45.
平和な引きこもり研究ライフは、突如として終わりを告げた。
バンッ! と、離れの作業部屋の扉が乱暴に開け放たれたのである。
「まあ! なんて薄汚い部屋ですの!」
そこには、派手な真紅のドレスに身を包んだ、ツンと冷たい目つきの貴婦人が立っていた。
ジークフリートの母親、エレオノーラである。
「誇り高き公爵家の嫁が、こんなホコリまみれの離れに引きこもるだなんて。我が家の恥ですわね!」
かつて冷酷だった頃のジークフリートにそっくりな、人を見下すような視線。
彼女は扇子で口元を覆いながら、リリアナを痛烈に侮辱した。
リリアナが反論しようとした、その時だった。
「母上。それ以上、私の愛する妻を侮辱することは許しません」
騒ぎを聞きつけ、ジークフリートが風のような速さで駆け込んできた。
彼は迷わずリリアナの前に立ち、その細い肩をしっかりと抱き寄せる。
「なっ……ジークフリート!?」
エレオノーラは驚愕に目を剥いた。
かつての冷酷で合理主義の塊だった息子が、こんな女を庇い、あろうことか愛しそうに抱き寄せているのだ。
彼女の頭の中で、一つの極端な結論が導き出された。
「おまえ……さては怪しげな魔道具で、息子を洗脳したわね!」
ビシッとリリアナを指差し、エレオノーラが金切声を上げる。
「はぁ……? なにそれ。そんな都合のいい洗脳魔道具があるなら、こっちがとっくに使ってますけど。むしろ、この男の『重すぎる愛』を解除する魔道具があるなら、今すぐ教えてほしいくらいなんですけど」
リリアナは心底どうでもよさそうに呆れ果て、ジト目でジークフリートを睨んだ。
睨まれた彼はなぜか嬉しそうに微笑み、リリアナを抱き寄せる腕の力を強める。
「洗脳などされていないよ、母上。私はただ、心の底からリリーを愛しているだけだ」
その甘すぎる追撃の言葉を聞いて、エレオノーラの顔から冷酷な貴婦人の仮面がポロリと剥がれ落ちた。
「ああああ! 私のかわいい、かわいいジークフリートちゃんがぁあああ!!」
彼女は床に崩れ落ち、ただの子離れできない親バカとして、わあわあと泣き叫び始めた。
そんなカオスな状況の中。
部屋の隅では、ルナが静かにミスリル包丁を取り出していた。
「主様。あの騒がしいババア、消しますか?」
「ワフン(とっとと帰れ)」
ポチが塩対応で鼻を鳴らす横で、リリアナは深く、深くため息をつくのだった。
【おしらせ】
※4/3
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