しんとした、静かな空間。
「もしかして・・・」
迷った。と呟いてから、鳥肌が立った。
敷地内で迷子。幼い子供じゃあるまいし。
いや、実際幼いんだろうな。私。
「とにかく、歩いてみよう」
そう呟いて歩いた。音がないと不安になった。
ブツブツ独り言をしながらの探索は、正直いって不気味なので、歌っていた。
私の大好きな歌。飽きるぐらい聞いて、飽きるぐらい歌った歌。
「~♪~♪」
大声で歌った。時折つまずいて転んだ。
そうでもしないと泣いてしまうから。
しばらく歩いて、あるものを発見した。
檻・・・?
蔦が格子に絡まって、おとぎの国の話を思い出す。
違うのは、檻のデザイン。これじゃまるで・・・
「動物を容れる檻みたい」
正直な感想を言って、檻に近づいてみた。ゆっくり、一歩ずつ。
中に動物はいるのかな。どんなものが入っているんだろう。
わくわくする反面、恐怖や不安もあった。けど、好奇心が勝った。
「こんにちはー・・・」
なんて言って、中を見てみた。そして、驚いた。
「人・・・!!?」
思わず大声で叫ぶように言ってしまった。中にいた人が、こちらを向いた。
檻の中にいたのは、少年と言うのには少し躊躇われる年頃の男の人だった。
黒髪に、白い服。両手に手錠の様なものと、片足に、鉄球の錘。
そして、静かに佇む、獣のような瞳。
「だ、誰・・・?」
上ずった声で聞いてみた。
「お前が誰だ」
「わ、私・・・」
「さっさと出て行け」
冷たい声。勢いよく捲し上げられるわけではないのに、不思議と後ろに退いてしまった。
「あの、どうして、ここに・・・?」
「・・・」
男の人は、答えてはくれなかった。寝転んで、頭を抱えるような体勢で。
「・・・私の」
「・・・・・・?」
私の声に反応して、こちらを向いた。震えていたのかも知れない。
深い青の瞳が、私を見つめる。
「私の、お友達になってくれない?」
その台詞を吐いた瞬間に、彼の顔が一気に歪んだ。
「ひぅ!」
冷たい、憎悪が含まれた瞳で睨まれた。
「・・・そんな、顔しても、怖くないもん」
「・・・」
また睨まれたので、キッと睨み返した。
「決めた。私、貴方と友達になる」
彼がより一層不機嫌そうな顔をしたので、私は、一歩だけ後退した。
そして、精一杯の笑顔を作って。
「また、来るね!!」
手を振りながら、走ってそこから逃げるようにして。
いや、実際逃げたのかも知れない。
走って、走って、走った。
気付くと、林の出口に立っていた。顔中汚れていた。
「う・・・っ」
思わずしゃがんで、嗚咽を抑えるように、口に手を当てた。
「う・・・ひぐっ・・・」
我慢しきれずに泣いて、泣き疲れて寝ていたところを発見されて、叱られた。
「懐かしいなぁ・・・」
あの日から、毎日のように、あそこに通った。
ばれても通った。叱られても、怒鳴られても。
そして今日、思わぬ進展があった。
「ふふふっ!」
思わず笑みがこぼれた。クッションを掻き集めて、ボフボフと顔に叩き付けた。
「あ~・・・嬉しいなぁ」
にやけが収まらない。今の私を見たら、みんな引いちゃうだろうな。
「コウ」
コウ、コウ、コウ、コウ。
何回も繰り返す、愛しい人の名前。
彼と出会ってから一週間で、私はあの人の事が好きになった。
黒の髪、青の瞳、華奢な身体、ひんやりとした雰囲気。
多くを語ってくれなかった、けど、たまに返してくれた言葉。
きっとこれを言えば、多くの人が、気の迷いだと言うだろう。
一週間だ。一目惚れでもなく、馴れ合ったわけでもない。
でも。確かに、私は、あの人を好きになったんだ。
だから。
「これからも、頑張るから」
呟いた言の葉は、静かに部屋を漂った。
・・・ごめんなさい(汗)
どうしても滾ってしまった。反省はしています。
優璃の片思いになりますね。これ。
これは構造とか曖昧なので、予期せぬ出来事満載です(笑)
次は、二人の絡みを書きたいと思います。