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獣と少女


あれから3年の月日が経った。

許婚さんとの結婚話は着々と進んでいった。

その間、私の心は何一つ変わらずに、ずっと同じ心でいた。

それは許婚さんも変わらないようで、会う度に好きな人の話をし合っていた。


でも、その日は来た。


今日は、結婚式の前日パーティだ。

許婚さんも私も、沈んだ気持ちでいっぱいだった。

「・・・ついにきちゃったね」

「そうですね」

「僕もそろそろ腹をくくることにしたよ」

「・・・」

ふと周りを見てみた。窓はない、扉はひとつ。

「完全に警戒されてますね」

「君が3年前にやらかしたお陰でね」

「あはは・・・」

渇いた笑い声が出た。許婚さんも少し笑った。

「別に私と結婚しても逢いたかったら逢ってもいいですよ?」

「そういうわけにはいかないよ。一応けじめをつけないと」

「でも・・・」

「いいんだ、僕が決めたことだから」

「・・・っ」

それから会話が途切れて、沈黙が訪れた。


コンコンッ


「どうぞ」

「お時間です。どうぞこちらへ」

使用人に手招きされて、私と許婚さんは会場へと向かった。


「さて、主役のお二人がやってきましたので、紹介させていただきます!!」

出てきた途端に会場がざわめき、フラッシュがバシバシとたかれ、司会の人が朗々と話し出す。

「かの有名な羽鳥財閥のご令嬢、羽鳥優璃様と――――」

「――――――――――、――――――」

司会の人が次々と話していく。頭の中が真っ白になる。

視界が眩しい。皆が笑っている。

「―――優璃様、今回のご結婚について一言もらえますか?」

「えっ?・・・あ、あぁ」

ハッと我に返り、少し悩む。

「私は所詮、羽鳥財閥の歯車に過ぎないのかな、と最初は思ってました」

その瞬間、あたりがざわめいた。

「―――実際、その通りだと思います。私と許婚さんとの間には恋愛感情は一切ありません。私にも彼にも別の相手がいます。なのに、大人の都合でそれが離れ離れになります。それが堪らなく悲しいです」

