38.監視という名のストーカーと、愛のチートブローチ
離れのリビング。
リリアナはテーブルに置かれたモニターに穴が開くほど釘付けになっていた。
画面の中ではジークフリートが試作品のブローチを胸に装備し、魔物狩りの任務へと向かっている。
リリアナは視線を夫の姿から一ミリも動かさない。
「主様。これでは完全に、どちらがストーカーか分かりません」
「おいたわしや……」
部屋の隅でルナがハンカチを噛んで涙ぐんでいた。
かつてはジークフリートの干渉を嫌悪していた主様が、今や自作のドローンを飛ばして夫の動向を監視している。
その執着の深まりに、メイドは絶望を隠せない。
「ワフ、ワフン(まあまあ、落ち着けよ姉御)」
ポチが前足でルナの背中を叩き、宥めていた。
一方、討伐地の森。
ジークフリートの前に緑色の肌をしたゴブリンの群れが出現した。
醜悪な笑い声を上げ、武器を振り回して襲いかかってくる。
「燃えろ」
ジークフリートが胸のブローチに向かって短く命じた。
ボォォォォッ!!
瞬間、大気中の火の精霊が彼の声に応え、群れが猛烈な炎に包み込まれた。
魔物たちは瞬く間に黒焦げになっていく。
「すげえ!」
ジークフリートは思わず驚嘆の声を上げた。
魔力を一切消費せず、たった一言でこの圧倒的火力である。
群れの奥から杖を持ったゴブリンメイジが進み出てきた。
呪文を唱え、ジークフリートに向けて巨大な火球を放つ。
「消えろ」
彼が冷静に命じると、飛来していた火球がふっと文字通り掻き消えた。
大気中の精霊が、敵の魔法の魔力構成を瞬時に霧散させたのだ。
「よし」
ジークフリートは確かな手応えを感じて頷いた。
防御すら声一つで完結するチート性能である。
ズズン、ズズン!
地響きを立てて、群れのボスであるゴブリンジェネラルが姿を現した。
怒り狂いながら一直線に突進してくる。
「爆ぜろ」
ジークフリートが右手を突き出し、最大の命令を下した。
ドゴォォォォン!!
ジェネラルの足元から極大の炎柱が立ち上がり、巨体を一撃で消し炭に変えた。
跡には何も残らない完全なるオーバーキルである。
再び、離れのリビング。
モニター越しに完全勝利を見届けたリリアナは目を輝かせた。
「よぉし!」
思わず立ち上がり、両手で力強くガッツポーズをしてしまう。
自分が作った魔道具で夫が無傷で勝利を収めたことが嬉しくてたまらないのだ。
ハッとして振り返ると、ルナとポチがじーっとこちらを見つめていた。
「はっ!」
リリアナは顔を真っ赤にして、恥ずかしさのあまり慌てて椅子に座り直した。
「おいたわしや……」
ルナがその場に崩れ落ち、主様の完全なデレに絶望して再び泣き崩れた。
「ワフン(ふっ、ラブパワーだな?)」
ポチがニヤニヤと笑いながら、からかうように鼻を鳴らした。




