44.
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
平和だ。
久しぶりに、心の底からそう思える朝だった。
ふかふかの雲布団に包まれて、リリアナはぼんやりと天井を眺めている。
窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえ、離れの中には彼女が付与した『森』の香りがほんのり漂っていた。
完璧な朝だ。
蒼銀竜の一件から一週間。
ジークフリートの傷もだいぶ良くなり、リリアナも看病疲れからようやく解放されつつあった。
さて、今日は何を作ろうか。
指先をくるくると動かしながら、頭の中でアイデアを転がす。
最近気に入っている『温』の湯たんぽもどきの持続時間を伸ばしたい。
あとは『静』の耳栓。もう少し軽くできないか試してみたい。
よし。今日も引きこもり研究の一日にしよう。
そう決意した瞬間だった。
コン、コン。
「リリー、いるか」
扉越しに、聞き慣れた声がした。
リリアナは布団を頭まで引っ張り上げた。
「……寝てます」
「嘘だ」
「寝てますってば」
「返事をしている時点で起きている」
論破された。
リリアナは布団から這い出し、寝癖をざっと手で押さえてから扉を開けた。
ジークフリートが立っていた。
包帯はだいぶ取れて、顔色も戻っている。
手には小さな木箱を持っていた。
「なんですか」
「顔を見に来た」
「用件それだけ?」
「それだけだが、何か問題があるか」
問題しかない。
でもそれを言葉にすると負けた気がするので言わない。
「……入れば」
リリアナは扉を大きく開けた。
ジークフリートがにこりと笑って入ってきた。
以前は滅多に笑わなかったくせに、最近笑いすぎだ。
しかもその笑顔が反則的にかっこいいせいで、こちらの心臓が全然休まらない。
「これ、街で見かけて」
木箱を差し出してきた。
「なんです?」
「開けてみろ」
リリアナは木箱の蓋を開けた。
中には、小さな陶器のカップが六つ並んでいた。
淡い水色の釉薬がかかった、シンプルで上品な器だ。
「……カップ?」
「君が蜂蜜湯をよく飲んでいるだろう。あの安物のカップより、こちらの方が似合うと思って」
リリアナはカップをそっと手に取った。
手のひらにちょうど収まるサイズで、持った感じも心地いい。
釉薬の色が、なんとなく自分の離れの雰囲気に合っている。
「……別に、安物で困ってないですけど」
「俺が気になった」
「あなたが使うわけじゃないでしょ」
「君が使うのを見るのは俺だ」
こういうことをさらっと言うのが、この男の一番ずるいところだとリリアナは思う。
「……ありがとうございます」
絞り出すように言ったら、ジークフリートがまた笑った。
うるさい。
「ところで」
彼はそのまま部屋の中をゆっくりと見渡し、雲布団にぽすんと腰を下ろした。
当たり前みたいな顔をして。
「ちょっと! 勝手に座らないでください!!」
「座るなと言われた覚えはない」
「常識で判断しなさい!」
「君の部屋には毎晩来ているだろう」
「それとこれとは話が別です!!」
ジークフリートは涼しい顔のまま、布団の端をぽんぽんと叩いた。
「少し横になっていいか。昨日、少し眠れなくて」
リリアナは言葉に詰まった。
眠れなかった。
その一言で、反論が全部吹き飛んでしまう。
リリアナが離れを空けていた間、ジークフリートの不眠症はぶり返していたと、ルナから聞いていた。
今はだいぶ落ち着いているらしいが、それでも波があるらしい。
「……少しだけですよ」
「ありがとう」
ジークフリートは静かに横になった。
リリアナは机の前に座り、背中を向けて魔道具の設計図を広げた。
背後から、規則正しい寝息が聞こえてきたのは、ほんの数分後のことだった。
リリアナはそっと振り返った。
ジークフリートが眠っていた。
眉間のしわが完全に消えて、普段よりずっと穏やかな顔をしている。
起きているときの隙のない表情とは全然違う、無防備な顔だ。
リリアナはため息をついて立ち上がった。
余っていた『静』の布をそっとジークフリートの肩にかける。
外の音を少し遮断してくれる。もう少しゆっくり眠れるだろう。
それだけだ。
別に、それ以上の意味はない。
「ワフ」
窓の外から低い声がした。
ポチが窓枠に前足をかけて、こちらを見ていた。
リリアナと視線が合うと、ポチはゆっくりと頷いた。
まるで「よくやった」と言っているみたいに。
「……うるさい」
リリアナは小声でそう言って、設計図に向き直った。
背後で、ジークフリートの寝息が続いている。
うるさい心臓を、ひとつ深呼吸で落ち着かせてから、リリアナは湯たんぽの設計図に漢字を書き込み始めた。
平和だ。
……少し、うるさいけれど。
【お知らせ】
※3/17(火)
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