司会の人も会場の人たちも、茫然と私の話を聞いている。

「私は3年間、この檻に閉じ込められていました。だから、3年分の私の我儘を言います」

そう言った後一息おいて、前を見て行った。

「私は、この結婚を、今この場で破棄して欲しいんです」

「なっ・・・!!」

そう叫んだのはお父様だった。

「優璃、冗談も大概にしなさい」

「冗談なんかじゃないです、お父様。――それに、どっちにしろ結婚は出来ませんよ」

ニッコリ笑って言って見せた。

「何を言って・・・」

お父様が言った瞬間、私の身体が宙に浮いた。

「!!」

「あ・・・」

「今日は、()()()?」

お姫様抱っこをされたまま私を抱き上げた人の顔を見た。

使用人の服を着て、髪は切りそろえられていた。

だけど、見間違うことはない。

「・・・コウ」

「約束通り迎えに来た。このまま攫っても?」

「勿論良いよ」

笑うと、コウも笑った。

「・・・そういうわけなんで、失礼しますね」

コウは一言そういうと、そのまま走り出した。

「許婚さん、ごめんなさい!お幸せに!!」

「そっちこそお幸せに!」

許婚さんの声に嬉しく思いながら、ぎゅうっとコウの身体にしがみついた。

「振り落とされない様にしっかりつかまっていろ」

「うん!」

その間も警備員の人たちがコウを捕まえようとするけど、全部すり抜けられて捕まらない。

お客さんの間をすりぬけて、そのまま開いていた窓から逃げた。

「追え!!」

誰かの声がして、沢山の人たちが追いかけてきた。

「コウ、追いついちゃうよ!」

「大丈夫、考えてある」

「え・・?」

そう言いながら門の間を駆け抜けると、同時に大勢の人がすれ違いに家に入って行った。

「え!?」

「そこまでだ、とまれ!!」

私たちの後ろの警備員や使用人を制止させて、大声で何か話していた。

「と、とまって」

「わかった」

立ち止まって、話を聞いてみた。

「警察だ!白鳥優成はどこだ?」

「・・・私が白鳥優成だが」

「殺人及び監禁罪の容疑で警察に同行願いたい」

警察の人が言い放った内容に驚く私とお父様。

「な、なぜ・・・?」

「我々も6年前の事件に違和感を覚えてね。捜査を続けていたのだが、有力な情報を手に入れたんだ」

「有力な情報、とは?」

「ああ。ある青年が、その事件に犯人に仕立て上げられ、更には口封じに殺されそうになったとか」

「・・・そんな嘘かどうかもわからないような情報を信じたのですか?」

お父様は怪訝そうな顔をした。警察の人は薄く笑うと、

「実は、御社が製作した商品の設計図があの会社で発見されたのです」

「・・・」

「日付を見てみると、御社の商品よりも先にあちらで製作企画していたらしいですな」

「・・・自社がその会社の商品設計図を盗んだとでも?」

「窃盗罪も追加しておきましょうか?」

「・・・・・・いえ、充分です」

そういうと、お父様は警察の人に連れて行かれた。


「・・・え?」

「あれが真実だ。俺がずっと言いたかったことだ」

コウが言う。私は少し見上げて、彼の顔を見た。

「すまない。お前の父親なのにな」

「大丈夫だよ。お父様はきっとやり直せるよ」

嵐が去った後のような我が家を見た。

沢山の人たちが茫然と立ちすくみ、そのあと家から出て行ってしまった。

その光景を、ずっと眺めていた。


「これからどうするんだ?」

誰もいない家に戻って、コウは私の部屋の椅子に座った。

「どうしようかな」

「どうしようかなって・・・」

「多分、お父様が戻ってくるまで羽鳥財閥は誰も仕切れない。でも、倒産なんてしたら、沢山の人が路頭に迷うことになる」

私が考えあぐねいていると、足音が聞こえた。


ガチャ


「・・・あ」

そこにいたのは、許婚さんだった。

「まさか君のお父上が犯罪者だったなんてね。驚いたよ」

「まあ・・・」

「そんなことはともかくだ。・・・羽鳥財閥は、これからどうするつもりなんだい?」

「どうするって・・・どうも出来ません。私はまだ子供だし、だからといって社員を全員クビにできないし・・・」

「大手会社の羽鳥がいなくなれば、国の財政は不安定になるね」

許婚さんはそう言ってから一息おいて言った。

「君のお父上が釈放される間、うちで羽鳥を任せてくれないか?」

「え・・・?」

出てきた予想外の言葉に驚くと、許婚さんは続けた。

「僕の父は優成さんの古い友人だし、承諾してくれたよ。まあ、最悪の場合吸収合併ってことになっちゃうけど、それでもいい?」

「・・・社員の皆が路頭に迷わなければ、それでいい」

「君はどうするの?一応貯金はあるみたいだけど」

「ええ。それに、私はこの人と生きていきたいの」

コウの指に触れた。3年前の冷たかった手とは少し違う、暖かい手。

「・・・そう。この家は一応警察の監視下に置くらしいから、荷物は早めにまとめときなよ」

「わかった」

「お幸せに、優璃さん。それから・・・志堂さんもね」

「ああ。ありがとう」

許婚さんは笑って出て行った。


「・・・コウ」

指をぎゅっと握る。

「優璃」

「逢いたかった。ずっと、ずっと」

「俺もだよ」

その言葉を合図に、ぎゅうっと抱きしめあった。

「やっと一緒になれるね・・・!」

「ああ。後味は少し悪いが」

「うん・・・。でも、3年間ずっと我慢できたよ!」

笑ってみせると、コウも笑った。

そのまま唇を奪われ、固まる。

「どうした?」

「ううん、嬉しいの。やっとコウとキスできたから」

「・・・これからはいくらだってしてやれる。絶対に離さない」

また強く抱きしめられる。涙が溢れた。

「ねえ、コウ」

「なんだ?」

「私、これからどうしよう」

「とりあえず、俺の家に来い。学校は今まで通り通えばいい」

「うん」

「荷物は、必需品だけは持って行って、それ以外は置いていく」

「うん」

「とりあえず荷物詰めるか」

「うん」

腕を離される。少し名残惜しく思うと、腕をひっぱられた。

「きゃっ」

そのままキス。心臓が跳ねた。

「・・・優璃、綺麗になった」

耳元で囁かれて、顔は真っ赤だ。

「いっ、今から荷造りするからいったん部屋から出て!!」

コウを部屋から追い出すと、その後は顔に熱を持ったまま作業をした。


「・・・ねえ、コウ?」

手を繋ぎながら、コウの家へと向かう。

「なんだ?」

「これから、ずっと一緒?」

「ああ。一緒だ」

「結婚もしてくれる?」

「お前が20歳になったらな」

「その時にはコウは25歳だね」

笑って言ってみせると、コウは私の頭を軽く撫でた。

「歳の差は関係ないだろ?」

「勿論!」

繋いだ手の力を少し強めた。

「大好きだよ、コウ!」

「俺も好きだ、優璃」



「勿論、放す気はないからな?」

そう言った彼の顔は、いつかの獣のような眼をしていた。




このお話は、幼かった少女と青年が、檻の外へ出るまでのお話。




( ・_ゝ・)o*――゜+.――゜+あとがきにて+.――゜+.――*o(・c_,・)


みなさんどうも、明夢です\(^o^)/

『檻の中の獣と少女』完結でございます。


話のコンセプトは「美女と野獣」です。タイトルだけオマージュ感が否めませんが・・・。


歳の差の恋愛が書きたかったって言うのがこれを書いた理由のひとつです。

影のある黒髪美青年×黒髪正統派美少女・・・

もう完全に趣味ですね!!


複数の連載小説を抱えるのは不慣れなので(その割にアイデアだけじゃんじゃん出てきて消化不良になることがしばしば・・・)、『東の蝶』の連載に集中する為にちょっと(どころじゃなく)駆け足になってしまいました・・・^p^

第3話を投稿した後で、「あ、これ1話1ヶ月進みでいけばいんじゃね!?」となり、1年まわったらその後におまけ、で終了する予定だったのです!!

計画的には成功したものの、なんか上手くいかなかった感もします・・・( ´_ゝ`)


コウと優璃はきっと幸せに暮らします。

きっとお父様とも和解して、公認カップルになります!

いちゃこらしてるのはあんまりイメージにないのですが、最終話では3年分のツケってことでちょっとだけイチャイチャさせてみました。


二人のこれからの幸せを願って。


東の蝶もよろしくお願いします☆←


2012.12.5

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