届かない冬
新年は檻の中だった。
雪が降り積もって、凍える身体を抱えて目を瞑っていたら、いつの間にか年を越していた。
「・・・もう、新しい年か」
呟いて、息が白くなるのを見つめた。
優璃は、家族と年を越したのだろう。
もしかしたら寝ていたかもしれない。
大きなベッドの上で疲れて寝ている優璃を想像して、少し笑った。
「俺は何を考えているんだ・・・」
はあ、と息を吐く。白くて寒そうな色をしていた。
起き上がって、すっかり銀白色の外の景色を眺めた。
どこの雪山だ。そう思うくらい木々が茂っている。
・・・この景色を、優璃は見たことがあるのだろうか。
一見すると寂しさしかない風景だが、これもこれで風情がある、気がする。
両手をこすり合わせ、はあ、と息を吹きかけた。
生温い息が赤い指先にかかる。
「・・・」
両手を勢いよく離そうとするが、手錠の所為でびくりとしか動かない。
手錠の中央を睨むように凝視してから、脱力する。
「俺はもうじき死ぬんだろうな・・・」
呟いてみると、実感できるのと同時に、遣り切れない怒りがふつふつと込み上げてきた。
あの男の所為で、俺が?
そうなる位なら、舌でも噛み千切った方が全然マシだ。
ふと、俺がいなくなった後、優璃がどうなるかが気になった。
きっとアイツにも許婚ぐらいはいるんだろう。今年で中学2年生だし、交流を深めたりするのかもしれない。
そうしたら、俺の事は自然と忘れるんだろう。
そしてきっと、それがあの男の狙いなんだろう。
恐怖を植え付けて俺の所に来させないようにして、
多忙にさせて俺の事を忘れさせる。
世間にも何かしら言うのかもしれない。
そうしたら、俺は世界から抹消される。誰にも弔われることもなく、悲しまれることもなく。
そう考えたら、あの少女をひたすら想いながら逝くのも悪くないのかもしれない。
届かない、届けられない想いをひたすらに燻らせながら、死ぬのも。
ゆっくりと瞼を閉じた。
今日はもう寝よう。いっそこのまま明日が来なければいいのに。