40.デレデレ夫婦
森の中でのゴブリン討伐が完了した。
モニター越しに、ジークフリートが剣を鞘に収める姿が映し出される。
「ふぅ、さて帰るか」
画面の向こうで彼が一息ついたのを見て、リリアナはなぜか落ち着きをなくした。
そわそわとリビングを歩き回り、自分の指先をいじり始める。
ここで優秀なる犬ぽちは、察したのだ。なにが主人をそうさせているのか。
「アオーン、アオーン」
空気を読んだポチが、突然わざとらしく鳴き声を上げた。
散歩をねだるような、大げさな声だ。
「ちょ、うるさいぞぉーポチー」
すっごい笑顔のリリアナ。
「今から散歩なんてー。困ったわねー」
リリアナはわざとらしい棒読みで応じた。
「ルナー、ちょこっと散歩行ってきて」
ポチもルナの足元にすり寄り、前足でトンと彼女の膝を叩いた。
主人の意図を完璧に汲み取った動作だ。
「ワフフン(頼むぜ姉さん、話を合わせろ)」
ルナは全てを察し、顔をしかめた。
ギリギリと奥歯を噛み鳴らす。
「ぐぬぬぬっ」
「ポチがどうしてもって言うなら仕方ないわね」
リリアナは嬉々として、足元に転移魔法陣を展開した。
輝く光の輪が、三人の体を包み込む。
パァァァッ!
光が収まると、そこは討伐を終えたばかりの森の中だった。
帰り支度をしていたジークフリートが、驚いて目を丸くする。
「リリー!?」
「あーら偶然、ジーク」
リリアナはわざとらしく驚いたフリをした。
視線を泳がせながら、早口でまくし立てる。
「そこの犬が散歩行きたいって言うからさー。適当に魔法陣を開いたら、ほら、偶然ここに出ちゃって」
あまりにも苦しい言い訳だ。
しかし、ジークフリートの顔はパァッと明るく輝いた。
「ありがとうリリー! 私を迎えに来てくれたのだな!」
彼は幻の尻尾をパタパタと振りながら、リリアナに駆け寄る。
その目は歓喜に満ち溢れていた。
「はー、違いますけどはー」
否、圧倒的否である。その通り過ぎた。
「別に違いますけどはー。自意識過剰きしょすぎるわー」
リリアナは顔を真っ赤にして否定した。
「わざわざ来てくれるなんて。ありがとう!」
ジークフリートは全く堪えていない。
満面の笑みを向けられ、リリアナはそっぽを向いた。
「ちっ」
鋭く舌打ちをしたものの、彼女の口角は完全に上がりきっていた。
誰の目から見ても、満更ではない様子だ。
その後ろで、ルナがガックリと膝から崩れ落ちた。
(くそがぁっ!)
エルフのメイドは、両目から血の涙を流して内心で絶叫した。
主様の完全なデレ落ちに、もはや反論の余地もない。
「ワフン(行こうぜ姉さん。ちょうど散歩もしたかったしな)」
ポチがルナの背中をポンと叩き、ダンディにエスコートする。
かくして、血の涙を流すメイドとハードボイルドな犬を連れて、夫婦の帰路が始まるのだった。




