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33/45

33.散歩のルートは、偶然(必然)に



 夕暮れ時。

 離れのリビングで、リリアナは内職に勤しんでいた。

 魔石の欠片を組み合わせて、簡単な『魔導ライター』を作っている。

 手元の作業は完璧だが、彼女の意識はそこにはなかった。


 チラッ。

 壁掛け時計を見る。

 針は午後六時を回ろうとしている。

 騎士団の定時退勤時間だ。


「ん~。そろそろ散歩でもいこっかなー」


 リリアナはわざとらしく独りごちて、伸びをした。


「ほーら、ポチ~。散歩の時間よねー」


「ワフン(へいへい)」


 ポチがのっそりと立ち上がる。

 彼は察していた。

 この時間の「散歩」が、どこへ向かうためのものなのかを。


「よし、行くわよ」


 リリアナはリードもつけずに外へ出た。

 そして、庭を数歩歩いたところで、ポチが(主人の意思を汲み取って)本邸の正門の方角へ歩き出した。


「あー、ポチ、おま、どこいくんだよー(棒読み)」


 リリアナの声には、これっぽっちも感情がこもっていなかった。


「そっちは本邸のほうだぞー。困ったなー。引っ張られるー(手ぶら)」


 彼女は自分の足で、しっかりと地面を踏みしめてポチの後をついていく。

 誰がどう見ても、自分から進んで歩いている。

 だが、これはあくまで「犬に連れて行かれた」というテイでなければならないのだ。


     ◇


 正門前。

 ちょうど、一台の馬車が滑り込んできたところだった。

 扉が開き、ジークフリートが降りてくる。


「ふぅ、今日も疲れたな……」


 彼は肩を回し、ふと顔を上げた。

 そして、目を見開いた。


「……リリー!?」


 そこには、ちょうど散歩(?)に来ていたリリアナとポチの姿があった。


「あ」


 リリアナは「げっ」という顔を作った。


「ただいまっ! リリー! まさか、出迎えてくれたのか!?」


 ジークフリートが尻尾を振る幻覚が見えるほどの勢いで駆け寄ってくる。


「おかえりなさい」


 リリアナはため息交じりに言った。


「はー、ポチがさー、はー、こっちに来ちゃうからさー」


 彼女は大げさに肩をすくめた。


「散歩してたら、勝手にここに来ちゃったのよ。はー、困った犬だわー。出迎えたくもないのに、偶然、あくまで偶然、出迎えちゃったわー」


「そうか! ポチのおかげか!」


 ジークフリートは満面の笑みだ。

 彼とて馬鹿ではない。リリアナがその気になれば、ポチを指一本で制止できることくらい知っている。

 つまり、これは彼女の意思だ。


「ありがとう! 疲れが吹き飛んだよ!」


「うるせ。ポチに言えよ」


 リリアナはプイと顔を背けた。


「私はかーえる。散歩は終わり」


 彼女はくるりと踵を返した。

 その足取りは、来る時よりも少しだけ軽やかだった。


「待ってくれリリー! 私も行く!」


 ジークフリートが隣に並ぶ。


「ご飯も、一緒に食べよう。君の顔を見ながら食べたいんだ」


「……勝手にすれば~」


 リリアナは拒否しなかった。

 並んで歩く二人(と一匹)。

 夕日が二人の影を長く伸ばしている。


 ふと、リリアナが足元を見ると。

 ポチがこちらを見上げて、ニッと口角を上げていた。

 そして、前足の親指(狼爪)を器用に立てて、


 グッ。


 とサムズアップしていた。


「……なによ」


「ワフッ(イイネ!)」


「グッ、じゃないわよ。……なんなのよ、もう」


 リリアナは赤くなりかけた頬を隠すように、少しだけ歩く速度を上げた。

 その背中を、ジークフリートとポチは温かい目で見守りながら追いかけた。

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― 新着の感想 ―
ポチっ!? なんて器用な(笑) ルビが心の声だけじゃない可能性の方が高い(笑)
うわー(ノ∀≦。)ノ なんだ!この《ツンデレ♡》w癖になる~♪
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