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彷徨える亡霊

「トリック・オア・トリート!」

魔女の帽子を被った私は、棒つきキャンディを突き出しながら言った。

「・・・残念ながら、何もないぞ」

コウは、その深い青の眼を私に向け、あきれた風に溜息を吐いた。

「あ、そうだった」

私は腕を下ろしてコウを見つめた。

「じゃあ、悪戯するぞー!」

わあ、と両腕を上げて格子に腕を突っ込む。手首までしか入らない。

「うぐぐ・・・」

「残念だったな優璃。今日の俺は優しくないぞ」

「もうっ、コウの意地悪!」

「なんとでも言え」

ふう、とひとつ息を付きながら項垂れるコウ。

「・・・?」

不思議に思って、両手首を突っ込んだまま首を傾げる。

でもすぐに顔を上げて、ニヤリと笑った。

胸が高鳴ると同時に、嫌な予感がした。

「トリック・オア・トリート」

「あ・・・」

言われてしまった。どうしようかとあたふたしていると、

「なんだ、お前の手元にあるのは玩具か?」

そういわれて、手を突っ込むときに邪魔だと思って腰にしまったキャンディを見た。

「あ、あった」

「なんだそれ」

クスリと笑うコウ。それが恥ずかしいんだか嬉しいんだかで訳が分からなくなって、慌ててキャンディを腰から抜き出した。

「あげる!」

「いいのか?」

「うん、コウにあげるつもりだったし!」

包装を剥いで、キャンディが格子にくっつかない様に気を付けながらコウに差し出した。

「はい、どうぞ!」

「・・・直か」

「それ以外の方法が見つかりません!」

これが悪戯だ、と言わんばかりに笑ってみせると、コウは少し目を丸くした後、

「わかった」

少し笑って、キャンディを咥えた。


「美味いな」

もぐもぐと口を動かしながら味わってるらしく、声が篭ってちょっと面白かった。

「・・・ねえ、コウ」

「ん?」

「ジャックオーランタンって知ってる?」

「知ってる」

「最後には天国にも地獄にも行けずに、ランタンを片手にずっと彷徨ってた、亡霊のジャック」

「哀れだよな。助かりたいが故に成仏できなかったんだから」

そうだね、と相槌を打つ。

「・・・俺も、そうなるのかな」

「え?」

「天国にも地獄にも行けずに、ずっと暗闇の中を彷徨う亡霊に」

飴を咥えたまま上を向くコウ。

その姿はとても寂しげで、なんて声をかけていいかわからなかった。

「・・・・大丈夫だよ」

私の声に、コウはピクリと反応した。

「コウが暗闇の中を彷徨ったとしても、私が明りになって帰り道を示してあげるから!」

ニッコリと笑うと、コウも笑った。

これ以上ないくらい、綺麗な笑みで。


その笑顔が見れるなら、私は誰が敵でも構わない。


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