それぞれの檻の中
優璃が来なくなって1ヶ月が経った。もう季節はすっかり冬で、もうクリスマスか、なんて思っていた。
「・・・寒いな」
ハア、と吐いた息が白い。思わず両手を握りしめた。
去年の冬もこんなに寒かったかな。去年の方がまだマシだった気がする。
もしかしたら、優璃の存在は、俺が思っている以上に大きいのかもしれない。
「はは・・・」
渇いた笑いが出た。
自分が馬鹿らしくなった。
人殺しのレッテルを貼られたあの日から、俺は誰も信じなくなったのに。
あの無垢な少女は、俺の心をこんなに簡単に溶かしていった。
でも、もうきっとここには来ないだろう。
「あいつか・・・」
羽鳥優成。きっとあの男が優璃にあることないこと吹き込んだんだろう。
きっと、世間が知ってる方の『真実』を。
街はクリスマス一色になり始めて、友達も彼氏がどうとか友達とどうとか話していた。
「優璃はどうするの?クリスマス」
「お父様とお母様と過ごすつもり」
「へえ、親孝行ね」
少し笑われて、えへらと笑い返した。
「まあね」
教室での会話を独りの部屋で思い出す。
クッションで埋め尽くされたベッドの上でいろんなことを考えた。
1ヶ月前、お父様が教えてくれた真実。
「あれは3年前のことだった。ある中小企業があってね、私の会社と提携していたんだ。その会社がある日、ある社員を除いた全員が惨殺されるという事件があったんだ。・・・で、その社員と言うのが志堂コウ。まあ実際は社員というよりはアルバイトだったんだけどね。で、容疑者は突如失踪して、その身柄を私たちが捕まえ、ここで監禁している状態だ」
「どうして警察に突き出さなかったんですか?」
「一応我が社にも関係しているからね、変な事件で評判が落ちるのは良いことじゃないだろう?」
そう言って笑ったお父様の顔はよく覚えている。
幾つもある会社を束ねる人にもなれば、あんな風になっちゃうのかな・・・。
「はあ」
溜息をついた。コウのいない空間は暇で暇でしょうがない。
・・・私は、あの『真実』を信じてない。
コウが人を殺すような人じゃないことはわかるし、お父様が何かを隠したいのもわかる。
だからわからない。お父様はそんな嘘までついて、何を隠したいのか。
「・・・考えててもしょうがない。勉強でもするかあ」
とぼとぼと机に向かう。
教材を出してる最中にふと考えてみる。
この部屋は、もしかして私にとっての檻なのかもしれない。
お父様が私を閉じ込めて、隠すための檻。
「なんてね」
笑いながら、ペンを握りしめた。