27.氷の巨人と、歩く暖房器具
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
北方山脈。
そこは、吐く息すら瞬時に凍りつく極寒の地だ。
猛吹雪が吹き荒れ、視界は白一色に染まっている。
「さ、寒い……。指先の感覚がねぇ……」
「防寒具を重ね着しても、芯まで冷えてきやがる……」
遠征部隊の騎士たちが、歯をガチガチと鳴らしながら行軍していた。
リリアナから支給された『布コンロ』を懐に入れ、なんとか暖を取ってはいるものの、この異常気象の前では焼け石に水だ。
皆が凍えている中、一人だけ様子がおかしい男がいた。
先頭を歩く、ジークフリートである。
「……ふぅ」
彼は兜のバイザーを開け、手で顔を仰いだ。
その隙間から、シューッという白い蒸気が噴き出している。
「団長……? 大丈夫ですか? 顔が赤いですが……熱でもあるのでは?」
部下が心配して声をかけると、ジークフリートは爽やかな笑顔で答えた。
「ああ、大丈夫だ。むしろ……暑いくらいだ」
「は?」
「なんだこの暑さは。まるで真夏のサウナだ」
ジークフリートは鎧の胸元を少し緩めた。
そこには、リリアナが作った『布コンロ』が、インナーシャツに直接縫い付けられていた。
設定は『とろ火(保温)』。
だが、鍋料理を冷まさないための熱量は、人間が肌身離さず身につけるには高すぎた。
「でも、火傷しないんですか!?」
「問題ない。リリーは完璧だ。この布には『熱源』と共に『火傷防止』の術式も組み込まれている。だから肌に直接触れても、熱は伝わるが皮膚は焼かれない。……ただ、純粋に体感温度が上がりすぎるだけだ」
彼は今、全身に最高出力のカイロを百枚貼っているような状態だった。
安全だが、暑い。
ズズズズズ……ッ!!
その時、地響きと共に前方の雪原が盛り上がった。
現れたのは、見上げるほどの巨体。
全身が万年氷で構成された伝説の魔物、『氷の巨人』だ。
「グルォオオオオオ!!」
巨人が咆哮と共に、絶対零度の冷気を周囲に撒き散らした。
あまりの冷気に、周囲の樹木がガラス細工のように凍りつく。
「ひぃっ! アイス・ゴーレムだ! こんな吹雪の中で遭遇するなんて!」
「終わった……! 剣が通る相手じゃねぇぞ!」
部下たちが絶望に染まる中、ジークフリートだけが不敵に笑った。
いや、その笑顔はどこか「涼みに行きたい」という切実さを帯びていた。
「ちょうどいい」
ジークフリートが剣を抜き、前に出る。
「少し頭を冷やしたかったところだ!」
彼が駆けた。
雪を蹴散らすその姿からは、陽炎のような熱気が立ち上っている。
「グルァッ!!」
巨人が巨大な氷の拳を振り下ろした。
直撃すれば人間など肉片も残らない一撃。
ジークフリートはそれを避けず、あえて盾で受け止めた。
ドゴォォォォン!!
衝撃音が響く。
だが、次の瞬間。
ジュワァアアアアアア!!
凄まじい水蒸気爆発が起きた。
「グッ……!?」
巨人が悲鳴のような声を上げた。
ジークフリートに触れた拳が、急速に溶解し、崩れ落ちていくのだ。
「効かんな! 私には妻の愛(物理的な熱源)がある!」
ジークフリートの鎧は、内側からの熱で赤熱し始めていた。
彼はまさに「歩く溶鉱炉」。
極低温の氷の巨人が、超高温の金属に触れればどうなるか。
答えは「熱衝撃」による自壊だ。
「はぁぁぁぁっ!!」
ジークフリートが踏み込み、赤く輝く篭手で巨人の胴体を殴りつける。
バキィィィィィィン!!
甲高い音が雪原に響き渡った。
殴られた箇所を中心に、巨人の全身に蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
急激な温度差に、氷の結晶構造が耐えきれなかったのだ。
「リリー! 君の温もりが! 私に力をくれる!!」
彼は叫びながら、砕け散る氷の礫の中を突き進んだ。
暑い。熱い。
この溢れ出るエネルギー(熱)を叩きつけなければ、自分がオーバーヒートしてしまう。
「これでぇぇぇっ! 終わりだぁぁぁっ!!」
渾身の斬撃一閃。
巨人は断末魔も上げられず、粉々に砕け散った。
◇
吹雪が止んだ。
雲の切れ間から、薄日が差し込む。
氷の残骸の上に立つジークフリートは、全身からもうもうと湯気を立ち上らせていた。
「勝った……」
彼は兜を脱ぎ、汗だくになった髪をかき上げた。
そして、南の空(王都の方角)に向かって、満面の笑みで叫んだ。
「ありがとうリリーーーッ!! 君のおかげで勝てたぞぉおお!! 愛してるぅぅぅ!!」
その声は山々にこだました。
部下たちは、呆然とその光景を見つめていた。
「……なぁ、団長のアレ、ただの調理器具だよな?」
「……しっ。言うな。あれは『愛』だ。そういうことにしておけ」
彼らは深く頷き合い、見なかったことにして片付けを始めた。
一方その頃。
離れのコタツで蜜柑を食べていたリリアナは、
「……くしゅんっ!」
と可愛らしいくしゃみを一つした。
「誰か噂してるのかしら。……寒気がするわ」
彼女は設定温度を少し上げ、再び本の世界へと没頭していった。
【おしらせ】
※2/13(金)
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